PlayStation 2(PS2)の『BB Unit』という周辺機器を覚えている方は、もしかしたらリアルタイムでPS2を楽しんでいた方の中でも少数派かもしれません。
オンライン対戦やネットワーク機能がまだ一般的ではなかった当時、このBB UnitはPS2でオンラインゲームをプレイするための接続機能を備えており、たとえば『ファイナルファンタジーXI』や『戦国無双』などが対応していました。
「BB Unit」は当時の技術的・社会的環境が追いつかず、爆発的に普及したとは言えませんが、そのコンセプトは現代のクラウドゲーミングやサブスクリプションサービスに通じる先見性を持っていました。実際、BB Unitが発売されてから約20年、ネット回線は家庭に浸透し、オンラインを前提としたゲームが主流となっています。
つまり、BB Unitは現代のオンラインゲーム全盛期を予見していたと言えるのではないでしょうか。今回はPS2の『BB Unit』が00年代に実現していた先進性について、改めて見ていきましょう。
PlayStation 2『BB Unit』とは

2003年に、ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)がPlayStation 2(PS2)向けの周辺機器として発表したのが『BB Unit』です。BB Unitは、40GBのハードディスクドライブ(HDD)とネットワークアダプタを組み合わせたもので、PS2にオンラインゲームやデジタルコンテンツのダウンロード機能を追加することを目的としていました。
BB Unitは、当時としては非常に先進的な技術を搭載していました。HDDはゲームデータの保存やインストールに使用され、ロード時間の短縮やパッチの適用が可能でした。また、ネットワークアダプタでイーサネット接続ができ、オンラインゲームのプレイが可能に。
この恩恵をフルに活かしたタイトルが、『ファイナルファンタジーXI』です。

2000年に発表され、2002年にPS2及びPC向けに発売された同作は『ファイナルファンタジー』シリーズ初のオンラインゲームでした。
もっとも、ファイナルファンタジーシリーズは前作の『ファイナルファンタジーX』がPS2専用ソフトであったことから、PS2でプレイするユーザーが多いタイトルでした。
そこで『FF11』が実現したのが、PS2とBB Unitを使用したネットワーク通信であったと言えます。当時としては画期的な「コンソール向け常時接続型MMORPG」という新ジャンルを確立しました。
なお発売当時、Yahoo! BBでは「スターターキット」として『FF11』と「BB Unit」のセット販売も行っていました。これはソフトとBB Unit、Yahoo! BB専用モデムがセットになったもので、『FF11』の人気と需要の高さに応えるものでした。
2002年当時はまだオンラインゲームの黎明期であり、2025年現在と比較すると、国内のブロードバンド普及率も低い状態でした。そうした時代に家庭用ゲーム機でのオンライン接続を実現したのは、非常に先進的な試みでした。
総じて『FF11』がBB Unitを活用して実現した機能は、現代の「ネットワークを介したゲーム体験」の先駆けとも言えます。
PlayStation BB Unit & FINAL FANTASY XI が実現していた未来

今でこそ「ゲーム画面の向こうには実際の人がいる」「画面の向こうの人とコミュニケーションを取りながらゲームを進めていく」ことは普通のことですが、当時、それが自宅の家庭用ゲーム機でできることは非常に画期的なことでした。
そもそもこうしたMMORPGは、00年代初頭の段階ではネットカフェで遊ぶことが多かったものです。

たとえば韓国のMMORPGとして名高く、日本でも人気がある『リネージュ』『リネージュII』は全盛期、ネットカフェの占有率が3.5割から4割を超えていたと言われています。2025年現在も、リネージュ公認ネットカフェが国内でも多数存在しています。
こうしたMMORPGを00年代初頭に、ネットカフェではなく、Windows PCでもなく、家庭のPS2で遊べるようにしたことは大きな成果でしょう。
・オンライン接続によるゲーム体験の拡張
・データの集中管理
・ネットワークを活用したサービス提供
などを早くから実現していた点で、BB Unitは今日のクラウドゲーミングや、クラウドベースのマルチメディアサービスの先駆けとも言えます。
PlayStation BB Navigatorについて
余談ですが、PS2『BB Unit』について述べるなら、同時に提供されていた「PlayStation BB Navigator」というソフトウェアについても簡単に触れる必要があるでしょう。
同ソフトウェアはHDDの管理、ネットワーク設定、メディアプレイヤー機能などを提供し、PS2を単なるゲーム機から「ネットワーク対応のエンターテインメントプラットフォーム」へと進化させる役割を果たしました。
PS2以降のPlayStationシリーズでも、度々ゲーム機をマルチメディアプレーヤーとして活用するための試みや機能提供などは積極的に行われています。たとえばPlayStation Vita(2011年発売)はゲームプレイにとどまらず、ブラウザ機能や高度なコンテンツ管理機能を提供するモバイル端末であり、10年代当時のPlayStationの完成系のような端末だったと言えるかもしれません。
そしてPS Vitaが提示していたゲームにとどまらないマルチメディア端末としての『PlayStation』の理想を、PS2『BB Unit』と周辺ソフトウェアは10年先駆けてかなり高いレベルで実現していたと言えるのではないでしょうか。
『BB Unit』は20年早い周辺機器だった?普及しなかった理由
『BB Unit』が普及しなかった主な理由は、当時ブロードバンド普及率が低かったこと、対応するタイトルの少なかったことが考えられます。
ブロードバンド普及率
BB Unitが普及しなかった理由は複数ありますが、主な理由のひとつは価格の高さです。先述したYahoo! BBのスターターキットは7,800円と非常に安価でしたが、単体で見るとその価格は12,800円。Yahoo! BBを契約しない限り、多くのユーザーにとって手が届きにくいものでした。
また、当時のインターネット環境の未整備も大きな障壁となりました。
BB Unitを使用するにはブロードバンド接続が必要でしたが、2000年代初頭の日本ではまだブロードバンドが十二分には一般家庭に普及しておらず、PS2を所有している家庭がBB Unitを利用するのに十分な通信環境があるとは限らないという状態が生まれていました。
対応するタイトルの少なさ
さらに、対応ソフトウェアの不足も問題でした。BB Unitに対応したゲームは限られていました。多くのタイトルは従来の「ディスクをPS2に挿入して1人ないしはコントローラーを接続して2人で遊ぶ」といった段階にとどまっており、オンライン接続がなくてもプレイ可能であったため、BB Unitの必要性が薄れてしまったのです。
今日ではオンライン接続および追加コンテンツのダウンロードや、ゲーム機で音楽や写真なども管理するのは珍しいことではありません。仮にBB Unitが10年代前半~20年代の機器であれば、その必要性は直感的に理解され、対応タイトルも多かったでしょう。
BB Unitは非常に先進的な周辺機器だったと言えるかもしれません。
※サムネイル画像は(Image:「Wikipedia」より引用)