
かつて、ドライブのお供と言えばカセットテープやCDでした。好きなアーティストのアルバムを何枚も車内に持ち込み、音楽を聴きながら車窓の風景を眺めるのがドライブ中の楽しみだったという人も少なくないでしょう。
しかし、最近ではCDを再生するプレーヤーやデッキが自動車に搭載されていないということが珍しくありません。技術の進化は車内で過ごす時間の価値を大きく変えようとしています。
もはや車でCDやDVDを再生するのは「時代遅れ」なのでしょうか。詳しく見ていきましょう。
車でCDやDVDを再生するのはもう時代遅れ?

近年の新車では、カーナビが搭載されているケースは変わらず多いものの「車載のDVDデッキやCDプレーヤーが搭載されていない」ことが増えています。
たとえば、トヨタはDVDデッキやCDプレーヤーを搭載しない新車を積極的に販売。カローラやヤリス、ハリアーなどの車種はディスプレイオーディオを標準搭載しており、購入時の状態ではCDを再生することができません。

高速のSA・PAや、一般道の道の駅の売り場ではしばしば歌謡曲や往年のJ-POPのCDやカセットテープを販売しているケースが目立ちますが、そうした場で購入した音源を再生する手段が、少なくとも「新車」からは失われつつあることを意味します。
カーオーディオに代表される『車内エンターテイメント』の主流は、従来の形からは大きく変わってきているのは間違いありません。
『車内エンターテイメント』の歴史的進化:アナログからデジタルへ

そもそも車内エンタメのルーツは、1930年代のラジオに遡りますが、日本で「車内エンタメ」が一般に浸透し、注目を集め始めたのは1980年代〜1990年代のことです。CDプレーヤーの搭載が普及し、MDは1990年代中頃にコンパクトさと繰り返し録音の利便性でヒットしたのです。
しかし当時の車内エンターテイメントは傷つきやすいディスクの管理や、限られた曲数という欠点があり、今日の視点から見ると不便さも際立つものでした。
そうした潮流をさらに変えたのが、1990年代後半~2000年代に入って急速に普及したカーナビゲーションシステム(カーナビ)です。カーナビは単なる地図表示から、瞬く間にAV統合型へ進化し、音楽再生、DVD視聴、ワンセグTV受信が可能になり、車内は「ミニシアター」と化しました。
カーナビの開発ではパイオニアやケンウッドなどのメーカーが競い、画面サイズの大型化も進みました。
スマホ連携の時代:ディスプレイオーディオとコネクテッド技術
2010年代後半からは、ディスプレイオーディオ(DA)の時代に突入しています。ディスプレイオーディオはスマホ連携を前提とした製品であり、ナビ機能はスマホアプリに依存し、音楽や動画を大画面で楽しむことに特化した端末です。
カーナビの簡易版として認識されることもしばしばある製品ですが「スマホアプリ経由でマップを使用するため、ナビ情報が常に最新である」「ディスプレイオーディオとスマホを連携することで、音楽再生や通話などスマホ機能の利用が運転しながらでも容易である」などカーナビを上回る点も多々あります。
「Android Auto」と「Apple CarPlay」は運転体験をどのように変えたのか?

スマホ連携を前提とする、現代の車内エンタメを象徴している技術が、Googleの「Android Auto」とAppleの「Apple CarPlay」です。これらはスマホを車載ディスプレイにミラーリングし、運転中の安全性を考慮したインターフェースを提供しています。2015年に日本で本格導入され、国産車に広く対応済みです。
「Android Auto」と「Apple CarPlay」は運転体験を、車載カーナビやCDプレーヤー、DVDデッキに依存していた状況を大きく変えました。
・GoogleマップやYahoo!カーナビなど日常で使い慣れたナビアプリによる、ナビゲーション
・YouTube Musicなどストリーミングサービスの車内での利用
・メッセージアプリ(LINE、WhatsAppなど)などスマホ機能を運転中でも安全に利用するインターフェースや操作性の提供
こうした機能はいずれも「Android Auto」と「Apple CarPlay」が実現したもので、インフォテインメントの進化は、Bluetooth音楽や動画再生を標準化し、車内をエンタメハブに変えたと言えるでしょう。
『車内のエンタメハブ化』という概念やそれを実現する技術の重要性は「レベル3以上の自動運転」の実現後には、急激に上昇するでしょう。レベル3以上の自動運転ではドライバーがハンドルから手を離すことが可能となり、車内時間が「余暇」に変わるためです。車内エンターテイメントの進化は「レベル3以上の自動運転の普及」を見越した前哨戦と言えるのかもしれません。
新車からCDプレーヤーやDVDデッキを廃止する「メーカー側のメリット」は?
スマホ連携を前提とした製品や技術の普及によって、従来の「CDプレーヤー」「DVDデッキ」による車内エンターテイメントは急速に過去のものへと変わりつつあります。
レベル3以上の自動運転が普及した暁には、車内は余暇の時間に変わります。車内の時間の楽しみ方を多様化するという意味では、CDプレーヤーやDVDデッキは「使用機会は少ないかもしれないが、残しておいても良い製品」とも考えられます。
ではCDプレーヤーやDVDデッキを廃止する「メーカー側のメリット」は何なのでしょうか?
結論から言えば省スペース化の実現に加え、故障リスクが高い部品を車から廃止できることが最大のメリットでしょう。
CD/DVDプレーヤーは多くの可動部品を持つため、物理的な故障のリスクが常に伴います。たとえば、「ディスクの読み込み不良」「振動による音飛び」「ディスクの排出ができない」といったトラブルは、従来のカーオーディオでは珍しくありませんでした。これらの機械的な故障は、メーカー保証期間内であれば修理コストとして跳ね返ってきます。物理ドライブを廃止することで、故障の要因を一つ減らし、製品全体の信頼性向上と、長期的な保証コストの削減に繋がります。
またCDプレーヤーやDVDデッキは狭い車内において、広いスペースを要求する部品です。それらを廃止することでスマートフォンを置くワイヤレス充電トレイや、より大型のディスプレイといったより現代的なニーズに合った部品や収納を提供できるようになります。
自動車にCDプレーヤーやDVDデッキが再登場する未来は来ない?
残念ながら自動車の電子化・ソフトウェア化が急速に進む中で、物理メディアへの回帰は時代の流れに逆行しているのが、現状です。スマートフォン連携を前提としたエコシステムが整いつつある今、あえて旧世代の技術に戻るメリットはメーカーにもユーザーにもほとんどありません。
レコードが一部の愛好家向けに復活したような「レトロブーム」がカーオーディオに来る可能性もゼロではありませんが、それはおそらく、非常に高価なハイエンドオーディオのオプションや、カスタマイズパーツといった、限られたニッチな領域にとどまるでしょう。
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