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『カーナビ王国ニッポン』が衰退したのはなぜ?販売台数減少の理由と今後の展望

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(画像は「photoAC」より)
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かつて日本は、世界に先駆けてカーナビゲーションシステム(以下、カーナビ)を開発・普及させ、「カーナビ王国」として世界市場を席巻しました。

特に1990年代には、日本の技術力が結集された高機能なカーナビが次々と登場しています。たとえば1990年、マツダと三菱電機が共同開発し、ユーノス・コスモに搭載された「CCS(カーコミュニケーションシステム)」は、世界で初めてGPSを搭載したカーナビとして販売開始。これを皮切りに、パイオニアが市販モデル「AVIC-1」を発売するなど、日本メーカーが参入し市場が拡大する一方、海外メーカーの技術進歩により、日本製カーナビの評価は徐々に相対的に低下し、ブランド価値の下落や消費者離れにつながりました。

しかし00年代以降、カーナビ市場には徐々に陰りが見え始めています。昨今はナビアプリやディスプレイオーディオの台頭や、海外勢のナビ性能の上昇もあり、欧米諸国や中国の製品に対して技術的な優位性を必ずしも示すことができない状況も生まれてきています。

「カーナビ王国ニッポン」の栄光は、もはや過去のものなのでしょうか?

カーナビの衰退のはじまり

カーナビの衰退のはじまり1
(Image:Shutterstock.com)

1990年代を通じて、日本のカーナビは急速な進化を遂げました。1992年には初の音声案内機能、1996年にはVICS(道路交通情報通信システム)によるリアルタイム渋滞情報取得が実現し、1990年代後半にはCD-ROMからDVD-ROMへの大容量化により、全国の詳細マップが1枚に収まるようになるなど、世界最先端の技術を次々と導入していきました。

一方で、電子情報技術産業協会(JEITA)の統計によると、日本のカーナビ出荷台数は近年、著しい減少傾向にあります。たとえば、2023年の出荷台数は約392万台と前年比で10.9%減少し、さらに2025年8月には月間出荷台数が18万台(前年同月比32.6%減)にまで落ち込むなど、市場の縮小が続いています。

この要因には、EV市場での対応の遅れや「ハードウェアに重きを置く日本製のナビに対して、ソフトウェア中心のナビが台頭したこと」などが挙げられます。

電気自動車(EV)市場への対応の遅れ

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(画像はスマホライフPLUS編集部作成)

電気自動車分野では、テスラやBYDといった先進企業が車両のハードウェアとソフトウェアを一体的に開発し、OTA(無線アップデート)を通じて頻繁に機能を改善しています。一方、日本の自動車メーカーはソフトウェア開発プロセスが長く、従来のカーナビメーカーはガソリン車を想定していたため、充電スタンド検索、航続距離管理、充電時間を考慮した経路提示といったEV特有の高度な機能への対応が遅れています。​

一方、日本のEVシェアは2.7%であることからこうした遅れは国内市場では目立ちません。ハイブリッド車が50%超を占めており、ユーザーがEV対応ナビの不足を意識する機会はほとんどありません。しかし中国やヨーロッパなどの海外市場では、BYDやテスラの高度なインフォテインメント機能が標準となりつつあり、日本車のナビは「使いにくい」と評価されるようになっています。​​

この背景には、日本メーカーと海外メーカーの組織体制の違いがあります。テスラやBYDは垂直統合型で部品開発から完成まで統制でき、ハードウェアとソフトウェアの統合的改善が可能です。一方、日本メーカーはカーナビメーカーなど複数のサプライヤーに依存する分業体制のため、統合的な開発が難しく、ソフトウェア開発の高速化も阻まれています。結果として、海外市場での消費者評価の低下がブランド価値全体を蝕み、消費者離れを招く要因になっているのです。

ナビアプリやディスプレイオーディオの台頭

ナビアプリやディスプレイオーディオの台頭1
(画像は「Apple」公式サイトより引用)

EV分野では車両のハードウェアとソフトウェアの一体型の開発が主流であり、その開発を下支えするのがApple CarPlayやAndroid Autoといった、スマートフォンを車載ディスプレイに接続して利用するプラットフォームの採用及び標準化です。

ドライバーが自身のスマートフォンを接続するだけで、使い慣れたナビアプリを車載ディスプレイに表示して利用できる仕組みです。

ナビアプリやディスプレイオーディオの台頭2
(画像はスマホライフPLUS編集部撮影)

Googleマップは現状「より早い」道を優先的に案内するアルゴリズムが主に採用されているため、実際には自動車が通るには不便な裏道や狭い道がルートに含まれがちです。総じて、カーナビに特化したアプリとは言えません(※)

また、自動車メーカーにとっては、高価なカーナビを標準装備するよりもコストを抑えられ、ユーザーにとってはスマホの機能をそのまま車内で使えるというメリットがあります。

結果、新車購入時に高価なメーカーオプションのカーナビを選択したり、後から市販のカーナビを取り付けたりする需要が大幅に減少し、単体カーナビ市場の縮小に拍車をかけたと言えるでしょう。

(※注:2025年11月にはGoogleマップにGeminiが搭載し、運転中でもAIを音声で呼び出してルート変更することが可能となり、ナビ機能の改善が進んでいます。この機能は12月現在、日本では未対応ですが、今後日本で搭載される可能性も充分考えられます)

ハードウェア中心の開発は「時代遅れ」?

従来の自動車産業では、車両本体や精密な機械部品といった「ハードウェア」こそが付加価値の中心であり、ソフトウェアはそれを制御・補完する脇役と見なされがちでした。そして日本では、自動車メーカーとカーナビメーカーが強固な連携を持ち、新車販売時に純正ナビとしてセットで販売するビジネスモデルが主流でもありました。

ソフトウェア開発の優先度の低さや「純正ナビ」のビジネスモデルは、長きにわたって汎用性の高い自動車関連のソフトウェア開発や外部連携へのインセンティブが働きにくい構造を作り上げたと言えるでしょう。

こうしたビジネスモデルやハードウェア中心の開発体制は、現在まさに大きな転換点を迎えています。

かつて市場を牽引した日本のカーナビメーカーは苦境に立たされています。たとえばカーナビのパイオニア的存在であったパイオニアは、経営不振から2025年に台湾企業の傘下に入りました。

追い打ちをかけるように、GoogleやAppleといった巨大ITプラットフォーマーがナビアプリ市場を席巻する一方で、ハードウェア分野でも海外勢の猛追が激しくなっています。たとえば中国では現地のIT企業(百度やアリババなど)と自動車メーカーが連携し、AIや独自の音声認識技術を組み込んだ車載インフォテインメントシステムを次々と開発しています。

自動運転時代における新たな「カーナビ」の役割とは

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(画像はスマホライフPLUS編集部作成)

ナビゲーション機能はもはや特別なものではなく、スマートフォンが提供する数ある機能の一つとして認識されています。車の買い替えタイミングで、専用カーナビからナビアプリへ移行するドライバーは今後も増え続けると考えられます。

一方で、中長期的な視点で見れば、新たな活路も見出せます。それは開発競争が激化している「自動運転」の分野です。自動運転車が安全に走行するためには、自車の正確な位置を把握し、周辺状況を認識するための高精度な3次元地図データと、それを処理する高度なシステムが不可欠です。これは、まさにカーナビが長年培ってきた技術の延長線上にあります。

自動運転の時代におけるカーナビは「カーインフォテインメント」のデバイスとして再定義され、ドライバーや同乗者に新たな移動体験を提供するプラットフォームになる可能性があります。

2025年は、日本の自動運転が本格的に社会に導入され始める「社会実装元年」とされています。自動運転の安全性確保に不可欠な高精度3次元地図データにおいて、日本企業はセンチメートル級の精度を実現しており、LiDARセンサーなど関連技術でも国際的な競争力を保持しています。かつて「カーナビ王国ニッポン」と呼ばれた日本が有する地図・ナビゲーション技術の蓄積は、自動運転という新たな競争軸での優位性の基盤となるのです。​

国内における自動運転の研究や実用化はまだまだ先が長いものの「カーナビ王国ニッポン」及び日本の自動車産業はEVの一歩先、自動運転で世界をリードしていくことが不可欠です。EV市場での不利な立場を補うためにも、自動運転という次の戦場では、長年培ってきた地図技術、センサー技術、品質管理の文化を最大限に発揮し、国際競争に勝ち抜くことが急務なのです。

※サムネイル画像は(Image:​「photoAC」より)

スマホライフPLUS編集部

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