ソニーの光学ディスクと言えば『DVD』『Blu-ray』を思い浮かべる方も多いでしょう。その反面で00年代~10年代に大きな普及の可能性を秘めながらも、完全に消えてしまった光学ディスクもあります。
それがPSPで主に採用されていた『UMD』です。
UMDはPSPの光学ディスクとして長く愛されたことに加え、2011年に開始された『UMD Passport』が2016年までサービス継続したこともあり、PSP関連のサービス名としても広く定着した名称です。
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UMD Passportは手元にPSP用のUMD版ゲームタイトルを持っていればダウンロード版が割引購入できるというサービス。PSPからPS Vitaへの移行期に、ユーザーの既存のゲームライブラリを活用できるようにするためのサービスでしたが、2016年3月31日に終了しています。
では、なぜUMDは消えてしまったのでしょうか?
携帯機器における「ディスク」の限界
まずはそもそも、携帯機にディスクドライブを搭載するという設計の難点がありました。
UMDは光学ディスクであるため、そのドライブを携帯機器に搭載する際に以下のような弱点がありました。
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中長期的に見た際に、光学ディスクを携帯機器に搭載することには難しさがあり、その問題点が後の『PSP go』の登場を促した側面もあるでしょう。
なおUMDが登場した当初は大容量メディアとしての利点がありましたが、その後10年代にかけてメモリースティックやSDカードなどのフラッシュメモリ技術が急速に進化しました。今日の携帯ゲーム機のソフトでは、こうしたフラッシュメモリ技術を活用したスロットを用いるか、ダウンロード販売が主流です。
PSP goの存在

PSPの登場から約5年後に登場したPSP goではUMDドライブが廃止され、デジタル配信が主流となりました。この動きは、物理メディアとしてのUMDの役割を大きく縮小させる結果となりました。
その後2011年12月に登場したPlayStation Vitaでは、PSP goに引き続きUMDドライブは廃止されたままであり、UMDに代わり、新たに「PlayStation Vitaカード」(フラッシュメモリ)が採用されました。
UMDは登場当初こそ、ゲームから映像・音楽までカバーする光学ディスクとして期待されたものの、少なくともゲーム向けの媒体としては「フラッシュメモリの進化」というトレンドを読み切れず、中途半端な立ち位置に留まり続け、そのまま衰退した感があります。
汎用的かつ携帯性が高い映像・音楽メディアとしての失敗
UMDはゲームだけでなく、映像や音楽メディアとしての利用も想定されていましたが、これらの分野では成功しませんでした。
その大きな要因には、UMDドライブの搭載端末がさほど広がらず、実質的にUMDがPSP限定のデバイスに留まったことが挙げられるでしょう。まず当時はモバイルで映像を楽しむ文化が十分に普及しておらず、需要が限定的でした。
また自宅で楽しむDVDやCDはPSPで再生できず、PSPで再生できるUMDは自宅の大きな画面では再生が難しいという互換性の悪さもネックになったでしょう。
特にUMD Videoは、DVDと同等の価格でありながら、実質的にPSPでしか再生できないという制約があり、消費者に受け入れられませんでした。
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たとえばインターネットリサーチサイト「C-NEWS」が2005年8月に行ったPSPおよび家庭用ゲーム機に関する調査によると、「UMD Video」の所有率は男女ともに約13%で、5割以上が「持っていないし、近いうちに買う予定もない」と回答したとのこと。一方、調査は05年9月に発売されたフルCG作品『ファイナルファンタジーVII アドベントチルドレン』がDVD版とUMD版のリリース直前に行われていましたが、この作品については男女ともに5割以上が「購入あるいはレンタルで見てみたい」と回答していました。
しかし、UMDビデオソフトとしてヒットしたのはこの作品のみといっても過言ではありません。ほとんどの作品は他の形式では売れても、UMD版の売れ行きが伸びず『ファイナルファンタジーVII アドベントチルドレン』だけが例外的なヒットでした。
00年代を通じて想像以上に「DVD」が愛用され続けた
00年代~10年代に「モバイル端末でゲームから映像・音楽までマルチに楽しむ」という方向性を志向したのが、PSP及びUMDディスクであったと言えるかもしれません。
このうち「モバイル端末でゲームを楽しむこと」自体は十分に定着しており、PSPはデバイスとして大ヒット作でもありました。
一方でモバイル端末で映像や音楽を楽しむことは、スマホの普及やYouTubeの人気拡大が起こる「前」の時代には難しかった感も否めません。UMD Videoが実現していた高画質な映像の再生を「モバイル端末で行う」ニーズがまだまだ小さく、魅力が伝わらなかったのがその一因でしょう。
加えて00年代~10年代にかけて想像以上にDVDが愛用され続け、DVDに代わる映像媒体を求める声が小さかった面もあるでしょう。ましてDVDに代わる媒体が「携帯性を備えた光学ディスク」である必要性も小さかったと言えるのではないでしょうか。
総じてPSPの『UMD』は野心的ではあったものの、フラッシュメモリ技術の急速な進化を読み切れず、まずゲーム向けのディスクとしてはPSP以外には広がらなかったと言えます。比較的短期間のうちにPSP go、PS Vitaが登場したことで、PSPそのものでもUMDは行き場を失った感が否めません。
こうした互換性の低さが汎用的な映像・音楽メディアとしての普及を妨げ、DVDからUMD Videoに買い替えたいという需要を生み出すことにも失敗した一因でしょう。
仮にPS3とPSPの間に互換性があり、PS3で再生する映像媒体としてUMD Videoが機能していれば、UMDには別の展開もあり得たかもしれません。
※サムネイル画像(Image:Vincenzo De Bernardo / Shutterstock.com)