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QWERTY配列の元祖『タイプライター』が日本ではあまり広がらなかった理由とは?

日常的に利用するPCのキーボード配列は「QWERTY配列」と呼ばれ、この配列はタイプライターが普及した19世紀にはすでに成立しています。

つまり今日のPCのキーボードは、西洋のタイプライターの直接的な影響下にあるものです。

もっとも国内の多くの方にとってQWERTY配列はタイプライターではなくワープロ、もしくはPCで覚えたケースが圧倒的多数ではないでしょうか?つまり日本ではQWERTY配列のタイプライターは「利用されなかったわけではないが、普及は限定的だった」と言えるでしょう。

ではQWERTY配列の元祖である『タイプライター』が日本ではあまり広がらなかった理由は何でしょうか。タイプライター及び、実は日本で専門職としても広がった「和文タイプライター」の歴史を見ていきましょう。

タイプライターの歴史

タイプライターは、文字文化に革命をもたらしたとも言える歴史的な発明品です。そしてタイプライターは、一部では「タイプライターがまともに使えるようになるまでに、おおよそ52回発明し直された」とも言われるほど再発明が繰り返された製品でもあります。

そのうえで通説では、1829年にウィリアム・オースチン・バートがアメリカでの特許を取得した「Typographer」が世界初のタイプライターとされています。

タイプライターの歴史1
(画像は「photoAC」より引用)
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19世紀後半には商用化が進み、1874年に、E・レミントン&サンズ社が「Sholes & Glidden Type-Writer」の1号機をリリースしたことで、実用的な機械として広く普及し始めました。

多少の配列の違いこそあるものの、もちろんすでに今日につながるQWERTY配列も実現されています。このレミントンのタイプライターはその後、長きにわたってタイプライターの定番として愛用されるものです。

産業革命と事務作業の増加

19世紀に商用化されたタイプライターの急激な需要拡大と流通の広まりを後押ししたのは、18世紀半ばから19世紀にかけて起きた産業革命です。

特に19世紀後半から20世紀初頭にかけて、第二次産業革命が急速に進み、技術革新と消費財の大量生産が浸透しました。

それに伴い、欧州では事務作業の効率化が求められるようにもなりました。タイプライターは手書きよりも速く、正確に文書を作成できるため、企業や官公庁での需要が急速に高まりました。特に、女性のタイピストが新たな職業として登場し、社会進出の一環としても注目されました。

タイプライターの登場に対する非西洋国の焦り

タイプライターが画期的であった点は「人間の会話速度に近しいスピード感で文書を作成できる」という点です。タイプライターは大量の文字を扱うのに優れており、19世紀の諸国においては「教育レベル」、ひいては文明のレベルを大きく底上げするためのアイテムとして期待された感すらあります。

一方でQWERTY配列に基づくタイプライターは、ひらがなや漢字の入力には適していません。つまりタイプライターの普及度は西洋の国々か否かで大きな差があったと言えます。

この状況に対し、非西洋諸国では「タイプライターで効率的に入力できない文字を使用する国は、文明国として後れを取る」という焦燥感が広がり、日本国内でも漢字廃止論が真剣に論じられるほどでした。

ちなみにこうした状況に置かれたのは日本だけではなく、たとえば数万種類の漢字を使用する中国においてもタイプライター開発は困難を極めました。

後述しますが「漢字廃止論」などの議論に終止符を打ったのは、タイプライターではなく「ワープロ」だったと言えるでしょう。ワープロは西洋にとってのタイプライターに近しい、革命的なデバイスだったと言えるかもしれません。

和文タイプライターについて

19世紀にタイプライターは、アルファベットのような表音文字に適した機械として誕生しました。

そしてタイプライターが瞬く間に西洋で商用化される中、日本でも文書作成の機械化が検討されるまでに時間はかかりませんでした。しかし、そこでネックとなったのが「QWERTY配列」です。

この配列を漢字と平仮名が混在する日本語の複雑さをカバーできるものとして扱うのは当時は難しく、新規に「膨大な文字数を網羅するキーボードの開発」が課題となりました。

和文タイプライターについて1
(画像は「photoAC」より引用)

このキーボードの登場には長い時間を要し、日本独自の工夫を凝らした「和文タイプライター」が実用化されたのは、大正時代の1915年のことです。

和文タイプライターは端的に言えば「大量の文字を網羅的に詰め込むことで日本語に対応したタイプライター」です。

2000字以上の漢字を一つひとつ拾い上げて印字する方式で、両手を広げても足りないほどの巨大サイズのキーボードでした。

タイプライターが日本ではあまり広がらなかった理由とは?

タイプライターが日本ではあまり広がらなかった理由は、やはり「和文タイプライター」があまりにも巨大かつ専門性が高いアイテムだったことが挙げられます。仮にワープロの変換技術の登場を待たずして、QWERTY配列で日本語が入力できる仕組みが完成していれば、タイプライターははるかに国内でなじみ深いアイテムになったはずです。

和文タイプライターは非常に大きく、重く、製造コストも高かったため、一般家庭や中小企業では手が届きにくいものでした。価格が高価で、冷蔵庫や洗濯機ほどのスペースを占めることもあり、普及の妨げとなりました。

加えて和文タイプライターは2000字程度の漢字を収録していましたが、操作が煩雑で、バケット内の活字を並べ直すだけでも専門知識を要し、総じて高度な訓練が必要でした。つまり、和文タイプライターを扱うタイピストは専門職だったということです。

「手書き」と「ガリ版印刷」の存在も大きい

「手書き」と「ガリ版印刷」1
(画像は「photoAC」より引用)

和文タイプライターを扱えるのが高度なタイピストに限られることから、和文タイプライターの用途は当時の官庁や大企業での文書作成に限られることが多かったと言えます。そのため、小規模な印刷ではガリ版印刷が代替手段になることもありました。

また日本は伝統的に、手書きの文書が公式な場面での信頼性を持っているのも事実です。そのため「ガリ版印刷」「手書き」という、文書作成における2通りの代替手段があれば十分という側面が少なからずあったと考えられます。

ローマ字論と漢字廃止論

先にも述べた通り、ローマ字論や漢字廃止論に基づいて「日本語の表記をローマ字基準にし、西洋のタイプライターをそのまま使えるようにすべきだ」という考え方も19世紀後半から20世紀初頭には一定の支持を集めました。

19世紀後半にはローマ字による日本語表記の研究、普及活動が行われたほか、ローマ字による文学作品も登場しています。また、第二次世界大戦後、GHQは日本の民主化と近代化を促進するためには、漢字の廃止とローマ字表記への移行が必要であると主張しました。

漢字廃止論やローマ字論が一定の支持を得るほど、産業革命の影響は大きく、文書作成の需要の大きさに対して和文タイプライターの学習コストは大きかったのかもしれません。

かな漢字変換の技術の登場

文書作成ニーズの大きさに対して和文タイプライターがあまりにも不便であり、漢字廃止論が一定の支持を集め続けるという状況を一変させたのが『ワープロ』です。

1978年、東芝は世界初の日本語ワードプロセッサ「JW-10」を発表し、翌1979年2月に出荷を開始しました。当時、コンピュータで扱える日本語は、一部の特殊なシステムを除き、カタカナが主流でした。一方、欧米ではタイプライターから進化したワードプロセッサが普及しており、日本語で利用できるワードプロセッサが切望されていました。

このような状況の中、東芝は総合研究所の森健一氏らによる基礎研究を重ね、文節指定入力による画期的な「かな漢字変換」技術を開発しました。この技術は、ミニコンTOSBAC-40Lをベースにした事務机サイズのハードウェアに搭載され、日本語ワードプロセッサ「JW-10」として発売されました。

和文タイプライターがユーザーに極めて高度な専門性を求めたのに対し、この「JW-10」は、学習コストの低い端末として、日本語の文章作成を大きく変えました。

「日本語の変換技術」が1978年に決定的に確立されたことが、その後40年以上に渡って日本の情報通信業が発展し続ける基盤になったと言えるのではないでしょうか。ワープロが実現したかな漢字変換技術は、日本の情報通信の歴史を振り返るうえで最大のイノベーションの一つだと言っても過言ではないでしょう。

※サムネイル画像(Image:Shutterstock.com)

スマホライフPLUS編集部

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