音楽のフォーマットには「AAC」「FLAC」などさまざまなものがありますが、いわば老舗フォーマットというべき存在が「MP3」。90年代からMP3を愛用し続けている方は、この記事をお読みの方の中にも多いでしょう。
とはいえ冒頭でも述べた通り、すでに音楽のフォーマットは多様化が進み、MP3の後継に該当するものやより高音質なものもあります。では、それでもなおMP3が愛用され続けているのはなぜなのでしょうか?
この記事では、MP3が「事実上の標準規格」として支持され続ける理由や、WAV・ロスレスとの違いについて、分かりやすく解説していきます。
「事実上の標準規格」としてのMP3:WAVとの違いは?

MP3(MPEG-1 Audio Layer 3)は1990年代初頭に開発され、1995年頃から普及し始めました。
当時、インターネット回線速度やストレージ容量は限られており、非圧縮の音声ファイル(WAVなど)は扱いにくいものでした。そんな中、MP3は、人間の聴覚特性を利用して知覚しにくい音のデータを削除する「非可逆圧縮」技術を用いることで、ファイルサイズを劇的に削減することに成功しました。
長期間にわたり広く利用された結果、多くのハードウェアメーカーやソフトウェア開発者がMP3の再生・エンコード機能を標準で搭載するようになり、事実上の標準フォーマットとなりました。
「枯れた技術」の信頼性と多様なデバイス
一方、今やMP3は技術的に「枯れた」(成熟した)フォーマットであるため、再生互換性の問題が発生しにくいという側面もあります。新しいフォーマットは、特定のデバイスやソフトウェアでサポートされていない場合がありますが、MP3であれば「とりあえず再生できる」という安心感があります。
MP3はいわゆるMP3プレイヤーのほか、スマートフォン、パソコン(Windows, macOS, Linux)、カーオーディオ、スマートスピーカー、ゲーム機など、新旧問わずほぼ全てのオーディオ再生デバイスがMP3形式に対応しています。
十分な音質と既存のライブラリ
MP3はビットレートが極めて低い場合には低音質が際立つものの、ビットレートを高めに設定すれば(例: 192kbps以上)、多くの人にとってはWAVとの音質差を聞き分けるのが困難なレベルになります。そのためMP3は「十分な音質」があると言え、長年にわたってCDのリッピングや、音楽のダウンロード販売でデファクトスタンダードのフォーマットとして使われてきました。
そのため「既存のライブラリを楽しみたい」場合には、MP3は今でも現役で使う機会が多いでしょう。
一方でストリーミングサービスではAACがスタンダードになりつつあり、少しずつ存在感も薄れています。
ライセンス
MP3に関連する特許はすでに期間満了しており、ライセンス料なしで自由に利用できる(オープンフォーマット)状態です。ライセンスが継続していた期間のMP3は特許を巡るさまざまな問題もしばしば勃発したものの、そうした問題が解決している状況だと言えるでしょう。そのため気軽に使えるスタンダードなフォーマットとしても今でも人気があります。
MP3の圧縮技術の特徴

MP3の圧縮技術の特徴は、音声データの圧縮時に一部の情報を破棄すること。削除されるのは、人間が聞き取りにくい周波数の音や、他の音にマスキングされる音です。たとえば大きな音と小さな音が同時に再生される場合、小さな音は人間には気づきにくいため、削除されます。
こうした仕組みにより、CD品質の音声(16-bit/44.1 kHz、約32 MB/3分)は、MP3で128 kbpsに圧縮すると約3 MBにまで削減されます。
MP3はロスレスと何が違う?
先述した通り、MP3は圧縮時にデータの一部が失われます。分かりやすく言えば「損失あり圧縮」です。
一方、ロスレスは、その名の通り「損失なし圧縮」です。FLACなどの音声ファイルのサンプリングレートやビット深度は希望する設定によって異なりますが、たとえばCD音源と同程度の場合、数十MB程度のファイルサイズになることも珍しくはありません。
そしてこのファイルサイズは、当時であれば「視聴用途としては実用性に乏しい」ものの、今日では端末のストレージ容量が拡大し、オーディオ愛好家にとっては十分に実用的です。

2025年のオーディオフォーマットのトレンドでは、ロスレスフォーマット(FLACなど)の需要が増加傾向にあります。特にストリーミングサービスではAACが主流ですが、ダウンロードや所有型の音楽ではFLACが好まれる傾向があります。これは「所有するならば高音質の方が望ましいが、光ディスクを手元に置きたいわけではない」というユーザーの好みを表していると言えます。
MP3の将来性
一方、MP3は依然としてウェブやストリーミング用途での再生互換性が高く、人気のあるフォーマットとして位置付けられています。ビットレートの柔軟性(128kbpsから320kbpsまで)なども昔も今も変わらず評価されています。
そのため従来の音楽ライブラリを引き続き楽しむ場合には、MP3はやはり筆頭でしょう。一方でストリーミングではAACが台頭し、高音質フォーマットではFLACなどが台頭しています。
「枯れた技術」としてMP3は一定の定着をし続けるものの、「新たなニーズを開拓する」には若干の時代遅れ感が強まってきたフォーマットである、と言えるかもしれません。
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