
日本語入力システム(IME)の定番「ATOK」。2025年11月25日、サブスクリプションサービス「ATOK Passport」の料金体系変更が発表され、ネット上では「実質的な大幅値上げ」と話題になっています。
無料のGoogle日本語入力やMicrosoft IMEがある中で、月額660円、年額にすれば約8,000円を払ってまで使う価値はあるのでしょうか?
「ATOK Passport」がプラン一本化で実質値上げへ
今回の値上げはATOKのベーシックプランである「ATOK Passport」の廃止によるもの。すべてのユーザーが月額660円(年額7,920円)の「プレミアム」プランに移行する必要があります。
月額330円の「ベーシック」廃止、月額660円の「プレミアム」に統一

プレミアムプランでは、ATOK for Windows/Mac、ATOK for Android[Professional]、ATOK for iOS[Professional]など、一連のサービスがすべて利用できます。しかし「Windows PCだけで使いたい」というユーザーにとっては、間違いなく“改悪”と言える内容です。
一方でジャストシステム側は、今回の一本化を「今後の機能拡張に向けた体制整備」と説明しており、単なる値上げではなく「これからの日本語入力の標準をプレミアム機能に寄せる」狙いも感じられます。
値上げでも手放せない理由1:プロが信頼する「変換精度」と「校正力」
そもそもATOKとは、ジャストシステムが手がける日本語入力システム(IME)であり、文脈を解析し、自然な日本語に変換する能力が高く予測変換機能も優秀。ユーザーのタイピング履歴を学習して精度を向上させる機能も備えています。
ATOKが日本語入力のIMEとして支持が根強い理由には、公用文ルールに適応した変換精度や充実した辞書、使えば使うほどさらに変換精度が上昇していく機能などが挙げられます。
法律家や実務家が支持する「間違いを許さない」変換機能
ATOKの特徴のひとつは、法律家の方からの支持が大きいこと。たとえば司法書士、行政書士など正確さが求められる文書作成の機会が多く、なおかつ文書作成ごとに新旧対照表を作る機会が多い方は「一太郎」及び「ATOK」を使うケースが少なくありません。

たとえば2022年に公用文のルール変更があり、原則、読点が「,(コンマ)」から「、」になりましたが、ATOKはこれに対応。ついクセで「,(コンマ)」を使ってしまっても、「、」に訂正してくれます。
ATOKは「ATOK専門用語変換辞書シリーズ」に対応しており、別途購入することで信頼性が高い辞書・辞典と連携しながら「入力しながら言葉の意味を調べる」「正確な変換」なども可能。専門用語を多く用いる文書作成でも、校正が効率的にできます。
こうしたATOKの特徴と、一太郎の新旧対照表作成機能や「シート」機能の相性も良く、一太郎はATOKを最も活かせるワープロソフトの1つであることは間違いないでしょう。
「記者ハンドブック」連携で校正コストを削減

ATOKは辞書・辞典との連携が可能です。その中でも便利な辞書の1つが「共同通信社 記者ハンドブック」。報道機関や企業の広報部門など、特定の文体や表記ルールを厳密に守る必要がある場面で用いられることが多いのが「記者ハンドブック」ですが、このハンドブックに準じた変換や表記チェックを徹底するのは非常に手間がかかる作業です。
その点、ATOKを用いることで校正が非常に簡単になります。
月額660円は一見高く感じられますが、「毎月数時間の校正作業が削減できる」「誤字や表記ゆれのリスクを減らせる」といった効果を考えれば、十分に元が取れる“文章品質への投資”と言えます。
値上げでも手放せない理由2:生成AIと新技術による「未来の執筆体験」
不満の声が聞かれることが多い今回の価格改定ですが、ATOK自体の性能も向上する予定です。2026年から搭載予定の新機能についてご紹介します。
生成AIが”自分らしい”文章を提案する「ATOK MiRA」
2026年2月に搭載予定の新機能が、「ATOK MiRA(エイトック ミラ)」。単なる変換エンジンの延長ではなく、生成AIを組み込んだ「文章作成パートナー」のような存在を目指しています。ユーザーの入力傾向やよく使う言い回し、これまでの文脈を学習しながら、「いつもの自分らしいトーン」を保ったまま文章の推敲や書き足し、言い換えを提案してくれるのが特徴です。

たとえば、メールの下書きをざっくり書いたあとに、「もう少し丁寧な表現にしたい」「短く要約したい」と思ったとき、これまでは自分の頭の中で書き直すしかありませんでした。ATOK MiRAが本格的に動き出せば、その場で「もう少しフォーマルに」「読点を減らして読みやすく」といった指示を与えるだけで、AIが自分の文体を踏まえながら複数の候補を提示してくれるようになります。
無料IMEでも最近はAI変換や予測入力の精度が上がっていますが、ATOK MiRAは「ATOKが長年蓄積してきた日本語処理のノウハウ」と「ユーザーごとの文体学習」を組み合わせることで、より“その人らしい”文章提案を行える点が大きな違いになるでしょう。月額660円を「これから数年以上使い続けるAIライティング環境への先行投資」と考えるなら、決して割高とは言い切れません。
進化するエンジンと「ATOK Sync One」による完全同期
2026年6月以降には「ATOK Sync One」も提供予定となっています。

「ATOK Sync One」は、Windows、Mac、Android、iOSという4つのプラットフォーム間で、登録単語や入力履歴が完全に同期されるようになります。スマホで覚えた単語がPCですぐに出る、あるいはPCでの執筆の続きを移動中のiPhoneでスムーズにできるようになることが、これまで以上にシームレスに。場所やデバイスを選ばず、常に自分仕様の快適な入力環境が手に入るのは大きなメリットです。
「一太郎」ユーザーにとってはさらなるメリットも

ATOKの開発元であるジャストシステムは、長年にわたり日本語ワープロソフト「一太郎」を進化させてきたメーカーでもあります。2026年2月に発売予定の「一太郎2026」では、単なる文書作成だけでなく、情報漏洩対策やセキュリティ面の強化にも力を入れています。
具体的には、文書内で使われている写真の顔や文字情報を検出してぼかしやモザイクを入れられる「プライバシーフィルター」機能や、文書内に含まれる氏名・住所・電話番号などの個人情報を自動的に検出し、注意喚起してくれる「個人情報チェック」機能が搭載される見込みです。
ATOKと一太郎を組み合わせて使えば、「正確で読みやすい文章を効率よく作る」ことと、「情報漏洩リスクを抑えながら安全に運用する」ことの両方を同時に実現できます。企業や官公庁、大学といった組織で文書作成を担当している人にとっては、ATOK Passportのプレミアム環境は、単なるIMEのサブスクではなく、「ワープロ環境全体をアップデートするための基盤」として機能していくでしょう。
なお、「一太郎2026」を購入すれば、ATOKのプレミアム版を1年間無料で利用することができます。まずはそれを試し、ATOKの使い心地を確かめてみることもおすすめします。
※サムネイル画像は(Image:「photoAC」より)



