
ここ最近、メモリやSSD、HDDといった主要なストレージパーツの価格が、以前と比べて大幅に上昇していることに驚いた方も多いのではないでしょうか。特に2025年秋以降、その値上がりは急激で、筆者が確認した限り、2025年10月以前と比べて11月時点で2倍前後、製品によっては3倍近くに高騰しています。
過去のような「待てば確実に値下がりする」局面ではなく、2025年末時点では、中長期的な価格上昇や高止まりを懸念する声が強まっています。なぜこれほどまでに価格高騰が止まらないのか。その理由を見ていきましょう。
メモリやSSD、HDDの価格高騰や受注停止の動きについて

メモリやSSD、HDDなどのパーツは2025年冬現在「高い」だけでなく、「モノがない」「注文が通らない」状態に突入しています。PCパーツのメーカー各社が、代理店に対して「年内の新規受注を停止する」または「注文を断る」という異例の対応を取り始めているためです。
一部の店舗では、メモリやSSD、HDDに対して購入制限を設けざるを得ない状況に追い込まれています。また、購入制限のない店舗では、個人や業者が数十個単位でまとめ買いするケースが頻発し、中古市場ですら在庫が枯渇し始めているのです。
世界的なAI需要が引き起こしたPCパーツの供給不足

なぜ、これほどまでに在庫が不足しているのでしょうか。一言で言えば、AIデータセンター向けの需要が急増し、PCやスマートフォン向けを含む従来用途よりも優先される構図になったことが、今回の供給不足の大きな要因の1つです。
2025年現在、GoogleやMicrosoft、OpenAIといった巨大IT企業は、自社のAIサービスの性能を向上させるため、世界中でデータセンターの建設を急ピッチで進めています。さらに各国の政府主導による「ソブリンAI(国家主権AI)」のためのインフラ整備も進んでいます。
これらのAIデータセンターでは、AIモデルの学習や推論に、従来とは比較にならないほど大量の高性能なメモリやストレージが必要とされます。
特に需要が集中しているのが、HBM(High Bandwidth Memory/高帯域幅メモリ)と呼ばれる特殊なメモリです。HBMは、AIチップの性能を最大限に引き出すために不可欠であり、半導体メーカー各社は、この収益性の高いHBMの生産に製造ラインを優先的に割り当てています。
その結果、普段PCで使用するDDR5やDDR4といった汎用メモリや、SSDに使われるNANDフラッシュメモリの生産が後回しにされ、供給量が減少しています。
半導体メーカー側の対応
AI向けの需要急増に加え、供給側である半導体メーカーの戦略も価格高騰に拍車をかけています。

そもそも半導体とは、ほぼすべての電子機器に搭載されている部品です。デジタル機器を動かす「頭脳」であり、「制御装置」の役割も担っています。機械が考えたり、動きを制御したりできるのは、半導体チップがあるからです。
半導体チップ1枚の中で計算(CPU/GPU)、記憶(メモリ)、制御(センサー・通信)が実行されることで、機器は「判断・動作・通信」が可能になります。
半導体業界は過去に何度も供給過剰による価格暴落(いわゆる「シリコンサイクル」の谷)を経験してきました。その教訓から、メーカー側が意図的に増産を抑制し、供給量をタイトに保つことで、価格の安定(あるいは高値維持)を図っているという側面も一部では指摘されています。
つまり、現在の供給不足は、単なる生産能力の問題だけでなく、メーカーの戦略的な判断も絡んだ、複合的な要因によって引き起こされているのです。各社の投資計画やアナリストの試算では、現在のペースのままではAI向け需要に十分追いつけず、相当規模の新工場投資と増産が必要になると指摘されています。
しかし、半導体工場の建設には数兆円規模の投資と数年の期間が必要であり、おいそれと増やせるものではありません。一部のメモリメーカー幹部やアナリストは、2026年以降、NANDフラッシュなどが数年〜10年規模で慢性的な供給不足に陥る可能性があるとしています。
「恒常的なメモリやSSD、HDDの供給不足」に消費者はどう向き合うべきか?
「恒常的なメモリやSSD、HDDの供給不足」は深刻な問題です。例えばRaspberry Piは、2021年の半導体不足時や2025年のメモリ高騰局面に、メモリの供給不足と価格上昇を理由に、一部モデルを5〜10ドル値上げせざるを得ませんでした。
世界中でAIデータセンターの建設ラッシュが続く限り、メモリとストレージの需要拡大と高騰は止まらず、一般消費者向けの製品が供給不足と価格高騰に見舞われる状況は、長期化する可能性が高いのです。
今後、PCパーツや本体はもちろん、スマートフォンやゲーム機など、メモリやストレージを搭載するあらゆる製品の価格に影響が及ぶことが十分に考えられます。
メモリやストレージの供給がメーカー側の大元で絞られている以上、メモリやSSD、HDDは店頭在庫が尽きれば次の入荷は未定、あるいは価格改定後の高い値段での入荷となる可能性があります。
残念ながら、少なくとも短期的に半導体価格が暴落する要因は見当たりません。むしろ、年末から2026年にかけて在庫がさらに枯渇し、価格が一段階切り上がる可能性が高いでしょう。
2025年末現在、メモリやSSD、HDDを入手したい場合「今が一番安い」と割り切り、店頭で見かけた際は、購入を検討するのも現実的な選択肢でしょう。
※サムネイル画像は(Image:「photoAC」より引用)




