iPhone/Androidスマホやキャッシュレス決済、SNS、アプリに関する情報サイト スマホライフPLUS
スマホライフPLUS > パソコン・ITニュース > 英国で進む急進的なインターネット規制は妥当?
New

【ポルノ規制】英国で進む急進的なインターネット規制は妥当?日本でもネット規制が進む?

【ポルノ規制】英国で進む急進的なインターネット規制は妥当?日本でもネット規制が進む?の画像1
(Image:Shutterstock.com)
この記事の画像(6枚)

インターネット上の有害情報から子どもを守ることを目的とした急進的な法規制が、いま世界的な議論を呼んでいます。その中心となっているのがイギリスです。

【ポルノ規制】英国で進む急進的なインターネット規制は妥当?日本でもネット規制が進む?1
(画像はスマホライフPLUS編集部作成)

発端となったのは、英国で段階的に施行が進む「オンライン安全法(Online Safety Act)」に基づく厳格な年齢チェックの義務化です。実際、世界最大級のポルノサイト「Pornhub」が、英国からの訪問者が7月と比較して実に77%減少したと主張していることが、英BBCによって2025年10月30日に報じられました。

同法は、未成年者が有害コンテンツにアクセスするのを防ぎ、また成人ユーザーが自身でコンテンツのコントロールをより強固にできるようにすることを目的としています。この法律の規定により、英国のインターネットユーザーがアダルトサイトや出会い系サービスなどにアクセスする際、18歳以上であることを証明するための厳密な年齢確認が必須となりました。

年齢確認の手段として、顔認証による年齢推定、身分証明書の照合、銀行口座の連携、デジタルID、クレジットカード認証、モバイル回線情報などが挙げられており、その手法は極めて広範かつ厳格です。

ここで問題となるのは、「子どもの保護」を大義名分に、公的機関ではない民間のインターネット事業者に、事実上“公的機能”としての厳格な本人確認を強制する点です。

英国で進む急進的なインターネット規制は、本当に妥当だと言えるのでしょうか。

英国の「オンライン安全法」の目的は?

この法律は、オンライン上のリスクからユーザーを守るという大義名分のもとに、プラットフォーム運営者にコンテンツ管理の責任を厳しく課すものです。ポルノサイトの場合、その義務を果たすために、利用者が成人であることの確実な証明が求められます。

この「確実な年齢確認」を実現するための手段として、以下のようなものが挙げられています。

・顔認証による年齢推定
・身分証明書の照合
・銀行口座の連携
・デジタルIDの活用
・クレジットカード認証
・モバイル回線情報

英国の「オンライン安全法」の目的は?1
(画像はスマホライフPLUS編集部作成)

同法の目的は「インターネット上で子どもたちを安全に守る」という、誰もが賛同し得る大義にあります。たとえばダークウェブなどに流通する児童の性的虐待やテロ、違法薬物などの有害コンテンツを規制することは、現代社会において緊急の課題であり、その点においては法律の必要性は高いと言えます。

ただし、同法が大きな議論を巻き起こしている要因には、こうした規制がポルノサイトといった成人向けコンテンツの領域だけに留まらないことが挙げられます。世界中のユーザーに悪影響を与える可能性があるのです。

英国の「オンライン安全法」の目的は?2
(画像は「Wikipedia」より引用)

たとえばウィキペディア(Wikipedia)を運営する非営利団体「ウィキメディア財団」は、この法律に対し強い懸念を表明しています。

ウィキペディアが懸念したのは、同法が定める規制レベルのうち、最も厳しい「カテゴリー1」(大規模な商用プラットフォームやソーシャルメディアを念頭に置いた分類)に分類される可能性が浮上したことです。

財団の説明によると、ウィキペディアがカテゴリー1に指定された場合、サイトは違法コンテンツへの対応として、ユーザーの身元確認や匿名ユーザーの投稿をブロックしなければならない義務を負う可能性があります。

ウィキペディアは、世界中のあらゆるボランティア編集者によって支えられている非営利の知識共有プラットフォームです。もし、ボランティア編集者が顔認証や身分証明書の照合、銀行口座の連携など、厳格な身元確認を求められることになれば、匿名性による活動が前提となっている彼らのプライバシーと安全が脅かされることになります。

つまり英国のインターネット規制は、ウィキペディアの運営哲学である「誰もが編集できる」という原則を根底から揺るがすものです。もし、これらの個人情報提出が義務化されれば、匿名で活動したい編集者は激減し、ウィキペディアの多様性やコンテンツの質に深刻な打撃を与えるでしょう。そして、この規制の波は国境を越えて及ぶため、日本のユーザーも影響を免れません。世界中のインターネットサービスが英国の法規制に対応せざるを得ない状況に直面しているのです。

ウィキペディアのケースはあくまで一例に過ぎず、法の影響は英国内のユーザーに対してサービス提供を行う広範なウェブサービスに及んでいます。実際、この法律の厳格さから、一部のウェブサービスはクローズ、あるいは英国を地理的に遮断する形での対応が進行しているのが現状です。

合法的サービスも規制の対象に

合法的サービスも規制の対象に1
(画像はスマホライフPLUS編集部作成)

さらに英国内では、児童委員からVPNサービスの利用に年齢確認を義務付けるべきという提言が出され、議論が活発化しています。

そもそもVPNはインターネットなどの公衆ネットワーク上に、特定の利用者だけが使える安全な「仮想の専用回線」を構築する技術ですが、これを使い、年齢確認が必要なアダルトサイトにアクセスするユーザーが増えているとのこと。

つまり、当然ながらVPNサービスがポルノコンテンツを提供しているわけではないにもかかわらず、規制の対象にすべきだという意見まで出ています。そのため、合法的なサービスまで規制が及ぶのではないかという懸念が高まっています。

規制は「子ども保護」の名の下に妥当か?

同法の規制には「子ども保護の大義名分による過剰規制ではないか」という批判も多く上がっています。ウィキペディアの猛抗議に代表される「プライバシーの侵害」「表現の自由への深刻な脅威」などが主な批判の理由です。

匿名性の喪失

匿名性の喪失1
(Image:Shutterstock.com)

公的機関ではないプラットフォーム事業者に、顔認証や口座紐づけ、デジタルIDなどを用いた年齢確認を強制し、半ば「公」としての役割を強制する構造は、民主主義社会におけるインターネットのあり方を根本から変える可能性があります。

その最たる変化が「インターネット空間から匿名性が失われる」ことでしょう。

匿名性の喪失は、特に権威主義的な国家において、表現の自由を萎縮させる大きな要因となります。平時では、匿名性が損なわれることやVPN規制が進むことのデメリットは実感しづらいかもしれません。しかし、有事の際には「匿名性の喪失」は、言論の自由にとってあまりに大きなマイナスになり得るのです。

自らの身分を明かさずに意見を述べたり、社会的な不正を告発したりする行為が困難になることは、民主主義社会の健全な機能にとっても脅威となります。

英国内のユーザーにとってのデジタルデバイド

「オンライン安全法」は、その罰則の厳しさ(年間売上高の10%または1,800万ポンドのいずれか高い方の罰金)からも、企業に過剰な自己検閲を促すインセンティブが働きやすく、結果として「子どもに有害なコンテンツ」という曖昧な基準で合法的なコンテンツまでもが広く削除されるリスクがあります。

そのため英国からグローバルなIT事業者が次々撤退する可能性も高まっています。これは、英国のインターネットユーザーが享受できる情報やサービスが減少し、デジタルデバイドを引き起こす可能性があります。

着実に進むネット規制

一方、日本国内ではどうでしょうか。インターネット上の誹謗中傷や子どもを狙った性犯罪の温床となる情報の拡散は、依然として深刻な社会問題です。これに対し、総務省や法務省を中心に対策が議論され、着実に法整備が進められています。

たとえば、プロバイダ責任制限法は改正され、インターネット上での権利侵害があった際、被害者が加害者(発信者)の情報を開示請求する手続きが簡素化されました。これにより、権利侵害に対する救済が迅速化されることが期待されています。

また、電気通信事業法においても、SNSなどの「プラットフォーム」を提供する事業者に対する規制が強化されています。大規模なプラットフォーム事業者に対して、適切な情報開示や利用規約の整備、利用者からの苦情処理体制の確保などが義務付けられ、透明性と責任の強化が図られています。

これらの日本の規制は、英国のオンライン安全法と「インターネット上の安全性を高める」という点では共通の方向性を持っています。しかし、現時点では英国のように、全ユーザーに対する厳格な個人情報認証を義務付けるような、匿名性を根本から否定する一歩踏み込んだ規制には至っていません。

とはいえ日本国内でもインターネット上の課題解決に向けた規制は進んでおり、その議論の中で、英国の「オンライン安全法」のような全ユーザーに対する厳格な本人確認を伴う規制が議論されるタイミングが来るかもしれません。

私たちは、インターネットの安全性と、その上で保証されるべき表現の自由やプライバシー権との間で、常に最適なバランスを見つけ続けなければなりません。英国の事例は、インターネット規制がもたらすメリットとデメリットを深く考察するための、重要な警鐘として捉えるべきでしょう。

※サムネイル画像(Image:Shutterstock.com)

スマホライフPLUS編集部

スマホライフPLUS編集部

スマホライフPLUSは、スマホやデジタルサービスを活用するための情報を提供するITメディアです。
iPhone・Androidの便利な使い方、SNSの活用術、キャッシュレス決済、ネット銀行、金融アプリなど、日常生活に役立つテクニックやお得な情報を紹介・レビューしています。スマホが欠かせない時代に、より賢く活用するためのヒントを独自の視点から発信しています。

【ポルノ規制】英国で進む急進的なインターネット規制は妥当?日本でもネット規制が進む?のページです。スマホライフPLUSは、【パソコン・ITダークウェブPornhubインターネットウィキペディア】の最新ニュースをいち早くお届けします。