
スマートフォンと同じです。最初は設定を細かく触っていたのに、慣れてくるといつの間にか「まあ、これでいいか」になっていく。AIも今、まったく同じ道をたどっているかもしれません。
2026年2月、AIメーカーのAnthropicが公開した「AI Fluency Index」は、約9,830件の実際の会話データを分析した、現時点では世界でも類を見ない規模のAIリテラシー調査です。そこに映し出されたのは、「AIを使っているつもりが、AIに使われている」という、不都合な現実でした。
そもそも「AIリテラシー」って何で測る?
この調査の土台となったのが、リック・ダカン教授とジョセフ・フェラー教授がAnthropicと共同開発した「4D AIフルーエンシー・フレームワーク」です。委任(Delegation)・記述(Description)・識別(Discernment)・勤勉(Diligence)の4領域で24の行動指標を定義し、「何を作ったか」ではなく「どう使ったか」を測定します。
2026年1月の7日間、Claude.aiで行われた複数ターンの会話が分析対象。測定できた11の指標には「反復と改善」「事実確認」「推論への疑問」などが含まれます。
ポイントは、TOEIC的な「スコア化されたテスト」ではなく、実際の会話行動から習熟度を読み取る設計にあります。それだけに、結果はリアルです。
「やり直す人」は、2倍賢い
調査で最も強い相関を示したのが「反復と改善」という行動でした。
サンプルの85.7%がこの行動を取っており、最初の回答で終わりにするのではなく、やり取りを重ねて成果を磨いていました。そして数字が面白い。
反復のある会話では平均2.67個の追加リテラシー行動が確認されたのに対し、反復なしの会話では1.33個。ちょうど2倍です。さらに、AIの推論に疑問を投げかける確率は5.6倍、文脈の欠落を指摘する確率は4倍にのぼりました。
「最初の答えをそのまま使う人」と「もう一度考えさせる人」の間には、使い方の量ではなく、質に決定的な差があるわけです。

「丁寧に頼む人ほど、確認しない」という逆説
ここが今回の調査で最も見過ごせないポイントです。
コード、文書、インタラクティブツールなどの「アーティファクト(成果物)」を生成する会話では、ユーザーは入口で非常に積極的に指示を出していました。目標の明確化は14.7ポイント増、フォーマット指定は14.5ポイント増、具体例の提示は13.4ポイント増。ここまでは優等生です。
ところが出口で、様相が一変します。文脈の欠落を指摘する割合が5.2ポイント低下し、事実確認が3.7ポイント、推論への疑問が3.1ポイントそれぞれ低下しました。
丁寧に頼んだ分だけ、出てきた結果を信頼しすぎる。「完成品に見える」という見た目が、批判的思考をオフにしているわけです。
Anthropic自身のEconomic Indexによれば、最も複雑なタスクほどAIが苦戦する傾向があります。本来は複雑なアウトプットほど精査が必要なのに、精査が最も減る──これは構造的な問題です。

「使い方を指定する人」はたった3割
もう一つ、見過ごせない数字があります。
「前提が間違っていたら反論してほしい」「不確かな点を明示してほしい」「推論過程を先に説明してほしい」──こうした対話のルール設定をしているユーザーは、全体のわずか30%でした。
AIを最大限に活かすための、最もシンプルで効果的な習慣。それを実践している人が7割いないという現実は、道具の性能を語る前に「取扱説明書を読んでいない」状態と言えます。
これは知識の問題というより、習慣の問題です。「良い質問をする訓練」を、AIに対しても意識的に行っているかどうか。
コーディング研究と合わせると見えてくる「もう一つの危機」
この調査は孤立した発見ではありません。Anthropicが2026年1月に発表したコーディングスキルの研究では、AI支援を受けた開発者が理解度テストで17%低いスコアを記録しています。速度は向上しても、理解は深まっていない。
二つの研究が描く絵は一致しています。AIは既存のスキルを加速させる一方で、新しいスキルの獲得を妨げる可能性がある。そして出力が洗練されるほど、人間の検証行動は弱まる。
今すぐできる「3つのクセ」
これは「AIを使うな」という話ではありません。むしろ逆です。上手に使う人はデータの通り確実に恩恵を受けています。問題は、多くの人がその手前で止まっていることです。
今日から変えられる習慣を三つ挙げるとすれば、まず「最初の回答を即採用しない」こと。次に、コードや文書などの成果物が出てきたとき、特に念入りに中身を確認すること。そして「不確かな点を教えて」「前提が違えば指摘して」といった一文を、定型として会話に組み込むことです。
Anthropicは今後、新規ユーザーと経験者のコホート比較や、会話外の行動を追う質的調査も計画しています。相関から因果へ──この研究はまだ始まりに過ぎません。
半年後、1年後に同じ測定をしたとき、数字が上がっていれば「人間はAIと共に成長できる」という証拠になります。あなたの使い方が、その数字を動かします。
出典:【Anthropic Education Report: The AI Fluency Index】
※サムネイル画像はスマホライフPLUS編集部が作成しています。



