令和元年6月に施行された「チケット不正転売禁止法」。これにより、チケットの有償譲渡が禁止されているチケットを販売した場合、罰則の対象となるようになりました。STARTO ENTERTAINMENT社などは転売サイトでの高額チケット出品者の開示請求を敢行しています。
そして不正転売を防ぐため、2025年1月にデジタル庁がマイナンバーカードを活用した対策を行うことも発表済み。自民党の公式サイトでも実証実験に関するページが公開されています。
![不正転売防止に効果?マイナカードを使ってライブチケットを申し込んでみた!0](/wp-content/uploads/2025/02/000.jpg)
そこで今回、筆者は実際にデジタル庁が提供する「デジタル認証アプリ」を用いて、マイナンバーカードを用いたチケット転売防止の実証実験に参加してみました。その内容や、マイナンバーカードをチケット購入に活用することに対して感じたメリット・デメリットをお届けいたします。
なお結論から言えば、申し込みハードルの高さに加え、リセールが極めて難しくなることが大きなデメリットです。
マイナンバーカードを使ったチケット不正転売防止策は実証実験段階
まずマイナンバーカードを使ったチケット不正転売防止策は2025年1月に発表され、1月現在は実証実験の段階です。この実証実験に協力しているのが、アイドルグループ『モーニング娘。’25』などが所属するハロー!プロジェクトです。
![マイナンバーカードでチケット転売を防げる? デジタル庁の実証実験に参加してみたの画像1](/wp-content/uploads/2025/02/001-26.jpg)
具体的にはハロー!プロジェクトの2025年春に行われるライブのチケット申し込みで、マイナンバーカード及びデジタル庁の『デジタル認証アプリ』が実験として活用されます。
実証実験が行われるライブは、2025年3月21日に開催される「モーニング娘。’25 小田さくらバースデーイベント ~さくらのしらべ 14~」と、3月29日・30日に開催される「Hello! Project ひなフェス 2025」です。
![マイナンバーカードを使ったチケット不正転売防止策は実証実験段階1](/wp-content/uploads/2025/02/002-26.jpg)
そこで今回は2つの公演のうち、「Hello! Project ひなフェス 2025」で行われるチケット転売防止の実証実験に参加。マイナンバーカードとデジタル認証アプリを用いてチケットを申し込みをしてみました。
ライブ会場でマイナンバーカードは実際、どう使われる?
補足すると、ハロー!プロジェクト公式サイトによると、今回の実証実験では、「デジタル庁が提供する『デジタル認証アプリ』を利用した本人確認および顔認証を用いた電子チケットによる入場」が行われるとのこと。
![ライブ会場でマイナンバーカードはどう使われる?1](/wp-content/uploads/2025/02/003-37.jpg)
つまりマイナンバーカードを主に活用するのは「チケット申し込み時」であり、会場では基本的にマイナンバーカードを使うことはないようです。ただし、今回の実証実験の技術提供事業者・playground株式会社が提供している電子チケットサービス「MOALA」の公式サイトによると、顔認証がうまくできなかった場合、本人確認書類で本人確認を行う必要があるとのこと。認証が失敗したときに備えてマイナンバーカードを持って行くのが無難でしょう。
マイナンバーカードとデジタル認証アプリでチケットを申し込む方法
今回は「Hello! Project ひなフェス 2025」への申し込みを通じ、実証実験に参加してみました。
まず今回の実証実験では、マイナンバーカードでのチケット申し込みに以下が必須です。
・マイナンバーカード
・マイナンバーカードの暗証番号(数字4桁)
・GoogleアカウントもしくはAppleアカウント
・デジタル認証アプリ
-App Store
-Google Play
・ハロー!プロジェクトのファンクラブサイトのログイン情報
まず意外な落とし穴は「マイナンバーカードの暗証番号(数字4桁)」。マイナンバーカードそのものの有効期限は10年間ですが、数字4桁の暗証番号など電子証明書の有効期限は5年間です。
電子証明書の更新手続きはオンラインでできないため、有効期限切れの場合は役所の窓口での更新が必要です。同様に暗証番号を忘れてしまった場合などにも役所の窓口で相談する必要があるでしょう。
マイナンバーカードの電子証明書の用途が広がることは素晴らしいことですが、「5年間」という期限は長いようで短い印象も強いです。チケット申し込みなど日常的な場面で電子証明書を使う機会が増えるならば、電子証明書のオンライン更新もセットで解禁された方が良いのではと個人的に感じました。
MOALAアカウント作成~顔写真登録
先に述べた用意すべきものをすべて手元に揃えたら、さっそくチケットの申し込み手続きを行います。
今回のハロー!プロジェクトの実証実験では、まずはMOALAのログインページにアクセスします。
![MOALAアカウント作成~顔写真登録1](/wp-content/uploads/2025/02/004-27.jpg)
![MOALAアカウント作成~顔写真登録1](/wp-content/uploads/2025/02/005-16.jpg)
デジタル認証アプリでのマイナンバーカード読み取り
次に、デジタル認証アプリでマイナンバーカードを読み取ります。なお、事前にデジタル認証アプリをインストールし、生体認証を済ませておくとスムーズです。
![デジタル認証アプリでのマイナンバーカード読み取り1](/wp-content/uploads/2025/02/006-10.jpg)
![デジタル認証アプリでのマイナンバーカード読み取り2](/wp-content/uploads/2025/02/007-8.jpg)
ハロー!プロジェクトのファンクラブでのチケット申し込み
ここまでの手順で、マイナンバーカードとデジタル認証アプリを用いた手順そのものは完了しています。最後に、実際のチケット申し込みはハロー!プロジェクトのファンクラブサイトで行います。
![ハロー!プロジェクトのファンクラブでのチケット申し込み1](/wp-content/uploads/2025/02/008-7.jpg)
マイナンバーカードを使ったチケット申し込みの問題点
マイナンバーカードを使ったチケット申し込みは、いわば通常のチケット申し込みに加えてマイナンバーカードを用いた「デジタル認証」のひと手間が加わるものだと言えます。
そして繰り返しですが、2025年2月現在、マイナンバーカードを使ったチケット申し込みは実証実験の段階です。本人確認が手厚くなることで、チケット転売が困難になること自体はメリットでしょう。
とはいえ、マイナンバーカードを用いたデジタル認証が「チケット購入」に導入されることに問題点がないわけではありません。実証実験に参加し、現段階で感じた問題点をまとめました。
リセールサービスが実質的に利用不可になる
まずはチケット転売への対策として定着した「リセール」が実質的に利用不可になるのが、大きなデメリットです。
まず一般的な音楽イベントなどでは、申し込み後に都合が合わなくなった場合、公式リセールサービスを使って他者に譲渡することが「転売」の代替策として定着しています。リセールの定着以前は、オークションなどでの転売が一般的でした。
一方、今回の実証実験ではリセールサービスが提供されていません。つまり、なにかしらの都合で公演に行けなくなった場合、そのチケット代は丸々無駄になることに。
加えて仮にリセールが提供されていたとしても、マイナンバーカードによる認証を一度行ったチケットを第三者に譲り渡すことは、技術的にもユーザーの心情的にも若干の難しさがあると感じます。
少なくとも筆者はデジタル認証を行っていないチケットであればリセールに「怖さ」を感じることはないのですが、今回は「第三者に譲るのはちょっと怖いかもしれない」と感じました。
余談ですが、今回の「Hello! Project ひなフェス 2025」は、この実証実験以外にチケットの一般販売も行われます。実証実験を介することなく取ったチケットはリセールできる可能性があります。
リセールを念頭に置いたうえでチケットを確保するならば、わざわざ今回のデジタル認証システムを利用する意味が感じられません。
マイナンバーカードを持っていないと申し込みができない
今回の実証実験において、最も大きな問題点は「マイナンバーカードを持っていない外国籍のファンは、このシステムで申し込みができない」という点でしょう。実証実験が行われたハロー!プロジェクトは外国籍のファンも多いため、マイナンバーカードを所持しているか否かで「チケットの入手しやすさ」に大きな差が生まれてしまうのは、不公平感も否めません。
なおマイナンバーカードを持っている場合でも、電子証明書の有効期限切れや「暗証番号を思い出せない」場合にも申し込みできなくなる点はネックでしょう。電子証明書の更新のオンライン化も望まれます。
一人一枚しかチケットが購入できなくなる
マイナンバーカードを用いてデジタル認証を行い、チケットを購入するということは「一人一枚しかチケットが購入できない」ことを意味します。
つまり少なくとも実証実験の段階においては、デジタル認証がある限り「一人で複数枚チケットを取り、余ったチケットを友人にプレゼントし、一緒にライブに行く」といった気軽な楽しみ方ができなくなります。
「そのアーティストやアイドルのファンではないものの、ライブのチケットが余っているならば行ってもいい」という方は、どの年代でも多いのではないでしょうか。つまり認証を強化するあまり、ライブの門戸が狭くなりすぎている感も否めません。
デジタル認証の強化と「一見さんにとってのライブ参加の気軽さ」をどのように両立させるかは、チケット転売防止に本格的にマイナンバーカードを用いるならば大きな課題となるでしょう。
※サムネイル画像(Image:Shutterstock.com)※画像は一部編集部で加工しています