80年代や90年代には、パソコンのデータ保存といえば「フロッピーディスク」が当たり前の時代がありました。しかし、より大容量で高速な記録媒体が登場し、フロッピーディスクが急速に一般家庭やオフィスから姿を消したのも事実です。
一方で2025年現在も、実は特定の業種や分野では今なおフロッピーディスクが使われ続けています。なぜ、時代遅れとも言えるこの記録媒体が一部で生き残っているのでしょうか?
今でもなおフロッピーディスクが使われ続ける理由を見ていきましょう。

フロッピーディスクが迎えた「技術的限界」とはそもそも何だったのか?

フロッピーディスクは、1970年代初頭に8インチフロッピーとして市場に登場して以来、データの持ち運びやソフトウェアの配布に不可欠な存在として長く定着。特定の分野では驚くほど長く使われ続けてきた側面も持ち合わせており、今日でもまだ現役でフロッピーディスクが使われる場面もあります。
とはいえこの記事をお読みの方の多くは、フロッピーディスクを「現役の記憶媒体」として新規に使おうとは思わないでしょう。誰の目にも技術的限界を迎えているように見えるフロッピーディスクがまだ使用され続ける場合があるのはなぜなのでしょうか。
まずはフロッピーディスクの「技術的限界」としての側面を見ていきましょう。
記憶容量の少なさ

初期の8インチフロッピーディスクは約80KBで、後に360KBや1.2MBへと進化しました。これはOSやアプリケーションソフトの巨大化、デジタルカメラで撮影された画像や音楽ファイルといったマルチメディアファイルの普及に伴い、急速に時代遅れとなりました。
2025年現在、フロッピーディスクを現役の媒体として使用すると、
・高解像度の画像1枚すら保存できない
・数ページの文書ファイルで容量がいっぱいになる
といった状況は珍しくありません。そのため、大容量のソフトウェア(たとえば30MB程度のワープロソフト)をインストールする際には、20枚以上のディスクを1枚ずつ入れ替える作業が必要となります。
一方、こうした手間がかかっても「なおフロッピーディスクを利用せざるを得ない業種」でフロッピーディスクは使われ続けていると言えるでしょう。
転送速度の遅さ
データの読み書き速度が非常に遅く、数メガバイトのデータを扱うだけでも相当な時間を要してしまうのも、「フロッピーディスクの技術的限界」だと言えるでしょう。1MBの書き込みに30秒~1分程度かかる場合もあります。数十MBのソフトウェアを扱う場合、ディスクを何回も入れ替えながらデータの読み書きに数十分といった形になるため、データの扱いにかなり難があると言えるでしょう。
PCメーカーによるドライブ非搭載化の加速
フロッピーディスク衰退の決定的な転換点の一つとして、90年代末頃からフロッピーディスクドライブ(FDD)非搭載のPCが一般に流通するケースが増えたことが挙げられます。
この判断は業界に大きな影響を与え、他のPCメーカーもこれに追随する形でFDDの非搭載化を進めました。2000年代に入ると、まずノートPCからFDDが省略されるようになり、その後デスクトップPCでもFDD非搭載が標準的となっていきました。これにより、フロッピーディスクを利用する機会そのものが減少しました。
フロッピーディスクが、それでも古い業種で使われ続ける理由
フロッピーディスクがそれでも古い業種で使われ続ける最も大きな理由としては、巨額の投資が行われたり、社会インフラとして長期間稼働することが前提の「レガシーシステム」において、フロッピーディスクが組み込まれ続けていたことが挙げられます。

産業機械の耐用年数の長さとシステム更新の難しさ
数十年単位で稼働する高価な産業機械や制御システムでは、一部のコンポーネント(FDDなど)を更新するためだけにシステム全体を入れ替えるのは経済的に見合わない場合があります。また安全性や精度が厳しく問われる分野(例:製造ラインの精密機械)では、一度認証を受けたシステム構成の変更は再認証が必要となり、時間とコストもかかります。
そのため「一度認証を受けており、数十年単位で稼働が安定している産業機械」であれば、システム更新することなく、フロッピーディスクを使って機械を稼働させ続ける方が望ましい場合がよくあります。
たとえば射出成形機、検査装置、旧型のオシロスコープなど、特定の製造業の現場や研究機関ではフロッピーディスクが現役のケースが少なくありません。より小規模な例としては、たとえば刺繍ビジネスを行う小規模な会社の刺繍ミシンのデータ転送にフロッピーディスクが現役で使われている場合もあります。刺繍ミシンは数百万円する場合もあり、小規模な企業にとっては買い替えの負担が大きい場合があるためです。
航空・宇宙分野や軍事分野における利用

航空機のシステムは些細な不具合も許されないため、長期間にわたり安定動作が確認されている技術が優先され、新しい技術の導入には慎重です。また航空機は開発から退役まで数十年という非常に長いライフサイクルを持つ場合もあるため、設計当時に標準的だったフロッピーディスクが、そのまま使われ続けるケースもあります。
同様に軍事分野でもフロッピーディスクが使用されるケースがあります。航空機と同様に安定動作が求められる分野であることに加え、外部ネットワークから隔離された環境での確実なデータロード手段としての側面もあったと考えられます。
政府・公共機関の特定業務における利用
国内では一部の行政手続きにおいて、申請データの提出媒体としてフロッピーディスク(または「磁気ディスク」といった広義の表現で実質的にフロッピーディスクを指すもの)を指定する法令や規則が長らく存在していました。デジタル庁主導でこれらの「アナログ規制」の見直しが進められましたが、改正まではフロッピーディスクが必要とされる場面がありました。
価格高騰が続くフロッピーディスクの今後
限られた業界でのみ使われているフロッピーディスクは今後どのようになっていくのでしょうか。
レガシーメディアの価格高騰が続きそう
現在、国内ではフロッピーディスクの生産が終了し、市場に流通しているのは在庫品のみとなっています。そのため、価格は年々高騰しており、10枚パックで6,600円、20枚パックでは16,500円といった高値がつけられています。仕事でどうしても必要な人が秋葉原中を探し回ることも珍しくなく、需要が限られる一方で供給も減少しているため、今後も価格の高止まりが続くとみられます。
エミュレーションシステムへの置き替えも?
こうした状況を受け、フロッピーディスクの代替としてエミュレーションシステムへの移行も進みつつあります。たとえば、ドイツ海軍では旧型艦の8インチフロッピーディスクを完全にエミュレートするシステムの導入を検討しており、国内でもCFカードなどをフロッピーディスクとして認識させるエミュレーター製品が登場しています。これにより、既存システムの大幅な改修を行わずに、記録媒体だけを現代的なものに置き換えることが可能となります。今後はこうしたエミュレーション技術の普及が、フロッピーディスクの“役割”を引き継いでいくと考えられます。
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