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AIに「最先端の半導体」は不要? DeepSeekで使われている(?)技術『蒸留』とは

AI開発において「最先端の半導体が必須」という常識が、2025年に揺らぎ始めています。その発端となったのは、1月20日に中国製のAI「DeepSeek」が、最先端のNVIDIAのチップを使わず、型落ちのGPUを使って低コストで高いパフォーマンスを発揮するモデル「DeepSeek R1」を発表したこと。

奇しくもアメリカは同月に中国やロシアへのNVIDIAなどのAI半導体の輸出規制強化を発表。そんな中、NVIDIAの最先端チップを使わないということは、中国が技術的にアメリカに依存せず、独自に開発力を高めている可能性があります。

「DeepSeek R1」の開発にかかったコストはOpenAIがChatGPTの開発に投じた費用のおよそ3%とも言われており、「AI開発には最先端の半導体が必要」という常識は変わりつつあるのかもしれません。
今回はDeepSeekに利用されていると見られる技術『蒸留』と、AIに「最先端の半導体」はもう不要なのかを解説します。

AIに「最先端の半導体」は不要?

冒頭で述べた「DeepSeek」は発表後、大きな注目を集め、「App Store」の人気アプリランキングでOpenAIの「ChatGPT」を上回り、一時的にランキング一位に躍り出ました。

ChatGPTは、たとえば最新の推論モデル『o1』の利用には月額3万円がかかります。一方で、DeepSeekは完全無料で利用可能。しかも『R1』モデルは、OpenAIの『o1』モデルに匹敵する性能を持つとされています。

性能の低いAIチップでOpenAIの推論モデル『o1』に匹敵する性能を実現できるならば、AIに対する巨額投資はそもそも不要ではないか、と考える方は決して少なくはないでしょう。2025年、DeepSeekの発表後にNVIDIAの株価が下落したのはその現れでもあります。

AIに対する巨額投資の例

DeepSeekが市場に衝撃を与える反面で、AIに対する巨額投資を続ける例も存在します。ソフトバンクが発表した『Stargate Project』はその代表格であり、OpenAIによるAIインフラの構築に対し、今後4年間で5000億ドルの投資計画を発表済みです。

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(画像は「ソフトバンク」公式サイトより引用)
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さらにソフトバンクグループは2025年2月3日、OpenAIと企業向けAI「クリスタル・インテリジェンス」の開発・販売に関するパートナーシップを発表。クリスタル・インテリジェンスは、企業ごとのニーズに合わせてカスタマイズされるAIで、ソフトバンクグループは年間30億ドルを投資して展開をしていく見込みです。

最先端の半導体を用いずともo1モデルに相当するAIモデルの開発が可能であるならば、そのうえでなおAIインフラに投資する意義とは何か、と疑問に思う方がいても不思議ではない額の投資であるでしょう。

DeepSeekとChatGPTの性能差はどの程度?

実際、DeepSeekとChatGPTにはどの程度の性能差があるのでしょうか?

なお、DeepSeekを利用するにはアカウント登録もしくはGoogleアカウントを使用してログインする必要があります(※)

(※)情報漏洩の懸念から国内企業ではDeepSeekの利用を禁止するケースもあります。そのためDeepSeekの利用は自己責任で行いましょう。

まず、DeepSeekのサイトにアクセスします。

DeepSeekとChatGPTの性能差はどの程度?1
【1】Web版を使用する場合は、①「Start Now」をクリックします。スマホからアプリで利用したい場合は、「Get DeepSeek App」からアプリをダウンロードしましょう
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【2】②新しくアカウントを作成する場合は「Sign up」、Googleアカウントを使用してログインする場合には「Log in with Google」より進みましょう
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【3】アカウント作成もしくはログインが完了するとDeepSeekのトップ画面が表示されます。③中央の入力欄に指示を入力し、④「↑」をクリックでプロンプトを送信します。自動的にプロンプトに応じた回答が生成されます

なおDeepSeekの公式サイトから『DeepSeek』を利用することに懸念を感じる場合、DeepSeek R1を提供するサードパーティーのサービスを利用するのも一案です。たとえばマイクロソフトは『Azure AI』でDeepSeekを提供中です。

ちなみに筆者自身がDeepSeekを利用してみたところ、DeepSeekの精度は驚くべきものというのが素直な感想でした。推論の性能や提供する情報の精度などにおいて、OpenAIのモデルに全く引けを取りません。

たとえばDeepSeekとChatGPTの類似する機能として、オンラインの情報を検索し、情報源となるウェブページのリンクを提供することが可能です。両者の精度としては、OpenAIは、コンデナストなどとの提携関係にあるのに対し、DeepSeekは、出版社などのパブリッシャーと提携していないにも関わらず、検索結果は良好で、情報源のリンクはおおむね有用だという結果でした。

DeepSeekで使われている(?)『蒸留』とは

DeepSeekが低コストで最先端のAIを開発した裏には、『蒸留(Distillation)』と呼ばれる技術が用いられているのではないか、という指摘もされています。

まず『蒸留』は、事前学習済みの大規模AIモデル(教師モデル)の知識を、小規模なモデル(生徒モデル)に移転するプロセスを指します。

DeepSeekで使われている(?)『蒸留』とは1
(画像は筆者が作成)

通常、高パフォーマンスのAIを開発するためにはそれだけのコストがかかります。一方ですでに学習済みのモデルを蒸留することで、高速かつ省電力のモデルを開発可能となります。

蒸留疑惑については、トランプ政権AI担当のデビッド・サックス氏が1月28日に米FOXニュースの中で「OpenAIのAIモデルから知識を“抽出”したという“実質的な証拠”がある」と発言するに至りました。

DeepSeekの蒸留疑惑はまだ『疑惑』の段階であることも事実です。一方、蒸留そのものはAIモデルの高速化や省電力性を高めるために有用な技術であることも事実です。

また仮にOpenAIが、DeepSeekが使用していると見られるOpenAIのAPIを凍結・ブロックしたとしても、他社の生成AIから同様に蒸留を繰り返すなど抜け道がないわけではありません。

蒸留を完全に防ぐという試みは、いわば家電や自動車の業界において「リバースエンジニアリングを完全に防ごうとする試み」に近く、他社による蒸留を100%防ぐことは実際には難しい面もあるでしょう。

そして高額な投資を行って作られたAIモデルよりも、蒸留を行ったうえでオープンソースで公開されたモデルの方が高品質ということは今後も増えてくるかもしれません。

計算資源の重要性に関するサム・アルトマン氏の見解は?

『蒸留』を防ぐ試み自体は今後も続くと見られるものの、蒸留を完全に防ぐこともまた難しいでしょう。そして蒸留されたモデルがオープンソースで公開されると、先んじて高額な投資を行っていたAIモデルの優位性は消失します。

それでもなおAIに高額投資を行うとした場合、その目的は『AGI』の実現にあると言えるでしょう。

OpenAIのサム・アルトマンCEOは、DeepSeekの出現に対し、1月28日に自身のXアカウントで、「deepSeek’s r1 is an impressive model, particularly around what they’re able to deliver for the price.
(DeepSeekのR1は価格に見合った素晴らしいモデルだ)」と発言しています。一方、その後のポストで「look forward to bringing you all AGI and beyond.(皆さんにAGIとその先をお届けできることを楽しみにしています)」と、AGI(汎用人工知能)について言及。

つまり、OpenAIはすでに従来のAIではなく、もっと先を見据えていることをアピールしています。

サム・アルトマン氏はAGI(汎用人工知能)の実現という一点を見据えていると見られます。

AIへの巨額投資を是とするか、それとも否定的にとらえるかは『AGI(汎用人工知能)』にどの程度価値があると考えるか、個人の考え方にもよるかもしれません。そもそもOpenAIが考えるよりもAGIの実現が早くなることもあるかもしれません。AGIそのものも蒸留され、コモディティ化する未来が待っているかもしれません。

※サムネイル画像(Image:Nick Livyi / Shutterstock.com)

スマホライフPLUS編集部

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