警察を騙る詐欺電話などが増えてきた今、迷惑電話・詐欺電話対策として録音機能付き固定電話への買い替えを推奨する自治体が多くなっています。

一方でこの記事をお読みの方の中には、「そもそも固定電話をなくせば、固定電話を狙った詐欺電話はなくなるのでは?」という疑問を持つ方もいるでしょう。実際、警察庁が発表した資料によると、特殊詐欺の被害者の90.5%が固定電話への着信がきっかけで詐欺に巻き込まれているとのこと。
つまり、固定電話を解約すれば、その電話回線を標的とする詐欺のリスクは確かにゼロになります。また、不要なセールス電話の削減や、月額料金の節約といったメリットもあるでしょう。
そこで、固定電話の解約ではなく録音機能付き固定電話への乗り換えが2025年現在でも本当に必要なのか、詳しく見ていきましょう。
固定電話における「録音」の基本的なメリット
まず従来、家庭用の固定電話では必ずしも「録音機能」は重視されてきませんでした。「録音機能付き固定電話がある家もあれば、録音機能がない電話を置いている家もある」という形です。
録音機能付き固定電話はむしろ法人利用が主流で、たとえばクレーム対応時の証拠を確保するためなどに使われてきました。

たとえば「言った・言わない」のトラブルや、聞き間違い・聞き漏らしによる業務上のミス(受発注ミス、伝言ミスなど)を防ぐのが、録音機能付き固定電話の大きなオフィスでの用途でした。
こうした録音機能付き固定電話の家庭への導入に補助金を出す自治体が増えているのは、やはり「防犯」が大きな要素となるでしょう。
固定電話を利用する世帯には高齢者が多いことは、事実です。高齢世帯に対して「+1」「+44」などから始まる国際電話番号から固定電話に向けて電話をかけ、さまざまな詐欺を行うケースが増えています。たとえば警察官や検察官を名乗り「あなた名義の携帯電話が契約され、詐欺に使用されている」と電話で伝えてくる事例があります。

こうした証拠を確保しておくために、「録音」は一つの有効な手段です。一方で録音は一つの解決策ではあるものの、そもそも固定電話を置かなければこうした電話がかかってくるリスク自体も抑えられるのも1つの事実です。
固定電話廃止のメリット

固定電話廃止の最大のメリットは、特殊詐欺の「最初の接触点」を物理的になくせる点です。たとえば特殊詐欺グループが最初にターゲットに接触する際、固定電話に電話をする割合は9割以上とも言われています。
特殊詐欺の多くが固定電話への着信から始まる現状を踏まえれば、その入口を塞ぐ効果は大きいと考えられます。
同様に固定電話を対象とするセールス電話や迷惑電話を遮断でき、固定費の削減にもなるといった点で固定電話を廃止するメリットは大きいと言えるでしょう。
それでも「録音機能付き固定電話」が重視される理由は?
それでも地方を中心とする各自治体が「録音機能付き固定電話」を重視する理由は、固定電話がNTT法に基づくユニバーサルサービスの対象であり、高齢者になじみ深い存在である点が大きいでしょう。
長年使い慣れた固定電話に対する安心感や、携帯電話操作への不慣れから、固定電話を手放せない高齢者層は少なくありません。NTT法により、NTT東西は採算の取れない地域を含む全国で公平に固定電話サービスを提供する義務(ユニバーサルサービス)を負っています。これにより、他の通信手段を持たない、あるいは利用できない人々へのアクセスが保障されています。

しかしこれらのメリットがあるとはいえ、特殊詐欺の起点の9割は「固定電話」である事実はやはり無視できるものではないでしょう。「録音機能付き固定電話」への買い替えは詐欺電話がかかってきた際に録音により証拠を残せるという点で、固定電話を維持しながら詐欺対策を行う折衷案です。
一方で仮に高齢者を対象とする詐欺電話を社会問題としてとらえるならば「固定電話の必要性」そもそもがより論じられるべきタイミングが来ているのかもしれません。
※サムネイル画像は(Image:「photoAC」より)