生成AI開発に膨大な計算資源は本当に必要か?
もっとも2025年時点で「富岳を使った生成AIは、国外の生成AIにまったく敵わない」としても、それは別に悪いことではありません。富岳を用いた科学研究の加速などの成果は無数に存在しており、単に2025年時点でAI分野では「最先端のLLMに匹敵する成果は出せていない」に過ぎないからです。
さらに言えば生成AI開発に、膨大な計算資源は本当に必要なのかという論点も存在します。

生成AIの開発が始まって以降、開発に膨大な計算資源が必要というのは常識的なことでした。そんななか、25年1月にDeepSeekが発表した「DeepSeek-R1」はAI開発のゲームチェンジャーとなることに。その理由は、DeepSeeKが開発費580万ドル、開発期間数カ月で作られたという低コストかつ、OpenAIの「o1」モデルに匹敵するほど高性能な生成AIだったためです。
こうしたDeepseekの衝撃を受けて「生成AI開発に膨大な計算資源は本当に必要か」という懐疑的な見方も広がっており、NVIDIAの株価下落なども実際に起きているのが現状です。

一方、DeepSeekの開発をめぐっては事前学習済みの大規模AIモデルを移転する、いわゆる「蒸留」というプロセスが使われているのではないかという疑惑があります。つまり、膨大な計算資源を使って作られた元の事前学習済みの大規模AIモデルがなければ、そもそもDeepSeekは生まれなかったという見方をすることもできます。
とはいえ、DeepSeekの性能や回答精度の高さは驚くべきものです。膨大な計算資源を投じた成果は「蒸留」によって瞬時に追いつくことができてしまうのもまた事実だと言えるのではないでしょうか。
そうした研究に「スパコン」を用いるべきなのか否かは、議論のポイントになり得るでしょう。
結局、スパコン開発は2025年でも「2位じゃダメ」なのか?
国産スパコンを「生成AIに使うべきか」という点においては、議論が分かれるでしょう。すでに『富岳』を用いたLLMが公開されていますが、その精度は少なくとも筆者が検証した限り、2025年現在の諸外国のLLMと比較して「かなり低い」です。
しかし、2025年現在において国産スパコンが生成AIで目立った成果を挙げていないからと言って、スパコンの重要性が揺らぐことは一切ありません。
スパコン開発が「2位じゃダメ」な理由は創薬研究など医療やバイオテクノロジーに絡む分野においては先行者利益が大きく、革新的な発見及び特許取得の価値が非常に大きいからだと言えます。つまり世界で2位のスパコンで、1位のスパコンに後塵を拝す形で医療分野の発見をしても、その発見が特許取得済みのものならば意味が薄いのです。
そのためスパコンの計算資源を医療やバイオテクノロジー、また人命を守るという点において自然災害の予測など科学研究の加速に割り当てることの意味は大きいでしょう。新型コロナの研究に『富岳』を用いた例も、その代表的なケースです。
日本が世界有数のスパコンを手がけていることが「生成AIに役立つか」は微妙かもしれませんが、スパコンの重要性そのものは今後に渡って揺らぐことはありません。
※サムネイル画像は(Image:「理化学研究所 計算科学研究センター」公式サイトより引用)