2025年7月、農林水産省がユニークな取り組みを開始した。作業現場の安全啓発キャラクターとして親しまれている「仕事猫」のイラスト素材を、公式に無料配布したのである。省庁が人気キャラクターとコラボし、国の施策に活用するのは近年増えているが、今回は特に現場作業者への実用的なメッセージ発信を目的としている点が注目に値する。

仕事猫とは何か
「仕事猫」とは、イラストレーターのくまみね氏によって描かれた猫のキャラクターである。作業着やヘルメットを身に付けた猫が「ヨシ!」とポーズを決める姿は、SNSや掲示物などで広く親しまれている。特に工事現場や物流、製造業など、安全管理が重視される職種において、啓発素材として多用されてきた。

猫の可愛らしさと、ゆるい雰囲気ながらも的確な安全意識を表現している点が評価され、多くのファンを持つ。企業や自治体が使用許可を得てポスターやステッカーを制作する例も多い。
農林水産省が配布する理由
農林水産省は、農業・林業・水産業および食品産業の現場で発生する事故や労災を未然に防ぐための取り組みを進めている。作業機械の扱い、高所作業、重機との接触など、現場には多様なリスクが存在する。こうした環境において、安全意識を高めるためには、形式的なマニュアルだけでは不十分である。
そこで同省は、視覚的にわかりやすく、かつ親しみやすい仕事猫のイラストを活用し、安全啓発の浸透を図ろうと考えた。今回配布された素材には、ポスターやチラシ、SNS投稿に使用できるデータが含まれており、業種や場面に応じた使い分けが可能となっている。
素材の内容と使い道

配布された素材は、PNG形式などで提供されており、Webサイトや印刷物にも簡単に掲載できる。たとえば、「指差呼称」「保護具着用」「機械の停止確認」など、安全作業において重要なアクションを猫が実演しているイラストが用意されている。
現場の掲示板に貼る、社内報に掲載する、SNSで定期投稿するなど、使い方は多岐にわたる。特に若い従業員や研修中の新人に対しても、堅苦しくないかたちで安全意識を根付かせることができる点は大きな利点である。
ネット上での反響
この素材配布のニュースがSNSで拡散されると、多くのユーザーから「これはうれしい」「可愛いだけでなく実用的」「仕事場に貼りたい」といった肯定的な声が寄せられた。また、「『ヨシ!』以外のバージョンもあったら面白い」といったクリエイティブな要望も見られた。
一部のユーザーからは「実は数年前から素材自体は公開されていた」との指摘もあったが、今回は改めて公式サイト上で周知が図られたことで、広く認知されたかたちとなった。過去に国土交通省とのコラボ実績もあることから、省庁横断での活用が進む可能性も高い。
官民連携による啓発の可能性
今回のようなキャラクター活用は、省庁とクリエイター、現場事業者との間で生まれる新しい啓発のかたちである。従来、国の安全ポスターといえば、堅い文言と形式的なデザインが多かった。だが仕事猫のようなユーモアと親しみを兼ね備えたビジュアルは、職場で目に留まりやすく、記憶に残りやすい。
実際、すでに多くの企業や団体で仕事猫が採用されていることから、今回の公式素材の登場によって、より幅広い場面での展開が期待される。今後は教育現場や地域イベントなどでの使用事例も増えていくだろう。
今後の展望
素材自体は今後も随時更新される可能性がある。また、ユーザーからのフィードバックを受けて、「危険を避ける」「注意を促す」といったネガティブ方向のバリエーションが追加されることも考えられる。
さらに、省庁間連携により、農業以外の分野、たとえば建設業界やITセキュリティ分野などへの展開も十分にあり得る。経済産業省が展開するサイバーセキュリティ啓発や、地方自治体での交通安全キャンペーンとの連携も、実現すれば新しいかたちの公共サービスとなるだろう。
まとめ
農林水産省による「仕事猫」素材の公式配布は、官民連携による啓発施策として、きわめて現代的で効果的なアプローチである。作業現場における安全啓発において、可視性・親近感・実用性を兼ね備えた仕事猫は、今後ますます重要な役割を担う存在となっていくだろう。安全の「ヨシ!」を、現場から社会全体へと広げていく動きに注目したい。
引用:【農林水産省】
※サムネイル画像は(Image:「農林水産省」公式サイトより引用)