それは「壊れている」のではなく「読んでいない」だけだった
「ログインしても画面が開かないんです」──この言葉が、ITサポートの現場でどれほど頻繁に聞かれているかは、経験者であればすぐに頷けるはずだ。X(旧Twitter)に投稿された、**あかねまる@情シス(@akane_maru3)**さんのエピソードは、そんな日常に潜む“あるある”を見事に切り取っている。
社内の社員から寄せられたその一報。あかねまるさんは、冷静に「どんな画面でしょうか?」と質問を返した。そこで判明したのは、画面が表示されていないのではなく、**「パスワードの有効期限が切れましたので、新しいパスワードを設定してください」**という極めて平易なメッセージが、画面中央に表示されていたという事実である。
つまり、画面は“開かない”のではなく、むしろ完璧に“表示されていた”。ただし、それを見た当人が意味を読み取っていなかった──それだけの話である。
こうした場面に遭遇した情シス担当者のリアクションは、怒りでも嘆きでもない。ただ静かに、こう返す。
パスワードの有効期限が切れましたので、新しいパスワードを設定してください(天使の絵文字)
この天使の絵文字の意味を、情シス経験者であれば誰しも深く理解できるだろう。

「読まれない画面」に疲弊するIT担当者たち
この投稿には、数多くの共感とため息が詰まったコメントが寄せられていた。たとえば、
「見えているはずなのに、“見えていない”んですよね」
「読まない人は、何度でも読まない。しかも“読まなかった”ことすら認識していない」
「“画面が開かない”の定義が広すぎて、地獄」
こうした反応は、まさに“現場のリアル”を物語っている。テキストで書かれているにもかかわらず、それを読まずに「開かない」「壊れている」と判断するユーザーは少なくない。
さらに、パスワード有効期限という制度自体にツッコミを入れる声も多数見受けられた。
「未だに定期的にパスワードを変えさせる企業があることに驚く」
「使いまわしやメモに書き残すリスクの方が高い」
「誰も得しないセキュリティポリシーが情シスを疲弊させている」
確かに、近年では多くの専門家が「定期的なパスワード変更は非効率」と指摘しており、米国のNIST(国立標準技術研究所)も2017年にその方針を撤回している。それにもかかわらず、現場では“昔ながらのセキュリティルール”がまかり通っているのが現実である。

怒らない、投げ出さない、それが情シスの“美徳”
では、こうした「読んでいない」問い合わせに、毎回どう対応するのが正解なのか。理屈で返すだけでは足りない。相手を責めても解決にはならない。結局のところ、**「何もなかったかのように、淡々と正解だけを伝える」**という処世術こそが、情シスに求められるスキルとなっている。
あかねまる@情シスさんが放った「天使の絵文字」には、そんな境地が表れている。ただ業務をこなすだけでなく、「何も感じない力」さえ求められる役職。それが情シスだ。
そして、投稿のリプライ欄にはこんな声もあった。
「これは“仕事”というより“修行”だと思っている」
「心を無にしないとやっていけない」
「AIよりも仏に近い存在、それが情シス」
システムは正しく動いている。画面もきちんと表示されている。それでも「壊れている」「開かない」と言われてしまう世界で、情シスは今日も淡々と対応し続けている。
読まれていないだけの画面を、何十回も、何百回も、説明する。それが“裏方”のプロフェッショナリズムだ。
あかねまる@情シス(@akane_maru3)さんの投稿が突き刺さるのは、そこに「怒らずに受け入れ続ける人のリアル」があるからだ。
世の中には見えているのに見ていないものが、あまりにも多い。そして、今日もまた、誰かが「開かない画面」に向き合っている。
社員「ログインしても画面が開きません」
— あかねまる@情シス (@akane_maru3) July 8, 2025
ワイ「どんな画面でしょうか?」
画面「パスワードの有効期限が切れましたので、新しいパスワードを設定してください」
ワイ「パスワードの有効期限が切れましたので、新しいパスワードを設定してください😇」
※サムネイル画像(Image:PixieMe / Shutterstock.com)