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「国産AI」はなぜ必要?周回遅れの「日本産AIモデル」の開発が官民一体で進むワケ

2022年OpenAIの「ChatGPT」が登場して以来、世界の状況は大きく変わりました。Googleの「Gemini」、イーロン・マスク氏率いるxAIの「Grok」、さらには中国発の「DeepSeek」など、高性能な大規模言語モデル(LLM)が次々と登場し、激しい開発競争が続いています。

「国産AI」はなぜ必要?周回遅れの「日本産AIモデル」の開発が官民一体で進むワケの画像1
(Image:Shutterstock.com)
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これら海外製のAIは、リリース当初こそ不自然な日本語が目立つこともありましたが、現在では驚くほど流暢な日本語を出力し、ビジネスや生活に浸透しつつあります。

一方、日本では官民が連携し巨額の予算を投じて「国産AI」の開発に躍起になっています。そして2025年12月、ソフトバンクと経済産業省が連携し、官民合わせて総額3兆円規模という、国内では前例のないAI開発計画が発表されました。来春にはソフトバンクなど日本企業十数社が出資して新会社を設立し、世界最大級のAI基盤モデル開発に踏み切る予定です。

「国産AI」はなぜ必要?周回遅れの「日本産AIモデル」の開発が官民一体で進むワケ1
(画像は「photoAC」より引用)

もっとも国産AIの議論で見落とされがちなのが、「モデルを作る前に、まず計算資源を押さえられるか」という現実です。たとえばAI開発に不可欠なNVIDIA製の最新GPU「H100」は、1基あたり400万円〜600万円前後(2024〜2025年時点の市場価格)という高価格で取引されており、さらに推論需要の高まりを受けて調達そのものが困難になりつつあります。加えて高性能なAIを作るにはこれらのGPUを数百〜数千基単位で連結させる必要があります。

一方、これまで日本のAI開発に対する支援規模は数百億円〜数千億円単位にとどまり、資本力には2桁以上の差があるのが現実でした。しかし、2025年末に発表された官民プロジェクトにより、状況は大きく変わり始めているのです。

とはいえ、それでも日本のAI開発が周回遅れであるのはまぎれもない事実です。OpenAIやGoogleをはじめとするビッグテックが君臨する「AI開発」に何歩も遅れた段階で、日本が官民一体で参入する意義はどこにあるのでしょうか?

日本も「本気の投資」へシフト——3兆円プロジェクト1
(画像は「photoAC」より)

日本のAI開発に「勝ち目」はある?

日本のAI開発に「勝ち目」はある?1
(画像は「理化学研究所 計算科学研究センター」公式サイトより引用)

日本のAI開発が周回遅れかつ困難な道であるとみなされる大きな要因が計算資源の調達です。日本はNVIDIAのような「AIチップ(設計・販売)」そのものにおいて、存在感が薄いことが背景にあります。

もっとも日本は元来、計算資源において弱みがある国ではありません。日本が計算資源確保に苦慮する状況に対して「日本には世界に誇るスパコン『富岳』があるじゃないか」と思う方もいるのではないでしょうか。しかし、AI開発の現場において、富岳には構造上の「相性の悪さ」が存在するのもまた現実です。

富岳はもともと、気象予測や新薬開発といった科学技術シミュレーションを得意とする設計(CPUベース)で作られています。一方、現在のAI開発の主流は、単純な計算を大量に並列処理することに特化したGPUベースです。

「Fugaku-LLM」について

とはいえCPUベースのスパコンで、LLMの研究・開発が「できない」わけではありません。実際に2024年5月、富士通や理化学研究所などの研究チームは、富岳を使って学習させた大規模言語モデル「Fugaku-LLM」を公開しています。

日本のAI開発に「勝ち目」はある?2
(画像は「Fujitsu」より引用)

とはいえOpenAIやGoogleのLLMと比較すると、「Fugaku-LLM」は少なくとも筆者が実際に同LLMを利用する限り、体感として回答の出力に時間がかかり、他の生成AIに比べて、回答の精度にばらつきを感じる場面が多々あります(※注1)。
富岳を用いた研究・開発の成果そのものは偉大なものですが、日本産AIモデルとして、同LLMが将来的に海外産のLLMに比肩するものになるかと言われれば「あまりに長い道のり」と感じるのが本音です。

(※注1:2025年12月時点では、公式サイト上ではメンテナンス状態となっていますが、GitHubでモデルデータが公開されています)

「フェアユース」不在が招く足かせ

加えてハードウェアだけでなく、法的な環境の違いも日本のAI開発における「見えない足かせ」となっています。特に議論となるのが著作権法です。

アメリカには著作権法における包括的な「フェアユース(Fair Use:公正利用)」という規定が存在します。これは、批評、研究、報道、そして技術開発など、一定の条件を満たせば、著作権者の許諾なく著作物を利用できるという柔軟なルールです。一方、日本には米国のような「フェアユース」に関する包括的な規定はありません(※注2)。著作権法との兼ね合いにおいて「日本は大規模言語モデルの開発に適した国か」という面でも、少なくとも民間レベルでは疑念が残ります。

(※注2:日本では「学習」に関しては世界的に見ても柔軟な法整備(著作権法30条の4)がなされていますが、AIが生成した「出力物」による権利侵害の判断基準や、ビジネス利用における判例がまだ十分に蓄積されていないのが現状です)

「安全保障」とAI

それでも日本が国産AI開発を諦めない、あるいは諦めてはならない最大の理由は「安全保障」です。

ウクライナ情勢などで見られたように、地政学的なリスクが高まった際、海外のテクノロジーへの依存はそのまま国家の弱点となります。

もし日本が独自のAI基盤を持たず、すべての公務、企業活動、教育をChatGPTやGeminiだけに依存したと仮定しましょう。ある日突然、開発元の国の方針が変わり「日本からのアクセスを制限する」、あるいは「利用料を10倍にする」と言われたらどうなるでしょうか。日本のデジタル社会はその瞬間に機能不全に陥ります。

加えて「データ主権」の問題があります。

行政機関の内部文書、企業の未発表製品のデータ、国民のプライバシー情報。これらを海外サーバー上のAIに入力することは、どれだけ「学習には使いません」という規約があったとしても「危険」であることは明らかです。他国の管轄下にあるサーバーにデータを送る以上、他国による情報利用を完全に制御することは難しいでしょう。

「生成AIという画期的な技術の恩恵」と「機密性の高い情報を安全に処理すること」を両立するには、物理的に国内にサーバーがあり、日本の法律が適用される「国産AI」がどうしても必要なのです。

「守るためのAI」の重要性

つまり「国産AIは本当に必要か?」という問いへの答えは「世界一の性能を目指すためなら不要かもしれないが、国家の自律性を守るためには絶対に必要」というものです。

日本産AIモデルが、ChatGPTやGeminiを超える性能が出せなくても構わないのです。彼らがサービスを停止した時、あるいは彼らには渡せないデータを扱いたい時、代替可能で信頼できる「自国の選択肢」を持っていることそのものが重要です。

現在進められている官民の取り組みは、表面的には「世界との競争」に見えるかもしれません。しかしその本質は、AI時代における日本の「主権」を維持するための、高コストで困難な、しかし避けては通れない安全保障プロジェクトなのです。

※サムネイル画像(Image:Shutterstock.com)

スマホライフPLUS編集部

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