いぬきち(@chuki_zaru)さんがXで紹介した職場の一幕が、テレワーク時代の“接続規格ギャップ”を的確に突いていて面白い。自宅の押し入れから外付けキーボードを持ち出した社員が、ノートPCに接続しようとしても物理的に差し込めない。先端が丸いため、そもそも差し込めないのだ。会話のなかで端子が「丸い」と聞いてピンと来る人は多いはずだ。そう、昔のPCで一般的だったPS/2端子である。

丸い端子=PS/2端子。紫はキーボード、緑はマウスだが、現行ノートには基本ない

PS/2は六つの小さな穴が並ぶ丸形コネクタで、キーボードは紫、マウスは緑という色分けが定番であった。長らくデスクトップPCの背面に並び、電源投入前に接続して使うのが普通だった。しかし周辺機器の接続がUSBへ統一されていく流れのなかで、PS/2は急速に姿を消した。特にノートPCでは廃止が早く、いま新品でPS/2ポートを備えるモデルはまず見かけない。ゆえに、丸い端子のキーボードを最新ノートに直挿しすることは構造上できないのである。
この“接続できない問題”は故障でも初期不良でもない。規格そのものが違うという単純で強烈な事実であり、在宅勤務やリモート作業で久々に周辺機器を取り出した人がつまずきやすいポイントである。ケーブルの形状が違えば互換性はない――ITの基本だが、実務の現場では案外忘れられがちである。
まだ使うか、きっぱり買い替えるか。アダプターという選択肢と落とし穴

では、丸い端子のキーボードは即処分が正解なのかといえば、必ずしもそう断じる必要はない。PS/2をUSBに変換するアダプターが市販されており、一部の機種では現行PCでも利用できる。ここで重要なのは二点だ。第一に、安価な小型アダプターは「デュアルモード対応」と呼ばれる一部のキーボードでしか動作しない場合があること。第二に、確実性が高いのは内部に変換回路を持つ“アクティブ型”のコンバーターだが、価格は上がり、配線もかさばることが多いということだ。
さらに、キーボード自体が十数年前の個体であるなら、スイッチやゴムドームのヘタり、接点の酸化、ケーブルの劣化など、打鍵感や信頼性で劣化が目立ちやすい。メカニカルの名機や特殊配列など“残す理由”があるものは別として、日々の仕事でストレスなく打つことを重視するなら、USBまたはBluetoothの現行モデルに乗り換えるのが合理的である。テンキー配置、キーピッチ、静音性、マルチペアリングなど、いまの製品は選択肢が広く、ノートとの相性も取りやすい。
捨てる前に一点だけ付け加えると、レトロPC愛好家の間では古いインターフェースの需要がある。状態のよいメカニカル品は中古市場で価格が付くこともあるため、自治体の小型家電リサイクルに出す前に、下取りやフリマでの評価を調べてみる価値はある。

令和のワーク環境で困らないために。備品の棚卸しと“いまの標準”の把握
今回のやり取りが示すのは、個人の“記憶の標準”と実際の“市場の標準”がズレたときに生じる摩擦である。自宅の押し入れには、PS/2だけでなく、パラレル、S端子、VGA、DVI、FireWireなど、当時は当たり前だったコネクタの機器が眠っていることが多い。ところが現在のPCはUSB-AやUSB-C、映像ならHDMIもしくはUSB-C Alt Modeが中心だ。会社貸与のノートは拡張ポートを最小限に抑える傾向が強く、古い周辺機器との直接接続はますます難しくなっている。
実務面では、在宅勤務に入る前に備品の棚卸しを行い、手元の機器が現行の端子で接続できるかを確認しておくことが有効である。必要ならばドッキングステーションやUSB-Cハブ、Bluetoothキーボードの支給を申請し、会社のITポリシーに沿った機器で統一する。私物機器の流用は便利だが、ドライバーの出所やファームウェアの更新履歴が不明なものはセキュリティ上の不確定要素になりうる。最新OSでの動作保証や暗号化、ファームの更新提供など、企業利用に耐える条件を満たす製品を選ぶのが安全である。
スマホ・タブレット視点でも、知っておくと役立つ。たとえばiPadやスマホはBluetoothキーボードとの相性がよく、マルチデバイス対応モデルならノートPCと同じキーボードをボタンひとつで切り替えて使える。USB-C搭載機なら有線キーボードもOTGでつながる。仕事と私用の入力体験をそろえることは、学習コストの削減と作業速度の向上につながる。
結論:規格の断絶は笑い話で終わらせ、次の快適さに投資する
いぬきち(@chuki_zaru)さんの「丸い端子」エピソードは、技術の進化が生む断絶をユーモラスに切り取っている。原因は故障ではなく規格の世代差であり、アダプターで延命する手はあるが、日常の生産性という観点では現行規格にそろえるのが近道である。接続の常識は数年で変わる。だからこそ、在宅や出先で“挿さらない”という時間のロスを避けるために、端子の標準と手元の装備を定期的に見直しておきたい。
押し入れから出てきた懐かしの周辺機器に再会したら、まずは規格を確認する。コレクションとして残すのか、アダプターで使うのか、思い切って買い替えるのか。笑い話にしつつも、明日からの仕事をより快適で確実に進められる判断をしたい。それが令和のワーク環境における正しい“入力デバイスとの付き合い方”である。
社員「この間ノートPCを初めて持って帰ったんだけど、押し入れから引っ張り出してきた外付けキーボードが使えなくてさ。そもそも、挿さらないんだよ、先っぽの形が違うから」
— いぬきち (@chuki_zaru) September 18, 2025
ワイ「端子は丸いです?」
社員「それそれ!15年以上前に買ったPCのヤツ」
もう捨てて良いかもしれませんww pic.twitter.com/Ghgsjzo5MI
※サムネイル画像(Image:「いぬきち(@chuki_zaru)」さん提供)