2017年にiPhone Xが発売されたとき、「iPhone 9じゃなくてX(10)なのはなぜ?」と思った人も多いのではないでしょうか。
iPhone 8とiPhone Xの間に「iPhone 9」が存在しない理由は公式には明言されていないものの、その後のAppleの展開などから理由を推察することは十分に可能です。また「単に10周年だったから」という説も有力です。
このように有力とされている説をご紹介します。

iPhone 9が存在しない4つの有力説
「iPhone 9」がない理由を、Appleは公式には明言していません。しかし、爆発的なセールスを記録したiPhone 6以降のiPhoneシリーズへの当時の反響や、「英語圏ではそもそも9番がさほど縁起が良くない」ことなどを踏まえると、9が存在しない理由をある程度推測することができます。

アメリカン・ジョーク説:7 ate 9
アメリカには、「Why was 6 afraid of 7?(6が7を怖がっている理由は?)」「Because 7 8 9(それは7が9を食べたから:7 ate Nine)」という英語の発音を基にしたアメリカンジョークがあります。ちなみにateは「eat:食べる」の過去形です。「9は7を上回ることはできない」という意味にとれるため、英語圏では9はあまり縁起が良くない数字という一面があります。
余談ですが「9が存在しない有名デバイス」はiPhoneだけではありません。たとえばWindowsも「Windows 9」がないことで有名です。そして「Because 7 8 9」はWindows 9が存在しない理由を記者に質問された際、Windowsの担当者が口にしたフレーズとしても知られています。
抜本的な製品革新を印象付ける戦略
チマチマした改善ではなく、「一線を画する新製品であることを印象付ける」ことが、Appleには狙いとしてあったと見られます。このことは、iPhone 9が存在しない有力な理由の1つです。
iPhone Xは「10」を「X」と表記するという、今までのiPhoneとは明らかに異なるアプローチのネーミングです。
iPhone Xの革新性はデザインにも現れており、iPhone 8まで搭載され、ユーザーからも支持を集めていた「物理的なホームボタン」を廃止しました。
大胆なモデルチェンジでしたが、iPhone Xは中古市場で2024年現在も愛され続けている名機となりました。なお、iPhone SE(第2世代・第3世代)など一部の例外を除けば、ホームボタンは今日に至るまで復活していません。

総じてホームボタン付きのiPhone 8をチマチマと改善したような印象を与えかねない「iPhone 9」をスキップし、「X」(ローマ数字の10)を採用することで大胆な飛躍を印象付けたかったのではないでしょうか。
10周年記念モデルとしてのiPhone X
また、iPhone Xは初代iPhoneの発売年(2007年)からちょうど10年目に発売される「10周年記念モデル」でもありました。
・「7 ate 9」と言われるように、9はそれほど縁起が良くない数字でもあり
・iPhone Xは飛躍を印象付けたいモデルでもあり
・10周年なのにモデル名が「iPhone 9」というのはちょっとキリが良くない気がする
という総合的な判断で、iPhone 9はスキップされて「iPhone X」になったと見るのが妥当ではないでしょうか。
マーケティング戦略としての数字のスキップ
Appleにとって製品名は単なる識別子ではなく、ブランドイメージや消費者心理に訴える重要な要素です。もし「iPhone 9」が登場していれば、「8」と「10」の中間として、漸進的な改良版という印象を与えた可能性があります。
しかし、AppleはiPhone Xにおいてホームボタンの廃止、Face IDの導入、有機ELディスプレイの採用など、大きなデザイン刷新と技術的飛躍を実現しており、それを「9」という中間的な印象の数字では表現しきれなかったのです。
記録的な売上の「iPhone 6」に対してiPhone 7、iPhone 8には伸び悩み感もあった
記録的な売上を記録した「iPhone 6」に対して、iPhone 7およびiPhone 8には伸び悩みの感がありました。実は、iPhone 6は販売開始から3日間で1000万台の販売台数を突破するなど、数あるiPhoneの中でも「特に売れたiPhone」です。
一方で、その後のiPhone 7(2016年発売)は不人気というわけではないものの、売上はiPhone 6とiPhone 6sの中間程度にとどまりました。
さらに、iPhone 8(2017年発売)以降、Appleは発売直後の週末の売上情報の公表を取りやめました。ただし、発売当時は「iPhone 7/7 Plusの売れ行きの方が若干iPhone 8よりも良かった」という声もあり、アナリストもiPhone 8の売れ行きについてはかなり保守的な見解を示していました。

Appleが売上情報の公表を停止したことで、iPhone 8が当時どれだけ売れたのかを把握するのは簡単ではありません。ただし、「それまで公表していた売上情報を取りやめたこと」と「iPhone Xを大幅にモデルチェンジしたこと」を踏まえると、iPhone 8の売上が伸び悩んだのは事実ではないかと推察されます。
iPhone 8は日本国内では中古市場で非常に高い人気を今日でも維持していますが、グローバルに見ると事情が異なるかもしれません。
【余談】「iPhone 9として登場する可能性があった(?)」機種とは
余談ですが、一部のファンの間では2020年に発売された「iPhone SE(第2世代)」は「幻のiPhone 9のような端末」として人気があります。

iPhone SE(第2世代)は外観がiPhone 8に似ており、内部にはiPhone 11と同じA13 Bionicチップを搭載し、Touch ID付きのホームボタンや4.7インチのLCDディスプレイを搭載していました。また、5.5インチディスプレイを持つ「iPhone 9 Plus」の存在もiOSのコードから示唆されていました。こうしたスペックやデザインから、iPhone 8の正統な後継機として、また初代iPhone SEの後継機として、当初は「iPhone 9」と名付けられる可能性が高いと多くのメディアやリーカーが予想していました。
しかし、最終的にAppleが正式に発表した名称は「iPhone SE(第2世代)」。「iPhone 9」という名前が使われることはありませんでした。
今も愛され続ける「iPhone X」
結果的にiPhone 9をスキップして登場した10周年記念モデル「iPhone X」は革新的な機種となりました。発売から7年弱が経った今も中古市場で根強い人気があり、間違いなく名機と言えるでしょう。

ただし、実はiPhone Xの出荷台数はCounterpointの調査によると、発売から10カ月で6,000万台だったと言われています。iPhone 6が同じ時期に9,000万台出荷していたことを考えると、実は数字的には控えめです。
とはいえ販売台数の減少は「価格が高くなったことが理由」という見方もあります。確かにiPhone 6からiPhone 8の時代に比べると、iPhone X以降のモデルは高価格化が進んでいます。
たとえば「iPhone 6」の16GBモデルの場合、SIMフリー版は6万7,800円でした(発売当時)。一方で最新モデルのiPhone 15は、12万4,800円~という価格設定です。
iPhone X以降のモデルは、ホームボタン廃止や大画面化に加えて「高価格化」という意味でもiPhone 6~8の時代のモデルからは大きな変化をしたと言えるかもしれません。
なお、iPhone X以降、iPhoneは再び人気を拡大しており、たとえばiPhone 12シリーズでは販売開始7カ月で販売台数1億台を突破しています。
結果として「iPhone 9」をスキップして登場したiPhone Xは、その後のiPhoneシリーズの方向性を決定づける重要なモデルとなったと言えるでしょう。
※サムネイル画像は(Image:「Apple」公式サイトより引用)