充電器を置くだけでスマホを充電することのできるワイヤレス充電器。「ケーブルを使わずにどうしてバッテリーが充電できるのか」は、よくよく考えると不思議ではないでしょうか?
その仕組みについて詳しく知っている方は意外と少ないのでは。実は、スマホをワイヤレスで充電できる背景には、主に「電磁誘導の原理」(※Qiに代表される主なワイヤレス充電の仕組みの場合)があります。今回はワイヤレス充電の仕組みや規格の違いなどをご紹介します。

ワイヤレス充電はなぜ充電できる?

まずワイヤレス充電は、主に送電コイルと受電コイル間の電磁誘導作用によって電力を伝送し、ケーブルなしでの充電を実現します。主に「電磁誘導方式」という原理を利用しており、この方式は「Qi(チー)」という国際標準規格で良く知られています。
具体的には、充電パッド内の送電用コイルに交流電圧をかけると磁束(磁界)が発生します。この磁界が発生した状態で、受電用コイルを内蔵したスマートフォンなどを近づけると、受電用コイルに誘導電流が流れ、バッテリーが充電される仕組みです。
もっとも「Qi」はワイヤレス充電の規格の1つにすぎません。他の規格との違いも、次の項目で具体的に見ていきましょう。
「Qi(チー)」「MagSafe」の基本的な違い
現在主流の規格には「Qi(チー)」、「MagSafe(マグセーフ)」、そして最新の「Qi2(チーツー)」があります。
QiはWireless Power Consortium(WPC)によって策定された国際標準規格で、多くのスマートフォンやデバイスで採用されています。
MagSafeはAppleが開発した磁気吸着技術を利用したワイヤレス充電システムで、iPhone 12以降のモデルに搭載されています。
Qi2はMagSafeの技術をベースにした新規格で、磁力による正確な位置合わせと最大15Wの高速充電を特徴とし、将来的にはAndroidデバイスにも対応が拡大される見込みです。


この中でももっとも普及しているのはやはり「Qi規格」です。Qiはワイヤレス充電の国際標準規格で多くのスマホメーカーが採用しており、もっとも普及している規格の一つです。

そのため、特段理由がない場合は互換性の高い「Qi規格」のワイヤレス充電関連の製品を購入するのをおすすめします。一方で「iPhoneユーザー」「最新技術を試したい」などの理由がある場合は、他の規格を使うのも一案です。
Qi(チー)規格の主な特徴

Qi規格は、iPhoneとAndroidスマホ両方に対応しているため、スマホを複数持っている人におすすめ。また、価格も比較的安価なものが多く、スタンド型、パッド型などの種類があります。
ただし、充電中にスマホの位置がズレるとうまく充電されなくなる場合があります。また、出力は5W~10Wが一般的で、急速充電には基本的に不向き。そのため、充電中は操作しにくくなります。
MagSafe規格の主な特徴

MagSafeはAppleが開発したワイヤレス充電の独自規格で、15W(最大25W)の高速充電が可能です。最大の特徴は、充電器とiPhone本体の両方に磁石が内蔵されており、充電時にピタッと吸着して最適な位置で充電できる点です。これにより、充電中にスマホがズレて充電が止まる心配がなく、充電しながらスマホを操作する際も安定感があります。MagSafeはQi規格との互換性も備えているため、Qi対応の充電器でも充電が可能です。
一方、基本的にはiPhone専用製品で、価格も高めです。Androidスマホで使うには「Androidスマホ用MagSafe対応リング」を装着する必要があります。
次世代規格としての「Qi2 (チーツー)」

Qi2は2023年に登場した次世代のワイヤレス充電規格で、QiとMagSafeの利点を融合したものです。Qi2では最大15Wの高速充電に対応し、マグネットによる位置固定機能が追加されました。これにより、充電の際にデバイスがズレることがなく、安定した効率の良い充電が可能となります。また、Apple製品だけでなく、Android端末やタブレットなど多様なデバイスに対応できるオープンスタンダードです。
一方、2025年6月現在は対応しているAndroidスマホはまだ少なく、製品も限定的。価格もやや高い傾向にあります。
ワイヤレス充電は「充電効率が悪い」?充電方法としての将来性

ワイヤレス充電は便利な一方で、「充電効率が悪い」と指摘されることもあります。実際、ワイヤレス充電は有線充電に比べてエネルギーの一部が熱として失われやすく、40%ほど多くの電力を消費するといわれています。
そのため、同じ出力でもケーブル充電の方が充電速度が速く、ワイヤレス充電の効率の悪さが気になる人も少なくないでしょう。
一方、こうした批判がある一方で、ワイヤレス充電は着実に日常生活に浸透しつつあります。たとえば「自動車のスマホホルダー+ワイヤレス充電」の組み合わせが一例です。近年、カーナビ代わりにGoogleマップなどのマップアプリを使うユーザーが急増傾向にあり、自動車にはスマホホルダーを取り付けるのが一般化。そのスマホホルダーとワイヤレス充電を一体化することで「ナビの途中に充電が切れる」というリスクや車体の揺れによってスマホの端子が傷つく可能性も低くなっています。
「電気自動車のワイヤレス充電」などに技術として転用される可能性も
ワイヤレス充電技術は、スマートフォンや家電だけでなく、電気自動車(EV)などの大型機器への応用も進んでいます。すでに駐車場に設置された送電コイルの上にEVを停車させて非接触で充電するシステムが実用化されており、将来的には道路に給電設備を埋め込んで走行中に充電できる技術の開発も進められています。こうした技術が普及すれば、EVの航続距離が大幅に伸びるだけでなく、充電インフラの効率化や自動運転車の利便性向上にもつながります。
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