『Flash黄金時代』を覚えている方は、この記事をお読みの方の中にも多いのでは? たとえば「ペリーのお願い」「恋のマイアヒ」といった人気コンテンツが2000年代に多く生み出されました。
そのFlash黄金時代を支えた技術である『Adobe Flash』は、かつてインターネット上で動画、アニメーション、インタラクティブなコンテンツを提供するための主要な技術として広く利用されていました。しかし、2020年12月31日をもって公式にサポートが終了し、廃止されました。
一世を風靡した技術でありながら完全に廃止されたWeb技術というのは、実はやや珍しい存在でもあります。たとえば、HTML/CSSやJavaScriptといった技術はバージョンの変遷などはありながらも今日も現役です。Perlなど00年代に流行ったプログラミング言語も、主流な言語とはすでに言えないものの提供が継続されてもいます。
ではFlashがWeb技術として定着しきれず、最終的に廃止に至った理由は何でしょうか。詳しく見ていきましょう。
Flashの登場と『マルチメディアコンテンツ』を支えた功績
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Flashとは、Webページ上でアニメーションや音声、インタラクティブなコンテンツを作成・再生するための技術。ベクターグラフィックスを使用し、高品質かつ軽量なアニメーションが実現でき、Webサイトやバナー広告などで使用されました。
2000年代前半、Flashは動画・アニメーション・ゲームをブラウザ上で手軽に表示できる唯一の技術でした。主要なブラウザやOSで動作し、開発者は一度作成したコンテンツを幅広い環境で配信できました。
動画再生サイトやインタラクティブ広告の基盤としての存在感の大きさも、もちろん忘れてはいけません。たとえばYouTubeの初期動画プレイヤーもFlashをもともと基盤としており、Flashはユーザー生成コンテンツ(UGC)文化や動画文化、そのマネタイズ手段としての「インタラクティブ広告」の爆発的成長を支えた技術だと言えます。
なおFlash Playerはシェアも大きく、その背景にはFlashコンテンツの人気があったと考えられます。ちなみにAdobeが2007年に発表したFlash Playerのバージョン別普及率に関する調査結果によると、Flash Player 9の普及率は日本では81.8%。なお、アメリカとカナダでは84.0%、ヨーロッパでは83.5%だったそうです。
Flash黄金時代の代表的なコンテンツについて
加えてAdobe Flash(旧Macromedia Flash)の直感的なアニメーション制作ツールは、個人クリエイターがプロ級の作品を制作することを可能にしました。代表的なFlashコンテンツには冒頭でも述べた「ペリーのお願い」「恋のマイアヒ」などがあります。
なお、2020年にはサントリー「CRAFT BOSS」がAdobe Flashの終了を受けて全盛期の有名Flash動画を振り返るWebCMを制作。Flash動画がCMという大衆に向けたコンテンツで使われたことに驚きの声も集まりました。それだけFlash動画は極めて多くの方にとって、思い出に残る一大コンテンツであったと言えるでしょう。
Flash技術の功罪と『Flashの廃止理由』
特に00年代において、Flash技術はマルチメディアを扱える貴重なWeb技術であった反面、CPUやメモリの大量消費といった弱点が顕著でした。その功罪はWebの主戦場がモバイルに移行するに従って「罪」の側面が大きくなり、最終的にiPhoneの登場がFlash廃止を決定づけたと言えます。
ここからは改めて、Flash技術が廃れた要因について見ていきましょう。
CPUやメモリの大量消費
まずはFlashが「CPUやメモリを大量に使用する」という問題点は、Flashが廃止されるまで解消されなかったと言えるでしょう。
FlashコンテンツはCPUやメモリのリソースを大量に消費する傾向があり、特にモバイルデバイスでは動作が重くなることが問題視されました。
この問題点はFlashコンテンツをPCから楽しむならまだしも、モバイル環境で楽しむには大きな課題となります。
00年代後半からはモバイル環境でのWeb利用が世界的に増加しました。しかしFlashはCPUやメモリの大量消費が悪影響を及ぼし、モバイルデバイスでの動作が不安定でした。加えて特にAppleのiOSでは、そもそもFlash自体がサポートされませんでした。
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なお、Appleの創業者であるスティーブ・ジョブズ氏は2010年4月に公式サイトで「Thoughts on Flash」というオープンレターを公開し、AppleのOSがFlashをサポートしない理由を説明しています。
その中でジョブズ氏は、Flashはセキュリティ上の脆弱性があると指摘する上、大量に電力を消費するため、モバイルデバイスのバッテリー寿命に悪影響を与えると主張。さらにサードパーティのソフトウェア層がプラットフォームと開発者の間に入ることで、アプリの品質低下や機能拡張の遅れにつながると懸念しました。
総じてFlashは00年代後半以降の「モバイル」の時代において、急速に時代遅れの技術になってしまった感が否めません。
オープンソースか否か
Flashの廃止におけるもう一つの大きな要因は、HTML5の登場と普及です。HTML5は、Flashが提供していた多くの機能(動画再生、アニメーション、インタラクティブなコンテンツの作成など)をネイティブにサポートしており、追加のプラグインを必要としません。
こうした技術の進化に伴い、00年代後半以降はWeb業界全体がオープンソース技術を採用する方向にシフトしました。FlashはAdobeが所有する技術であり、他の企業や開発者がその技術を自由に利用・改良することができませんでした。一方、HTML5やCSS3、JavaScriptといったオープンソースの技術は、誰でも利用可能であり、コミュニティによる改善が可能です。
このような背景から、業界全体がFlashからオープンソースへの移行を進めることとなり、Flashの役割は徐々に縮小していきました。
セキュリティの脆弱性
Flashはその設計上、多くのセキュリティ上の問題を抱えてもいました。特に、悪意のあるコードがFlash Playerを通じて実行されるリスクが高く、これによりユーザーのデバイスがマルウェアやウイルスに感染する事例が頻発しました。この脆弱性は、企業や個人ユーザーの信頼を損なう要因となりました。
結局、『Flash』はなぜWebのスタンダードになれなかったのか?
Flashはその全盛期において、Webコンテンツの可能性を大きく広げた革新的な技術でした。しかしセキュリティやパフォーマンスの問題、オープンソース技術の台頭、そしてモバイル環境への適応不足が原因で、Webのスタンダードとしての地位を確立することはできませんでした。
開発者はFlashからHTML5やJavaScriptへの移行を余儀なくされましたが、これによりWebサイトのパフォーマンスやセキュリティが向上したことは『Flash廃止』の功績です。
一方でFlashで作成された多くのコンテンツがアクセス不能となり、00年代初頭のFlashコンテンツは「動画に変換されたものが断片的にWeb上に残っている」など不完全な状態で残存しているのが現状です。
・スマートフォンの登場時
・HTML5の普及時
などさまざまなタイミングで、Flashは技術的な限界やオープンソースへの代替可能性と直面する機会があったでしょう。
そのタイミングで仮にFlash自身もオープンソースに移行していた場合、コミュニティからの支援も得ながら従来のFlashコンテンツの消失を最小限に抑え、HTML5への移行が進んでいったのではないかとも思える部分があります。
2025年の視点からFlashを振り返ると、CGMの時代を作り上げた偉大な技術が、時代の変遷とともに技術的な遅れが目立ち、オープンソースに代替され、最後は大量のコンテンツも消失してしまったという悲しさが際立つ部分が大きく感じられます。
※サムネイル画像(Image:tomeqs / Shutterstock.com)