
Windows 11を使っていて、ふと「コントロールパネル」を開いたとき、「まだあったの?」と驚いた経験はないでしょうか。Microsoftが「設定(Settings)」アプリへの移行を始めたのは2012年のこと。それから14年が経った今も、コントロールパネルはWindows 11の中で健在です。
このたび、Microsoftの設計責任者がその理由を明確に語りました。答えは「プリンターとネットワーク」にありました。
1985年から続く”生きた化石”の歴史
コントロールパネルの歴史は驚くほど長く、初登場は1985年のWindows 1.0にまで遡ります。当時から各種システム設定を変更するための中核機能として搭載されており、以来約40年にわたってWindowsの設定画面として機能してきました。
転機が訪れたのは2012年です。Windows 8で「PC Settings」(現在の「設定」アプリの前身)が登場し、Microsoftはコントロールパネルからの段階的な移行を開始しました。しかし当時のPC Settingsは機能が限定的で、コントロールパネルの完全な代替にはほど遠い存在でした。
2024年8月には、Microsoftの公式サポートページに「コントロールパネルは非推奨化の過程にある(deprecated)」という記述が登場。ついに廃止か――と注目が集まりましたが、わずか数時間後にはこの表現が「コントロールパネルの多くの設定が設定アプリに移行される過程にある」と軟化。完全廃止の宣言には至りませんでした。
Microsoftが語った”本当の理由”はプリンターとネットワーク
Microsoftのパートナーデザインディレクターであるマーチ・ロジャーズ(March Rogers)氏が、自身のX(旧Twitter)への投稿の中で、長期化の理由を明確に説明しています。
「私たちは慎重に進めています。ネットワークやプリンターのデバイス、ドライバーが数多く存在し、そのプロセスの中で壊さないようにする必要があるからです」
この投稿を取り上げたThe Vergeのトム・ウォレン記者も「Microsoftからコントロールパネル廃止がこれほど時間がかかっている理由について、完全な説明を受けたのはおそらくこれが初めてだと思う」と指摘しています。
この背景には根深い技術的事情があります。コントロールパネルから設定アプリへの移行は、単に画面の見た目を変えるだけの作業ではありません。コントロールパネルの各機能は.cplファイルやCOMオブジェクトとして実装されており、Windowsのシステムコンポーネントやデバイスドライバーと直接やり取りしています。一方、設定アプリはWinUI 3ベースのより現代的なアーキテクチャで構築されており、同じレベルの低レベルアクセスを提供していません。いわば、古い家を「リフォーム」するのではなく、基礎から建て直しているようなものです。
さらに厄介なのが企業環境の存在です。世界中のオフィスでは、コントロールパネルに依存するレガシーハードウェアやドライバー、IT管理用のスクリプトが現役で稼働しています。ある日突然コントロールパネルがなくなれば、業務が止まりかねない――Microsoftが慎重にならざるを得ない最大の理由はここにあります。
まだコントロールパネルでしかできないこと
「もうコントロールパネルなんて使っていない」という方も多いかもしれません。しかし実際には、現時点でも以下のような重要機能はコントロールパネル経由でしか完全に操作できません。
プリンターのプロパティ(詳細な印刷設定やドライバー固有のオプション) 高度なネットワーク設定(IPアドレスの手動設定、アダプターのプロパティなど) BitLocker暗号化管理(ドライブの暗号化・復号化) エクスプローラーの詳細オプション(フォルダーオプション)
特にプリンター周りは、メーカーごとにドライバーの仕様がバラバラで、設定アプリ側で全てを受け止めるには膨大な互換性テストが必要です。折しもMicrosoftは2026年1月からWindows Update経由でのレガシープリンタードライバー(V3/V4)の新規配信を制限し始めており、印刷スタック全体の近代化を並行して進めています。ロジャーズ氏の発言にある「壊さないように」という言葉の重みが、ここに集約されています。
それでも移行は着実に進んでいる
一方で、移行作業が停滞しているわけではありません。2025年にはMicrosoftが以下の設定を設定アプリに移行しています。
時計の設定 キーボードの文字入力リピート速度 テキストカーソル(カレット)の点滅速度 時刻・数値・通貨の表示形式
マウスやキーボード関連の設定もすでに設定アプリで操作できるようになっており、日常的な用途でコントロールパネルを開く場面は以前より大幅に減っています。最新のプレビュービルド(Devチャネル ビルド26300.7877)では、ユーザーアカウント名の変更機能も設定アプリに追加されていることが確認されています。ただし、一部のテスターではボタンが反応しないなど、まだ完全には機能していない段階です。
さらにロジャーズ氏は、Microsoftが「現在、Windowsのデザインクラフト(設計品質)に注力している」と述べ、設定アプリのインターフェースが「明瞭性のために再設計される」ことを明かしています。コントロールパネルの「設定が一覧で見渡せるフラットな構造」を好んでいたユーザーにとって、この再設計がどこまで操作性の不満を解消できるかが注目されます。
「慎重」は正しい、でも14年は長すぎないか
コントロールパネルの廃止は、Windowsの近代化にとって避けて通れない道でしょう。1980年代の設計思想に基づくインターフェースと、タッチ操作やクラウド連携を前提とした設定アプリが共存し続ける状態は、ユーザーの混乱を招いてきました。「あの設定はコンパネ? それとも設定アプリ?」と迷った経験がある方は少なくないはずです。
Microsoftが「慎重に」進めるという姿勢は、特にプリンターやネットワークの互換性を考えれば正しい判断です。拙速に廃止して世界中のオフィスのプリンターが動かなくなる事態は、誰も望んでいません。
ただし、14年というのはやはり長い。コントロールパネルが存在し続ける限り、Microsoftは新旧2つの設定システムを並行して保守し続けなければなりません。これは開発リソースの二重投資であり、Windows全体の進化を遅らせる要因にもなっているはずです。
完全廃止のタイムラインはまだ明らかにされていませんが、設定アプリの改善ペースを見る限り、コントロールパネルが「開けるけれど、開く必要がない」という状態に近づいていることは確かです。40年の歴史に静かに幕が下りる日は、思ったより近いのかもしれません。
出典:The Verge
参考:Tom’s Hardware、Version Museum、ThinkComputers.org、TechRadar、Windows News



