「日本語IME」の代表格である『ATOK』。しかし近年では、MS IMEやGoogle日本語入力などの他のIMEも、十分な変換精度を備えているのが実情です。
さらに、『ATOK』は有料サービスであり、利用するには「ATOK Passport」と呼ばれるサブスクリプションへの加入が必要です。そのため、「他のIMEがあればATOKは不要ではないか」と感じる方も多いでしょう。
そこで今回は、長年ATOKを愛用してきた筆者が、「ATOKは本当に必要なのか、それとも不要なのか」をユーザー目線で徹底レビューします。
日本語入力の進化と『ATOK』の歴史
ATOKは、ジャストシステムが開発・販売している日本語入力システムです。1983年に商用化(※注:1981年には前身の変換ソフトが開発済み)されてから40年以上、日本語入力の代表的なソフトウェアであり続けています。
初期のバージョンでは、限られたコンピューターリソースの中でいかに効率的に日本語を入力・変換するかが課題でしたが、ATOKは独自の技術で高い変換精度を実現し、多くのユーザーに支持されてきました。

特筆すべきは1980年代初頭から高品質な変換を実現している「歴史の長さ」です。まず世界初の日本語ワープロは1978年に東芝が発売した「JW-10」です。ちなみにワープロの登場までは1915年に和文タイプライターが実用化されて以来、極めて高い専門性を持つタイピストが文字入力を行うか、少部数の印刷であればガリ版印刷などが一般的に行われていました。

70年代末のワープロ登場から、1981年のかな漢字変換ソフトの開発を経て、1983年にATOKがサービスを開始するまで、わずか数年でした。ATOKが実現した高品質な日本語変換は先進的なものであり、40年以上が経過した今も改良が続けられており、最先端の性能のものであると言えるでしょう。
ATOKのメリット:なぜプロが使い続けるのか?
ATOKの最大のメリットは、やはりその高い変換精度です。長年蓄積された辞書データは、専門用語や最新のトレンドにも対応しており、ビジネスシーンでも安心して利用できます。さらに、ユーザーの入力傾向を学習する機能により、使えば使うほど変換精度が向上します。

特に法律用語のデータベースも充実している点は大きな強みで、法律事務所に代表される士業の職種では業務効率化ツールとしての需要が持続。特に誤変換リスクが許容されない分野では、有料ツールとしての需要があると言えます。
ATOKは不要?MS IMEとGoogle日本語入力があれば十分?
このようにATOKは極めて高い精度を誇るIMEですが、ATOKの競合製品としては、Google日本語入力やMicrosoft IMEなどが挙げられるのも事実です。

そしてATOKを利用しているすべての方が、誤変換リスクを許容できない士業とは限らないでしょう。ATOKほどのカスタマイズ性が必要な方は限られるかもしれません。
つまり、士業などでない限り「わざわざATOKを購入して使用する意味」は薄いとも言えるでしょう。
するとATOKの歴史的な功績が大きいとしても、2025年現在「ATOKは不要」なのでしょうか?そこで今回は検証として1000文字ほどの文章のタイピングを通じ、MS IMEとGoogle日本語入力、ATOKを比較してみました。
MS IMEとGoogle日本語入力、ATOKを比較
今回はATOKと他IMEで、1000文字ほどのビジネス文書を入力。その入力にかかった時間を比較しつつ、各IMEの変換性能を検証してみました。
ATOKの高度な変換性能が「通常の文章入力」でも真価を発揮するならば、Google日本語入力やMS IMEよりも変換が早くでき、入力の効率化ができても不思議ではありません。


まずは筆者自身が1000文字を入力。ビジネス文書1000文字の入力にかかった時間は、IMEごとに以下の通りでした。
・ATOK2025:6分45秒
・Google日本語入力:6分40秒
・Microsoft IME:7分11秒
Google日本語入力がもっとも短時間で入力できましたが、ATOKとの差は誤差程度でした。筆者自身は、この2つのIMEをエディタや端末ごとに使い分けています。たとえば一太郎を使う際にはATOK、スマホやタブレットでIMEを使うときはGoogle日本語入力を利用しています。
そしてGoogle日本語入力の変換性能も非常に高い肌感があり、この結果には少なくとも個人的には納得感がありました。このどちらかのIMEであれば、筆者自身は正確な入力がしやすかったです。
一方でMS IMEは非常に誤変換が多く、ミスタッチの修正なども行うと非常に入力に時間がかかりました。
なお変換速度には個人差もあると見られるため、知人(※普段ATOKを使用していないライターで、筆者よりタイピングが早いです)にも同じビジネス文章で実験してもらったところ、結果は以下の通りでした。
– ATOK2025:6分18秒
– Google日本語入力:6分01秒
– Microsoft IME:6分07秒
知人ライターによると「ATOKが一番遅かったが変換性能が高く、ミスタイプや誤字脱字から正しい変換先を予測してカバーしてくれている感覚が強くありました。Google日本語入力とMS IMEはしいて言えばGoogle日本語入力の方が優秀でしたが、どちらもATOKのような変換性能は感じませんでした。どちらのIMEでも普通にタイピングすると、長文ではミスタイプがどうしても増えるものの、そのミスをカバーする変換性能を感じなかった」とのこと。
総じてATOKの強みは高度な変換性能であることは事実ですが、実はその変換性能はスピードに直結するものではなく「ミスのない文章を一発で仕上げる」のに適したものだという印象です。
ATOKを使えばタイピングスピードや文章作成スピードが上がるとは必ずしも言えないものの「ミスが減る」とは言えるでしょう。
ATOKと他のIMEの「気の利いた変換性能」で比較してみた
日本語入力ソフトの真価は、単なる「かな漢字変換」だけでなく「どれだけユーザーの意図を汲み取り、便利な変換を提供できるか」という点にもあります。
そこで先の検証とセットでATOK、MS IME、Google日本語入力の三者について「気の利いた変換が可能か」という点でも検証を行いました。

「今日」と入力して当日の日付が出るか
まずは「今日」と入力して、当日の日付へと変換できるかという点です。本稿の執筆は2025/02/27に行っています。つまり「2025/02/27」ないしは「2025年2月27日」と表示されればクリアです。
結果「今日」と入力して当日の日付が出なかったのは、MS IMEのみでした。

「はしごだか」と入力して「髙」が表示されるか
「はしごだか」は人名などに使われる漢字である「髙」の俗称です。高橋さんという人名でも、実際には「はしごだか」の高橋さんである場合も多く「高」と入力を行う際には注意が必要です。総じて「たか」と入力するよりも「はしごだか」と入力した方が「高」と区別しやすく、誤記が防止できます。
そして「はしごだか」と入力して、正しく変換を実施できたのはATOKとGoogle日本語入力のみでした。MS IMEは「梯子高」と変換を行いました。

結局『ATOK』は不要?
ここまでさまざまな検証を行いましたが、結局『ATOK』は不要なIMEなのでしょうか?
結論から言えば、法律用語のデータベースやビジネス用語を多数用いた文書作成などの機会が多い方にとっては『ATOK』は2025年現在でも唯一無二のIMEでしょう。特に士業の方にとっては、ミスタイプがない文書を一発で仕上げることを強力にサポートするIMEとして欠かせない存在になり得ます。
また文書作成に『一太郎』を愛用している方にとっても、ATOKは唯一無二の存在です。一太郎を購入するとATOKが自動的に付属するうえ、一太郎は単体としても日本語ワープロソフトとして2025年現在でも極めて高品質なソフトウェアです。ATOKと一太郎の相性も極めて良好であり、この両者はセットで使うのが間違いなくおすすめです。
一方、あくまで個人ユースかつ「一太郎ユーザー」ではない方にとってのIMEとして見た場合、Google日本語入力との差が僅少であることもまた事実でしょう。本稿で検証した通り「はしごだか」の変換も「今日」の変換も、MS IMEにはできない変換をGoogle日本語入力は実現しています。
ATOKが有料サブスクリプションであることを踏まえると、無料のGoogle日本語入力で十分という一面も否めません。個人ユースの範疇で考えると「有料サブスクリプションに加入することで、ミスタッチをカバーする変換性能やミスの少ない文書作成を行いたいか」を自分に問いかけると良いでしょう。
たとえば文章作成は好きなものの、ミスタイプが多い方にとっては有料でも十分安いサブスクリプションに『ATOK』はなり得るでしょう。
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