
かつてスマホやガラケーには「SIMロック」がかかっており、キャリアの乗り換えに伴い、ロック解除が必要な際には手数料が必要な場合が多かったことを覚えている人も少なくないのではないでしょうか。しかし、2021年10月にSIMロックは原則禁止になりました。
4年以上が経過したこともあり、そもそも「なぜSIMロックがあったのか」「なぜ廃止されたのか」「SIMロックの廃止にはデメリットはないのか」など、改めて考えると記憶が薄れていたり、把握できていない方もいるのでは?
そこでこの記事では、SIMロックとは何だったのかと、廃止された背景、そのメリットとデメリットについて解説します。
SIMロックの背景と目的
SIMロックとは、スマートフォンが特定キャリアのSIMカードしか利用できないよう制限された状態を指します。

SIMロックがかかっている端末では、他社のSIMカードを挿入しても通信は不可。キャリアを変更する際は手数料を支払ってSIMロックを解除するか、変更先のキャリアの新しい端末を購入する必要がありました。
キャリアの利益保護の反面、消費者の選択肢を制限
事実上、SIMロックには、通信キャリアが自社サービスへユーザーを囲い込むための仕組みという側面がありました。
通信キャリアは、端末を割引価格で提供する代わりに、一定期間自社のサービスを利用する契約を結ぶことが一般的でした。SIMロックは、ユーザーが契約期間中に他社へ乗り換えることを防ぐための手段として機能していたのです。

SIMロックにより、ユーザーは他社の通信プランやサービスに簡単に切り替えることができない状態でもありました。そのためSIMロックが存在していた時代、キャリアに対しては「消費者の選択肢を狭めているのではないか」という批判がありました。
2019年の「通信と端末の分離」とは?
2019年、総務省は「通信料金と端末代金の完全分離」を義務化しました。これは、「端末を販売する際の通信料金を端末の販売をしない場合よりも有利にすること」や「契約の継続や、新しい端末を購入することを条件に、利益の提供をすること」、「過度な端末割引」が禁止となりました。
そうして2021年10月1日には、新規販売されるスマホのSIMロックが原則撤廃されました。これによって、それ以前に発売された端末を除き、「SIMロック」というものが基本的になくなった形になります。
1円スマホ規制の変遷
SIMロック廃止後も、端末の大幅値引き規制は段階的に強化されてきました。
・2019年10月:通信料金と端末代金の完全分離が義務化
・2021年10月:SIMロックが原則禁止に
・2023年12月:値引き上限が4万円(税別)までに規制され、実質的に「1円スマホ」が禁止
・2024年12月26日:端末価格に応じた段階的な割引上限が導入。8万円以上の端末は最大4万円(税別)、4~8万円の端末は50%まで、4万円以下の端末は最大2万円までの割引が上限となり、「1円スマホ」が実質的に禁止されました。
このように、総務省は継続的に「過度な端末値引きによる囲い込み」を規制する姿勢を強めています。
SIMロック廃止のメリットは結局、何だったのか?
SIMロック廃止の最大のメリットは、消費者にとって「同じ端末を使い続けながら他社の通信サービスに切り替えること」が容易になった点でしょう。
各キャリアが、料金プランやサービスの差別化を図るために、より魅力的な料金プランを打ち出すケースも増えました。ユーザーはより自分に最適な料金プランを選びやすくなったと言えます。
実際、2025年10月に発表されたMMD研究所の調査では格安SIM(MVNO)のシェアは9.2%で、前回調査からはわずかに上昇したものの、全体としては横ばいで推移しています。
契約者数ではワイモバイルが約1,200万人でトップ、UQモバイルが約1,000万人で2位となっており、大手キャリアのサブブランドが市場を牽引している状況です。
さらに海外渡航時には、現地のSIMカードを利用することで高額なローミング料金を回避することができるようにもなりました。スマホの海外利用時の利便性に与える影響も大きいと言えます。
SIMロック廃止にデメリットはなかったのか?
ここまで、SIMロックがなくなったことによる一般の消費者のメリットについて解説しましたが、ではSIMロックがなくなったことの「デメリット」はないのでしょうか?
端末割引の縮小

SIMロックがなくなったことのデメリットには、まず「大胆な値引き」の消失が挙げられます。
先述した通りSIMロックの撤廃により、通信事業者は端末の大幅な値引きや「0円スマホ」といった販売戦略が取りづらくなりました。従来、通信事業者は端末を販売する際に「利用者が長期間契約を継続する」という前提で、販売価格を抑えるケースが珍しくありませんでした。
しかし、SIMロックが解除されてしまうと、端末を大幅に値引きする理由がなくなります。よって従来と比較して、大胆な値引きを店頭などで見かける機会も減りました。
なお、現在の各キャリアの「端末購入プログラム」は、実質負担をおよそ半額にできる仕組みですが、実態は“購入”ではなくリースに近いものです。従来の0円スマホや1円スマホに比べ、リースな上に分かりづらいというのは欠点でしょう。
一方、その端末購入プログラムも2024年12月26日から値引き規制が強化され、RMJの平均買取額を基準とする新ルールが施行されました。その結果、端末購入プログラムの実質的な割引額は大幅に縮小しています。
個性的な端末の開発の縮小
SIMロック解除のデメリットとして、端末メーカーが利用者の長期契約を前提とした商品開発を行いにくくなるという点もあります。
まず従来、端末メーカーはキャリアと連携し、各キャリアに最適化された「特注品」を開発し、SIMロックを前提とした値引きなどを通じて消費者に端末を安く売るという構図が長く続いていました。新規購入や買い替え需要の底上げが行われることで、安定的な需要が見込めたのがその一因です。
このように端末メーカーとキャリアが「特注品」を作る中で、革新的なデザインや機能を搭載した端末を開発する余地が大きかったのです。

また、かつてのiモード(ドコモ、2026年3月31日サービス終了予定)のような意欲的なサービスは、SIMロックを前提としている面も少なからずありました。独自サービスを素早く普及させ、ユーザー一人ひとりに長く使ってもらうためにはSIMロックは適した技術の1つだったと言えます。ただし、スマートフォン時代に移行したことで、こうしたキャリア独自のガラパゴス的サービスは衰退しました。
「競争の激化」は賛否両論
キャリア間の競争はサービス内容や料金プランへと移り、ユーザーにとっては従来よりも料金プランの選択肢が広がりました。
一方で、携帯料金プランは年々複雑化し、ポイント還元制度なども加わってさらに分かりにくい状況になっています。加えて、複数の「経済圏」が形成され、携帯料金以外の家計分野まで含めた囲い込みが強まっていることも事実です。こうした複雑化や囲い込みの進行については、賛否が分かれるところだと言えるでしょう。
※サムネイル画像(Image:Shutterstock.com)






