かつて、スマホやガラケーには「SIMロック」がかかっており、キャリアを乗り換える際には、ロック解除が必要で、その際に手数料がかかることが多かったことを覚えている人も少なくないのではないでしょうか?
そして、2021年10月にSIMロックは原則として禁止されました。
それから3年以上の月日が経過したこともあり、そもそも「なぜSIMロックがあったのか」「なぜ廃止されたのか」「SIMロック廃止にはデメリットはないのか」といったことを改めて考えると、記憶が薄れていたり、十分に把握できていない方もいるのではないでしょうか?
この記事では、SIMロックが何であったのか、その廃止の背景、そしてSIMロック廃止によるメリットとデメリットについて解説します。
SIMロックの背景と目的
SIMロックとは、スマートフォンが特定の通信キャリアのSIMカードしか利用できないように制限されている状態のこと。
SIMロックがかかっている端末では、他社のSIMカードを挿入しても通信は不可。キャリアを変更する際は手数料を支払ってSIMロックを解除するか、変更先のキャリアの新しい端末を購入する必要がありました。
キャリアの利益保護の反面、消費者の選択肢を制限
事実上、SIMロックには「通信キャリアが自社のサービスにユーザーを囲い込むための仕組み」という一面がありました。
通信キャリアは、端末を割引価格で提供する代わりに、一定期間自社のサービスを利用する契約を結ぶことが一般的でした。SIMロックは、ユーザーが契約期間中に他社へ乗り換えることを防ぐための手段として機能していたのです。
SIMロックにより、ユーザーは他社の通信プランやサービスに簡単に切り替えることができない状態でもありました。そのためSIMロックが存在していた時代、キャリアに対しては「消費者の選択肢を狭めているのではないか」という批判がありました。
2019年の「通信と端末の分離」とは?
2019年、総務省は「通信料金と端末代金の完全分離」を義務化しました。これは、「端末を販売する際の通信料金を端末の販売をしない場合よりも有利にすること」や「契約の継続や、新しい端末を購入すること条件に、利益の提供をすること」、「過度な端末割引」が禁止となりました。
そうして2021年10月1日に、新規販売されるスマホのSIMロックが原則撤廃に。これによって、それ以前に発売された端末をのぞき、「SIMロック」というものが基本的になくなった形になります。
SIMロック廃止のメリットは結局、何だったのか?
SIMロック廃止の最大のメリットは、消費者にとって「同じ端末を使い続けながら他社の通信サービスに切り替えること」が容易になった点でしょう。
各キャリアが、料金プランやサービスの差別化を図るために、より魅力的な料金プランを打ち出すケースも増えました。ユーザーはより自分に合った料金形態の最適なプランを選択しやすくなると言えるでしょう。格安SIMへの気軽な乗り換えが定着したのは、SIMロック廃止の1つの成果だとも言えます。
さらに海外渡航時には、現地のSIMカードを利用することで高額なローミング料金を回避することができるようにもなりました。スマホの海外利用時の利便性に与える影響も大きいと言えます。
SIMロック廃止にデメリットはなかったのか?
ここまで、SIMロックがなくなったことによる一般の消費者のメリットについて解説しましたが、ではSIMロックがなくなったことの「デメリット」はないのでしょうか?
端末割引の縮小
SIMロックがなくなったことのデメリットには、まず「大胆な値引き」の消失が挙げられます。
先述した通りSIMロックの撤廃により、通信事業者は端末の大幅な値引きや「0円スマホ」といった販売戦略が取りづらくなりました。従来、通信事業者は端末を販売する際に「利用者が長期間契約を継続する」という前提で、販売価格を抑えるケースが珍しくありませんでした。
一方でSIMロックが解除されてしまうと、端末を値引きする根拠が薄くなります。よって従来と比較して、大胆な値引きを店頭などで見かける機会も減りました。
なお、あえて言えば各キャリアの「端末購入プログラム」は実質的に50%引き程度で端末を入手できるプログラムですが、これは実質的なリースであり「購入」と別物である点にも注意が必要です。従来の0円スマホや1円スマホに比べ、「端末購入プログラム」はリースな上に分かりづらいというのは欠点でしょう。加えて端末購入プログラムそのものも、2024年12月から値引き規制の対象になっており、今後は下火になる可能性が否めません。
個性的な端末の開発の縮小
SIMロック解除のデメリットとして、端末メーカーが利用者の長期契約を前提とした商品開発を行いにくくなるという点もあります。
まず従来、端末メーカーはキャリアと連携し、各キャリアに最適化された「特注品」を開発し、SIMロックを前提とした値引きなどを通じて消費者に端末を安く売るという構図が長く続いていました。新規購入や買い替え需要の底上げが行われることで、安定的な需要が見込めたのがその一因です。
このように端末メーカーとキャリアが「特注品」を作る中で、革新的なデザインや機能を搭載した端末を開発する余地が大きかったのです。
また、iモード(ドコモ)のような意欲的なサービスは、SIMロックを前提としている面も少なからずあります。独自サービスを素早く普及させ、ユーザー一人ひとりに長く使ってもらうためにはSIMロックは適した技術の1つだったと言えるでしょう。
「競争の激化」は賛否両論
キャリア間の競争がサービス内容や料金プランにシフトし、ユーザーにとっては従来より「料金プラン」の選択肢が増える結果となりました。
一方で携帯料金プランが年々複雑化し、ポイント還元なども合わせて複雑化。さらには「経済圏」が複数生まれて、携帯料金以外の家計の項目も含めた事業者による囲い込みが激化していることも事実です。この分かりづらさや囲い込みの激化には賛否両論という側面もあると言えます。
※サムネイル画像(Image:「photoAC」より)