Wikipediaで何かを調べるとき、検索窓にキーワードを打ち込む以外の方法を試したことはありますか。「目的の記事を読んだらすぐ閉じる」——それが当たり前になった今、まるでPCの中身を覗き込むようにWikipediaを”散歩”できるWebアプリが登場し、海外の技術者コミュニティで注目を集めています。

Windows XPの懐かしい画面でWikipediaを開く「Wikipedia File Explorer」とは
「Wikipedia File Explorer」は、開発者のSami Smith氏が公開したWebアプリです。ブラウザでアクセスすると、あの青いタスクバーが特徴的なWindows XP風デスクトップがそのまま画面に現れます。
デスクトップ上には「Wikipedia」「Media」「Geofile Explorer」「Readme.txt」の4つのアイコンが並び、左下には「Start」ボタン、右下には現在時刻が表示されます。Startボタンをクリックすれば、「My Documents」や「Control Panel」などおなじみのメニュー項目が表示されますが、これらはグレーアウトされていて動作しません。実際に機能するのは先ほどの4つのアイコンだけで、あくまで”雰囲気”を楽しむ設計です。
このアプリの本質は、Wikipediaの膨大な記事群を「フォルダ階層」として再構成し、エクスプローラーでフォルダを開いていくようにたどれるようにした点にあります。Smith氏によれば、カテゴリが割り当てられていない約100ページを除き、Wikipediaのほぼすべての記事をこの方法でたどれるとしています。
使い方はシンプル——ダブルクリックで「知識の森」に入っていく
操作はWindowsに慣れた人なら直感的に分かるものばかりです。
Wikipediaの記事をたどる
デスクトップ上の「Wikipedia」アイコン、もしくはStartメニューから「Wikipedia」をクリックすると、Wikipediaのカテゴリがフォルダとして一覧表示されます。たとえば「Entertainment」フォルダをダブルクリックすると、下位カテゴリが並び、さらに「Entertainment in Japan」→「Emakimono(絵巻物)」のように階層をたどっていけます。
記事ファイルをダブルクリックすれば、英語版Wikipediaの本文がWindows XP風のウィンドウ内に表示されます。ウィンドウ下部には通常のWikipediaページへのリンクも用意されているので、そこから本家Wikipediaに飛ぶことも可能です。
Wikimedia Commonsの画像も探索できる
デスクトップの「Media」アイコンを開くと、Wikimedia Commonsの画像素材をフォルダ形式で探索できます。画像ファイルをダブルクリックすればXP風のビューワーで閲覧でき、さらに右クリックメニューから画像を選ぶと、その画像をこのXP風デスクトップの壁紙に設定するという遊び心のある機能も備わっています。
表示の切り替えと検索
フォルダ内の表示は「Tile(タイル)」と「Details(詳細)」の2種類から切り替え可能です。検索欄も用意されていますが、開いている階層のみが対象で、下位フォルダの中身まで横断検索することはできません。また、「File」「Edit」などのメニューバーは見た目だけで、クリックしても反応しません。こうした”動かない部分”も含めて、XPの再現度を楽しむ設計になっています。
なぜ話題に?——「検索しない」情報との出会い方
Wikipedia File Explorerは、ソーシャルニュースサイトのHacker Newsでも話題になっています。あるユーザーは1995年当時のThe Microsoft Networkを引き合いに出し、データがWebページやプログラムの「内側」に閉じ込められるのではなく、ファイルのように直接クリックしてドラッグできるように見えた感覚を懐かしさとともに語っています。
たしかに、Wikipediaのカテゴリは1つの記事に複数のカテゴリが紐づけられていることが多く、ファイルシステムのような「1つの場所に1つだけ存在する」構造とは異なります。Wikipedia自身のヘルプも、カテゴリ全体は階層をなすものの、サブカテゴリが複数の親カテゴリに属しうると説明しています。だからこそ、同じ記事に思いがけない経路からたどり着けることがあり、それ自体が新鮮な体験になっています。
複数のフォルダや記事を開くとウィンドウが画面上にどんどん重なっていく様子は、まさに2000年代前半のPC体験そのもの。検索結果を上から順に読むのではなく、「知識の中を歩き回っている」という感覚を視覚的に味わえるのがこのアプリ最大の魅力です。
「実用性」ではなく「体験」にこそ価値がある
正直に言えば、特定の記事を素早く調べたいなら通常のWikipediaの方が圧倒的に便利です。Wikipedia File Explorerの検索は開いている階層限定ですし、表示されるのは英語版のみ。実用的な調べ物ツールとして使うのは無理があります。
しかし、このアプリの本当の価値は「実用性」にはありません。
私たちは普段、情報を「検索して、見つけて、消費する」という直線的な動きに慣れきっています。目的の情報にたどり着いたら用は済み、ブラウザのタブを閉じて終わり。Wikipedia File Explorerが提案しているのは、その対極にある体験です。フォルダを開いて、中身を眺めて、気になったものをさらに開いて——目的地を決めずに歩き回ることで、予期しない知識と出会う。かつてPCのハードディスクを整理しながら「こんなファイルあったっけ?」と発見していた感覚に近いかもしれません。
Windows XPの画面を知っている世代にはノスタルジーとして、知らない世代には「昔のPCってこんな感じだったのか」というカルチャー体験として機能する——そんな間口の広さも魅力です。
情報を効率的に処理することばかりが求められる時代に、「ただ眺めて楽しむ」という贅沢を思い出させてくれるWebアプリ。休日の暇な時間に、コーヒーを片手に知識の森を散歩してみてはいかがでしょうか。アクセスはブラウザで「explorer.samismith.com」を開くだけです。
出典:GIGAZINE
参考:Digital Trends、Neowin、Tech2Geek、Wikipedia File Explorer(公式)、Hacker News、Wikipedia「Help:Categories」



