
2025年4月30日をもってサービスを終了した「LINE Pay」。2025年12月23日にはLINE Pay株式会社も、2026年3月31日付で吸収合併により解散することが決定しました。2023年10月1日のLINEとヤフーの完全合併により誕生した「LINEヤフー」グループが、国内の決済領域をPayPayに一本化する戦略の最終段階と言えるでしょう。

しかし、視点をアジアに向けると、LINE Payのサービスは「終わる」どころか、現在も急成長を続けています。特に台湾においてLINE Payは、単なる決済アプリにとどまらない「国民的決済インフラ」です。台湾の人口約2,340万人のうち、LINE Payのユーザー数は1,270万人を突破。現地の競合他社(街口支付など)を抑え、実に「国民の2人に1人」が利用している計算になるのです。
なぜ台湾でこれほどまでに受け入れられたのでしょうか。要因を整理すると、単なる「支払いツール」を超えた、生活密着型の戦略が見えてきます。
台湾ではシェアNo.1の「国民的インフラ」

台湾の街中を歩けば、屋台から百貨店、コンビニエンスストアに至るまで、至る所でLINE Payのロゴを目にします。1,270万人を超えるユーザー数を誇り、台湾を代表するモバイル決済サービスとして定着しています。

総じて、台湾におけるLINE Payの成功要因は「メッセージアプリとしてのLINEの独占的な地位」を土台にしつつ、現地のニーズに合わせた徹底的なローカライズを行ったことであると言えるでしょう。
LINE Pay台湾は「Suica」+「PayPay」

特に大きなターニングポイントとなったのが、台湾南部の高雄市を拠点とする交通系ICカード企業「一卡通(iPASS)」への出資と連携でした。
そもそも台湾の決済ライセンス制度は、QRコードなどを使う「第三者決済」と、現金をチャージして交通機関などで使う「電子マネー(電子票証)」に分かれていました(現在は法改正により両制度は統合されています)。
LINE Payは当初、クレジットカード紐づけ型の第三者決済としてスタートしましたが、これだけではクレジットカードを持たない若年層や、日常的な電車・バス移動のシーンを取り込むことができません。
そこでLINE Pay台湾は、すでに交通インフラとして普及していたiPASS社と資本業務提携を行うという大胆な戦略に出たのです(※現在は資本関係を解消済み)。これにより、ユーザーはLINEアプリ内から銀行口座経由でチャージでき、友人への送金や割り勘、公共交通機関での支払いまで可能になりました。
日本では「Suica」と「PayPay」が別のアプリ・別の経済圏として存在していますが、台湾のLINE Payはこれらを一つのアプリ内で完結させる体験を実現したのです。この利便性が、若年層や現金派のユーザーを一気に取り込む起爆剤となりました。
夜市から百貨店まで網羅する加盟店開拓
また、台湾特有の文化である「夜市(ナイトマーケット)」への浸透も重要な戦略でした。クレジットカード端末の導入が難しい個人商店や屋台に対し、QRコードのスタンドを置くだけで導入できるLINE Payは親和性が高く、急速に普及しました。
「高級デパートでの買い物」から「屋台での一杯のタピオカミルクティー」、「毎朝の通勤電車」まで、台湾の人々の生活動線のすべてにLINE Payが入り込むことに成功したのです。この徹底した展開もまた、他社の追随を許さない強さの要因と言えるでしょう。
LINE Pay台湾の「クロスボーダー決済」について
台湾は、韓国やタイなど近隣諸国からの観光客にも人気の旅行先です。また、台湾の人々も海外旅行を好みます。
そこでLINE Pay台湾は、韓国やタイの決済事業者との連携を強化しており、台湾のユーザーが韓国旅行中にLINE Payで支払ったり、逆に韓国の観光客が台湾の夜市でスマホ決済を利用したりできる環境整備を進めています。特に、台湾を訪れるインバウンド観光客を取り込むことは、加盟店にとっても大きなメリットとなります。
つまり日本ではサービス終了したLINE Payは、台湾や韓国に目を向けると「Suica + PayPayのような利便性」を備えたうえで「アジアの共通決済インフラ」としての地位を確立する可能性を秘めたサービスへと急成長しているのです。



