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ADSLはなぜ終わる?モデムばら撒きが果たした「ネット高速化」の歴史と終幕

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(Image:Shutterstock.com)
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ADSL(Asymmetric Digital Subscriber Line)は、かつて日本のインターネット普及と高速化を牽引した技術ですが、近年その役割を終えつつあります。

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(画像は「NTT東日本」公式サイトより引用)

実際、NTT東日本は2025年1月31日をもってサービス終了済み。NTT西日本も2026年1月31日をもってフレッツ・ADSLのサービスを完全終了します。

ADSLが終焉を迎える主な理由は、より高速で安定した光回線の普及が挙げられますが、光回線は地域によって95%を下回ることも。2022年には当時の岸田文雄首相が「光ファイバーについて、2027年度末までに世帯カバー率を99.9%を必達目標」と発言しましたが、逆に言えば国内の安定した通信インフラには課題があるとも言えます。

そのため、ADSLは2025年現在の基準では低速な通信手段ですが、日本のブロードバンドの歴史で果たした役割は大きく、その寿命も極めて長いものだったと言えるのではないでしょうか。

今回はそんなADSLが果たしたネット高速化の歴史や、サービス終了に向かうまでを振り返ってみましょう。

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(画像はスマホライフPLUS編集部作成)
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(画像はスマホライフPLUS編集部作成)

特に2001年にYahoo! BBが仕掛けたモデムばら撒きと「価格破壊」は、ブロードバンドの歴史に極めて大きな爪痕を残し、その後の発展に大きな貢献をしたと言えるでしょう。

ADSL登場前夜 – 「つなぎっぱなし」ではなかった日本のインターネット

ADSL登場前夜 – 「つなぎ放題」ではなかった日本のインターネット1
(画像はスマホライフPLUS編集部作成)

2000年代以前、インターネットへの接続は「必要な時に、時間を気にしながら」行うのが常識でした。

そもそも1990年代後半、インターネット接続の主流は「ダイヤルアップ接続」でした。これは、家庭にある電話回線を使い、パソコンに内蔵または外付けされたモデムからプロバイダーのアクセスポイントに電話をかけることでインターネットに接続する方式です。

最大の課題は、その料金体系と速度でした。料金は接続時間に応じて課金される「従量課金制」が一般的で、電話料金がそのまま通信費に跳ね返ってきました。つまり、ネットにつないだ分、料金が嵩んでしまうという仕組みでした。

通信速度は最大でも56kbps程度。これは現在の光回線の数千分の一にも満たない速度であり、画像が1枚表示されるのをじっと待つ、といった体験が日常でした。

その後、ISDN(Integrated Services Digital Network)が台頭したものの、これもまだ「高速」というには物足りず、料金も高額でした。

誰もが「もっと速く、もっと安く、いつでもつながる」インターネットを求めており、この需要に応えたのがADSLだったと言えるでしょう。

ADSL技術の革新性と日本市場の障壁

ADSLは、既存の電話回線(銅線、メタル線とも呼ばれる)をそのまま利用しながら、音声通話で使われていない高い周波数帯域を使って高速なデータ通信を実現する画期的な技術でした。特に、Webサイトの閲覧やファイルのダウンロードが主な用途であった当時の利用実態に合わせ、下り(ダウンロード)の速度を上り(アップロード)よりも高速にする「非対称」な設計が特徴で、非常に合理的でした。

ただしADSLの日本国内での普及は当初は「腰が重く、ゆるやか」なものでした。その大きな要因にはNTTが次世代の通信インフラとして光ファイバー(FTTH)を本命と位置づけていたことが挙げられます。同社が過渡的な技術と見なしていたADSLの普及には消極的だったと考えられます。

この膠着状態を打破するために動いたのが、政府(当時の郵政省)でした。2000年代初頭、政府は「e-Japan戦略」を掲げ、高速インターネット網の整備を国家的な重要課題と位置づけました。

郵政省はNTTに対し、接続料の大幅な引き下げや、他事業者がNTTの電話局内に自社のADSL関連設備を設置する「コロケーション」のルール整備などを強く要求しました。

こうした規制緩和の波をとらえ、冒頭で述べた「モデムばら撒き」と「価格破壊」へと乗り出したのがYahoo! BBでした。

Yahoo! BBが仕掛けた「価格破壊」と「モデムばら撒き」

2000年代初頭、多くの人が駅前や家電量販店で目にしたであろう「Yahoo! BB」と書かれた赤い紙袋。スタッフが「モデムを無料でお配りしていまーす!」と声を張り上げる場面に出くわした記憶があるという方も少なくないのではないでしょうか。

それは、インターネットが一部のマニアのものではなく、誰もが家庭で手軽に利用できる「当たり前」のインフラへと変わる、大きな転換点だったと言えるでしょう。

規制緩和の波をとらえ、回線開放への道筋がつくと、ソフトバンクは満を持して市場に参入。「価格破壊」と「モデムばら撒き」を大きな武器として、革新的なマーケティングを行います。

モデム無料配布と「パラソル部隊」

Yahoo! BBの象徴とも言えるのが、街頭や家電量販店でADSLモデムを無料で配布する前代未聞のプロモーションでした。赤と白のパラソルを立てたブースで、スタッフがモデムの入った赤い袋を配る「パラソル部隊」は、全国的な社会現象となりました。

このモデムばら撒きは短期的な赤字を覚悟の上で、まず顧客にサービスを体験してもらい、市場シェアを先行して獲得するという「LTV(顧客生涯価値)」に基づいた経営判断と言え、極めて多くの方にとって難しそうに見えるインターネット接続を身近なものへと変える効果があったと言えるのではないでしょうか。

低価格戦略と付加価値戦略

2001年当時、他社のADSLサービスが月額5,000円から6,000円程度で提供されていたのに対し、Yahoo! BBは下り最大8Mbpsのサービスを月額2,280円(税別)という衝撃的な価格で提供開始しました。(出典:ソフトバンクニュース

その後、2002年4月には、Yahoo! BB加入者同士の通話が無料になるIP電話サービス「BBフォン」を開始。 これが爆発的な人気を博し、単なるインターネット接続以上の付加価値を提供することで、顧客を自社のエコシステムに強く引きつけました。

ADSLがブロードバンドの歴史で果たした役割とは?

Yahoo! BBが火をつけた価格・速度競争は、ADSLを社会インフラの地位へと押し上げました。その結果もたらされた「高速・定額・常時接続」という環境は、日本のインターネット接続の歴史を大きく変革したと言えるでしょう。

知りたいことがあれば、いつでもすぐに検索する。大容量のファイルをダウンロードすることも、もはや特別なことではなくなりました。この変化が最も顕著に現れたのが、コンテンツ消費の分野です。

ブロードバンドの普及は、動画共有サイト(2007年に日本語版サービスが開始されたYouTubeや、2006年開始のニコニコ動画など)、音楽ストリーミング、高画質なオンラインゲームといった、大容量のデータ通信を前提とするサービスが一般家庭で楽しまれるための土台を築きました。(出典:総務省「令和元年版 情報通信白書」) インターネットは「文字を読む」ものから、「映像と音で体験する」ものへと進化したのです。

ADSLがブロードバンドの歴史で果たした役割とは?1
(画像はスマホライフPLUS編集部作成)

ブロードバンドの普及は、日本の経済構造にも大きな影響を与えました。内閣府の「日本経済2004」によると、パソコン価格やインターネット接続料の低下は、2000年度から2003年度までの累計で約3兆円相当の消費者メリット(消費者余剰)を生み出したと推計されています。

ADSLが築いたこの土壌なくして、現在の巨大なEC市場やデジタルコンテンツ産業の発展はあり得ませんでした。

かつて街角で配られた赤い袋は、単なるモデムが入った袋ではありませんでした。それは新しいブロードバンドの時代とその後のインターネットの発展に向けた、チケットのようなものだったのかもしれません。

※サムネイル画像(Image:Shutterstock.com)

スマホライフPLUS編集部

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