2025年3月末をもって原則廃止される、ICチップ搭載のクレジットカードのサイン決済。サイン決済廃止の背景には、クレジットカードの不正利用額の増加が挙げられます。なお、サインに代わり必須となるのが、暗証番号の入力です。
一見するとサイン決済廃止は、クレジットカードのタッチ決済などに慣れている方にとっては影響が小さいように思えます。しかし実はサイン決済が廃止されると『ガソリンスタンド』での支払いが面倒になるかもしれません。
今回はサイン認証の現状と廃止の背景、そしてガソリンスタンドでの「サイン決済廃止」の動向について解説します。
サイン認証の現状と廃止の背景

クレジットカードのサイン認証は、長年にわたってクレジットカード決済の基本として利用されてきました。しかし、サインだけでは本人確認が困難で、盗難カードの場合、不正利用が簡単にできてしまうという問題点がありました。
さらに、国際標準との整合性も理由のひとつ。実は欧米では2018年から主要カードブランドがサイン不要化を推進し、タッチ決済が急拡大しています。
たとえばEU加盟国では2019年に、カード会社に対して強力な顧客認証(SCA)を義務化。SCAでは、決済時、暗証番号の入力や生体認証などが求められます。また、アメリカでは2019年、2020年にEMV-3DSによるライアビリティシフトを適用しています。
日本もこの流れに追随し、より安全で便利な決済方法への移行を進めることとなったと言えるでしょう。
サイン認証廃止の主な例外ケース
サイン認証の原則廃止に伴い、いくつかの例外ケースが存在します。まず、PINレス取引です。1万円未満の少額決済などにおいては引き続き暗証番号が不要となり、これは「PINレス取引」と呼ばれます。
次に、もともとPINが設定されていない海外発行カードを持っている場合。訪日外国人旅行者など、暗証番号による本人確認ができない海外発行のクレジットカード利用者のために、サインでの対応になることもあります。
「サイン決済」廃止が近づく中、フルサービス式ガソリンスタンドでの支払いはどうなる?
サイン決済の廃止の影響が最も大きいと考えられるのが「フルサービス式ガソリンスタンド」です。

サイン決済が全面的に廃止されてもセルフ式ガソリンスタンドでは、既存の端末が暗証番号入力に対応しているため、大きな変更はないと考えられます。
一方でフルサービス式ガソリンスタンドでは、従来スタッフがカードを預かった上で支払いを処理するのが主流であり、サイン決済の利用も一般的です。
そのためサイン決済廃止後は「顧客自身が端末で暗証番号を入力する方式に移行する」可能性がありますが、この際に課題となるのが決済端末の更新です。決済端末更新は店舗側の費用負担が大きく、3月末までに端末更新が完了する店舗は必ずしも多いとは言えないかもしれません。
フルサービス式ガソリンスタンドにおける当面の対応について
「すべて」のフルサービス式ガソリンスタンドが3月末までにサイン決済全面廃止に完全に対応し、端末も更新するのは、業界の実情を踏まえても現実的ではないかもしれません。
そこでクレジット取引セキュリティ対策協議会が公表している「クレジットカード・セキュリティガイドライン 【3.0 版】」では以下のような指針が示されています。
・ただし、一部残存する「PIN」による本人確認が実施できない特殊なケース等(オフライン PIN未サポートの海外発行カード、PIN バイパス実施時、ガソリンスタンドのフルSSにおける車内精算等)で、現状「サイン」による本人確認をしている場合においても、今後「サイン」を取得しないことを推奨し、「サイン」の照合は不要とする。
つまりサイン決済廃止後は「サインを取得しないことを推奨し、照合も不要となる」ということです。ただしサイン決済の廃止の大きな目的がセキュリティ向上であるとすると、この対応はあくまで暫定的なものという感は否めないでしょう。
現実的には車内精算をこれまで行っていたフルサービス型の店舗でも、支払い時のみはドライバーが車から降りて、店内の端末でクレジットカード決済する機会が生じてしまうかもしれません。PIN入力が可能なハンディ端末の開発・導入及び全国のフルサービス型のガソリンスタンドへの普及には、サイン決済の全面廃止後ももう少し時間がかかるかもしれません。
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