Blu-ray Discの製造技術を応用した高音質音楽CD規格である『Blu-spec CD』と、その後継『Blu-spec CD2』。発売当初は注目を集めましたが、近年見かける機会が減少しています。
その要因のひとつとしては、音楽市場全体のストリーミングへの移行が挙げられるでしょう。
とはいえ、ストリーミングに移行しても「物理メディアで音楽を聴きたい需要」全てが立ち消えたわけではなく、むしろ「2025年現在でもCDで音楽を聴きたいならば、そのCDはより高音質なものであるべきだ」という考え方もできます。
ではなぜ『Blu-spec CD』は見かける機会が減ったのでしょうか。詳しく見ていきましょう。
Blu-spec CDとは?
Blu-spec CD(ブルースペックCD)は、ソニー・ミュージックエンタテインメント(SME)が2008年に発表した高音質CD規格です。
主な特徴は、Blu-ray Disc(BD)の製造技術を応用している点にあります。BD用に開発された透明度の高いポリカーボネート樹脂をディスク基板に使用し、CD信号読み取り時のジッター(時間的な揺らぎ)低減を図っています。理論上は読み取りエラーを低減し、マスター音源に近い高音質な再生が可能になるとされていました。
Blu-spec CDの音質向上効果への懐疑的な意見の例
一方、Blu-spec CDの音質向上効果に対して、疑問視する意見も少なくありません。まずデジタルデータ自体は通常のCDと同じであるため、原理的に音質は変わらないはずだという指摘があります。つまり、本当にBlu-spec CDで音質が良くなっているならば、その大元となるデジタルデータ自体にもリマスタリングが施されているはずであり、「音質向上の有無はマスタリングに依存するのではないか」ということです。
こうした点を揶揄するように、Blu-spec CDの音質向上効果はプラシーボとする批判的な意見もあります。

もちろん、Blu-spec CDは読み取り精度の向上が実現されていること自体は事実。そのため読み取りの能力が低下した古いプレーヤーや、CDそのものが傷ついている際の再生精度自体は向上しているでしょう。しかし、Blu-spec CD「そのもの」が音質が良いかは微妙であり、マスタリングに依存する要素の方が大きいのもまた事実でしょう。
SHM-CDなど他の高音質規格のCDとの違い

なお、高音質CD規格にはBlu-spec CD以外にもSHM-CDなどさまざまな種類が存在し、それぞれが異なる技術的アプローチを採用して音質向上を目指しています。
特に目立つアプローチは、ディスク基板の素材や製造プロセス(カッティング技術、反射膜など)を工夫することで、CDプレーヤーによる信号読み取り精度を高め、ジッター(時間的な揺らぎ)を低減し、結果としてマスター音源に近い再生音質を実現しようとするものです。
どの規格が最も「高音質」かは、再生環境、音源(特にリマスタリングの有無や質)、そして聴く人の主観によって評価が分かれる部分ですが、カッティング技術やディスク基板の素材改良が本当に音質改善につながっているかは、Blu-spec CDに限らず、他の高音質CDでも「プラシーボ」と揶揄する声があるほど疑問視されている部分でもあります。
高音質音楽CD『Blu-spec CD』はなぜ見かける機会が減ったのか?
このように、懐疑的な意見もありながら、それでも高音質音楽CDとして期待された「Blu-spec CD」ですが、2025年現在ほとんど見かけなくなりました。その要因には、これまでに述べてきた「音質向上効果への疑問」に加え、3点が挙げられます。
他の高音質フォーマットとの競合
近年はロスレスやハイレゾ、FLACなどさまざまな高音質フォーマットが登場しており、ストリーミング配信でフォーマットとして採用される事例も増えました。相対的に「高音質CD」そのものの需要が減退したとも考えられます。
コストパフォーマンス
Blu-spec CDは、通常のCDよりも高価格帯で販売されることが一般的でした。音質向上効果が再生環境やユーザーの感性に左右されるため、価格差に見合う明確なメリットを多くのユーザーが感じにくかった可能性があります。また、SHM-CDやHQCDといった類似の高音質CD規格も存在し、フォーマット間の違いや優位性を一般消費者が理解し、選択するのは容易ではありませんでした。
元になった技術である『Blu-ray』の問題も
Blu-spec CDはBlu-ray Discの技術を応用していますが、そのBlu-ray Disc自体が、記録メディアとしてDVDを完全に置き換えるには至らず、HDDレコーダーやインターネット配信との競争の中で、当初期待されたほどの市場支配力を確立できませんでした。
特に録画用メディアとしての普及は日本市場に限定され、海外ではパッケージメディアとしての側面が強かったものの、全体としては「ニッチな立ち位置」に留まったとの分析もあります。元になった技術であるBlu-rayの普及が限定的だったことも、派生技術であるBlu-spec CDの勢いに影響した可能性があります。
※サムネイル画像は(Image:「Amazon」より引用)