2024年6月に成立した「スマホソフトウェア競争促進法」が、2025年末までに施行される見込みです。スマホ市場における公正な競争を促進するための法である「スマホソフトウェア競争促進法」。この法に基づき、日本でもAppleやGoogleなどの巨大IT企業が強い規制対象となる可能性が高いです。
では2025年末までに同法が施行されると、AppleやGoogleなど巨大ITは国内でどう変わるのでしょうか?具体的に見ていきましょう。
AppleやGoogleが日本でも規制対象となる見込み
25年末までに施行される見込みの「スマホソフトウェア競争促進法」では、「スマートフォンの利用に特に必要な特定ソフトウェアの提供等を行う事業者に対し、特定ソフトウェアの提供等を行う事業者としての立場を利用して自ら提供する商品又は役務を競争上優位にすること及び特定ソフトウェアを利用する事業者の事業活動に不利益を及ぼすこと」(同法第一条)が規制対象となります。
スマホのOSやアプリストアなどを提供する事業者が規制対象として想定されていると考えられ、具体的な企業名としてはGoogleやAppleが挙げられるでしょう。
近しい法律としては2021年に「デジタルプラットフォーム取引透明化法」が施行されており、2024年には同法に基づく勧告がアマゾンジャパンに対して行われています。総じてGAFAと呼ばれる巨大ITに対して、ここ数年、国内での規制が強まっているのは間違いありません。この規制がさらに厳しくなるのが「スマホソフトウェア競争促進法」であるともいえるでしょう。
余談ですが、こうした巨大テック企業に対しては、特にEUでは日本国内よりも各種規制が強まっています。たとえばEUでは2024年に「デジタル市場法(DMA)」が全面適用。この法は、すべてのIT企業に課せられるEU域内に住むすべての人の個人情報の取り扱いに関する「GDPR」と異なり、ビッグテックのみに課せられるものです。
日本で2025年12月までに施行されるスマホソフトウェア競争促進法は、こうした諸外国の動きに歩みを合わせるものともいえるかもしれません。
「スマホソフトウェア競争促進法」の概要
スマホソフトウェア競争促進法は、OS、アプリストア、ブラウザ、検索エンジンなどの特定ソフトウェアを定義したうえで、その特定ソフトウェアの領域において「他社の参入を妨げること」「利用条件や取引において不当に差別的な取り扱いをすること」などを禁止するものです。
規制対象となる可能性があるOSの例や、法律が施行されると何が変わるのかもう少し詳しく見ていきましょう。
規制対象になる可能性があるOSやアプリストアの例
公正取引委員会によると、スマホソフトウェア競争促進法の規制対象となるソフトウェアは「基本動作ソフトウェア(OS)」、「アプリストア」、「ブラウザ」、「検索エンジン」の4種類。さらにそれぞれの種類ごとに規制対象の規模が定義されており、それによると、2025年1月現在、規制対象となる可能性がある具体的なOSやアプリストアには以下のようなものが挙げられるでしょう。特定ソフトウェアの分類ごとにピックアップしました。
・基本動作ソフトウェア(OS):iOS/Android
・アプリストア:App Store/Google Playストア
・ブラウザ:Safari/Chrome
・検索エンジン:Google Search
法律が全面施行されると何が変わる?
法律の全面施行後に起きるであろう、一般ユーザーや個人のアプリ開発者にとって最も大きな変化は「アプリストア外でのアプリ配信」が可能となることでしょう。アプリ開発者がより自由にアプリを配信できるようになり、また独自の決済システムを利用することが可能になります。
具体的には
・アプリストア以外でのアプリ配信
・アプリストアを介さない決済方法の提供
などが認められるようになります。従来、スマホアプリはGoogle PlayやApp Storeに代表されるアプリストアからのインストールが主でした。このことは「アプリストア」が主要2社に寡占されていることも意味しており、これらのストアで配信できないアプリは良くも悪くも消費者の手元に届きませんでした。
一般ユーザーにとってはストア選びの幅が広がり、従来のストアでは配信されていなかったアプリに触れる機会も増えるかもしれません。
また同様にGoogle PlayやApp Storeを介さない決済方法の提供および利用も柔軟に可能になるため、アプリ開発者にとってはストア側の高額な手数料に悩まされなくなるでしょう。
ゲームや各種アプリの「アプリ外課金」の急増はほぼ確実
先にもご紹介しましたが新法の施行により、特にアプリ業界で大きな変化が予想されるのが決済システムです。従来は基本的にアプリはApp StoreやGoogle Playストアの決済システムを利用することが義務付けられており、アプリ事業者は売上に対して15~30%の手数料を支払う必要があります。しかし、新法施行後は独自の決済システムを導入することが可能となり、特にゲームアプリなどの高額課金を伴うアプリでは、アプリ外決済の導入が急増すると予想されています。
たとえばGMO TECHは2024年11月27日から「GMOアプリ外課金」の提供を開始。こちらは決済手数料を5%~と謳っています。新法施行後のアプリ外課金において、多くのアプリが導入する決済手段の選択肢となるでしょう。
巨大テック企業の影響力はどう変わる?
日本のスマホ競争促進法に先行している海外事例は、やはりEUのデジタル市場法です。この法はたとえばEU域内で、ウェブ検索を行った際のGoogleの検索結果に影響を与えました。
「たとえば、検索結果の変更により、大規模な仲介業者やアグリゲーターへのトラフィックが増加し、ホテル、航空会社、商店、レストランなどの直接のサプライヤーへのトラフィックが減少する可能性があります。 消費者にとっては、異なる商品間の推奨情報の提供など、オンライン上で迅速かつ安全に物事を完了できるよう私たちが開発してきた機能の一部が、同じようには機能しなくなります」と同社のブログには記載されています。
このほか、Google Playでダウンロードされたアプリの開発者はアプリ内でより安価な料金プランなどを案内できる「外部オファー」プログラムが実装されるなど、透明性の担保について様々な変更が行われています。
一方でこうした検索結果の変更や「アプリ外課金」が、Googleが従来提供していた検索結果や課金方式よりも優れているという保証があるわけではありません。たとえば外部オファープログラムに従ってアクセスした外部の決済システムの完成度が低く、不正アクセスの温床になってしまうリスクもゼロではありません。
巨大テック企業の影響力が弱まり、これまでの中小のサービスとの間で公正な競争が促される反面で、新たに登場するであろう様々なアプリストアやその課金方式にもまた注意が必要です。
※サムネイル画像(Image:JuShoot / Shutterstock.com)