
2021年10月から、マイナンバーカードと健康保険証が一体化した「マイナ保険証」の運用が始まりました。2024年12月2日からは従来の健康保険証の新規発行が停止され、マイナ保険証への移行が本格化しています。
多くの人がマイナ保険証を使うようになり、10カ月が経過しました。定期的に病院に通院している筆者は病院の受付でマイナンバーカードをかざすことにすっかり慣れましたが、マイナンバーカードを常に携帯することへの抵抗感や、紛失リスクへの懸念を抱いている人もいるでしょう。
一方、マイナ保険証の普及をさらに加速させる切り札として注目されているのが「スマートフォン対応」です。
この記事では、マイナ保険証の現状を概観しつつ、新たに対応が始まったスマホでの利用方法や医療機関での認証プロセスについて、詳しく解説していきます。
マイナ保険証の現状と普及状況
全国保険医団体連合会の発表によると、2025年6月時点でのマイナ保険証の利用率は30.64%にとどまっています。つまり、マイナ保険証の利用者は全体の3割ということです。
従来の保険証の新規発行が停止された2024年12月に利用率は一時的に上昇したものの、7割の人がいまだ手元にある有効期限内の保険証や、マイナ保険証を持たない人に交付される「資格確認書」を利用しているのが実情となっています。
医療機関でのカード利用と「顔認証」の広がり
多くの医療機関や薬局では「顔認証付きカードリーダー」の導入が進んでいます。

マイナンバーカードと健康保険証の連携は医療機関や薬局にある顔認証付きカードリーダーから可能です。ほかにも、マイナポータルや、セブン銀行ATMからできます。
カード式マイナ保険証の準備が完了した後に、医療機関の受付で顔認証付きカードリーダーを使用して本人確認を行います。患者本人がカードリーダーにマイナンバーカードを置き、顔認証もしくは暗証番号で本人確認が完了します。このとき、情報提供に同意するかどうかも選択します。
情報提供に同意すると、医療機関側で患者の電子カルテに、保険資格、受診歴、処方、健診結果といった情報が連携され、医師などが閲覧可能になります。
しかし現状、特に高齢の患者が認証に手間取るといったケースや「そもそもマイナンバーカードを持ち歩くことに抵抗があり、結局、物理カードを家に置いてきてしまった」「暗証番号を忘れてしまい結局、従来の保険証で確認せざるを得ない」といった状況も少なくありません。
このように、マイナンバーカードという物理カード特有の課題や、そもそも「常にカードを持ち歩きたくない」というニーズに応えるため、スマートフォンへの対応が期待されていました。
マイナ保険証のスマホ対応について
2025年9月19日から、対応機器の準備が整った医療機関・薬局で、スマートフォンのマイナ保険証利用が可能となりました。
【必要なもの】
・マイナ保険証の利用登録を済ませたマイナンバーカード本体
・最新版の「マイナポータル」アプリ
・券面入力補助用暗証番号(数字4桁) ※iPhoneのみ
・署名用電子証明書パスワード(英数字6〜16桁)
利用開始までの手順はAndroidスマホとiPhoneで異なります。
Androidスマホの場合は、以下の手順で設定します。まずはマイナポータルアプリを開きます。


申請完了後、登録できるようになるまで少し時間が掛かるので待ちましょう。筆者の場合は2~3分ほどで準備完了のプッシュ通知が届きました。

iPhoneの場合、マイナポータルアプリの「追加をはじめる」をタップして画面の指示に従って進み、本人認証を行ったあと、券面入力補助用暗証番号と署名用電子証明書パスワードを入力。マイナンバーカードの読み取りを行い、iPhoneのマイナンバーカードの利用者証明用暗証番号の設定などを行います。
受付の流れは?

受付の流れは、従来のカード利用時とは、受付の手順が一部異なります。
まず、医療機関や薬局の受付にある顔認証付きカードリーダーで「スマートフォンを利用」というボタンをタップし、スマホの種類をiPhoneかAndroidか選びます。
iPhoneの場合、Apple Walletを立ち上げてマイナンバーカードが表示されていることを確かめてからFaceIDもしくはTouchIDで本人確認を行います。
Androidスマホの場合は端末での操作は不要です。カードリーダーにスマホ用電子証明書の4桁の暗証番号を入力します。
その後、スマホを端末にかざして、同意情報の入力に進みます。
普及の課題について
マイナ保険証やそのスマホ対応は、「過去の正確な診療・薬剤情報に基づいた、より安全で質の高い医療の提供」「限度額適用認定証の申請が不要になるなど手続きの簡素化」などによる医療の質の向上という意味でも、広く普及した際のメリットは非常に大きなものになるでしょう。
ただしマイナ保険証やマイナ保険証のスマホ対応が「医療機関側で進んだ」としても「消費者側に一層広がる」にはまだ依然として多くの課題が残されています。
まずマイナ保険証を物理カードとして持ち歩くことそのものに対し、不安を抱く方が少なくない点です。マイナンバーカードに対する紛失時の不安や、個人情報漏洩への懸念から、自宅に保管しておくべきだと考える方が少なくありません。こうした課題を解決できる可能性を秘めているのが、マイナ保険証のスマホ対応であると考えられます。
しかし、マイナ保険証としての機能を利用できるスマホの機種は限られています。つまり、すべての機種で利用できるわけではありません。事前にデジタル庁のウェブサイトなどで対応機種を確認しておく必要があります。
マイナンバーカードのスマホ対応が進む一方で、行政・医療サービスの利用においてスマートフォンが“前提条件”となりつつある現状も見逃せません。
しかし、スマホを所有していても「そのスマホがマイナ対応か否か」が消費者にとってわかりづらいことは、行政サービスや医療サービスのわかりづらさに直結します。
マイナンバーカードのサービスを余すことなく利用できるスマホの入手性を高めることが、国として求められつつあるのかもしれません。