現金やクレジットカードではなくQRコード決済を日常的な支払い手段にしている方は、この記事をお読みの方の中にも多いはず。国内での支払いであればPayPayや楽天ペイ、d払いなどで用が足りることが実際には多いでしょう。
![意外と知らない「日本のQRコード決済」が海外で利用不可になりがちな3つの理由1](/wp-content/uploads/2025/02/001-33.jpg)
しかしこれらの支払い手段が海外でも使えるかというと別問題であり、日本のQRコード決済は海外では使用できないことが少なくありません。
今回は 意外と知らない「日本のQRコード決済」が海外で利用できないケースが多い、3つの理由を解説します。
国際的な相互運用性の欠如
まず日本のQRコード決済サービスはあくまで国内市場向けに設計されており、国際的な相互運用性については十分に確保されていません。その大きな要因の1つが「QRコードの規格」です。
たとえば日本とASEAN諸国のQRコードの規格は異なります。日本が標準採用しているのは、「JPQR」という統一規格です。
![国際的な相互運用性の欠如1](/wp-content/uploads/2025/02/002-33.jpg)
JPQRは2019年に提唱された規格で、2025年現在では多くの決済サービスがJPQRに対応。QRコードの規格が統一されていないことに伴う店舗側の煩雑さを軽減し、キャッシュレス決済の普及を促進することを目的としています。
一方、ASEAN各国もそれぞれ統一規格を持っています。つまり、日本とASEAN諸国でQRコードの規格が違うため、相互運用性が無く「日本のQRコード決済をASEAN諸国で使うことは難しく、その逆も同様」なのが現状です。
日本とASEANのQRコード決済の相互運用は近いうちに実現?
なお、2024年3月に日本経済新聞が日本とASEAN各国が2025年度を目処にしてQRコード決済の規格に互換性を持たせるために協議を始めたことを報道。将来的に「日本人旅行者がASEAN諸国の店舗で日本国内のQR決済アプリをそのまま使用できること」及び「その逆」を実現可能な環境整備が目指されています。
国際的な決済において「インバウンド対応」が優先されている
・日本のQRコード決済が海外で利用できない
・海外のQRコード決済が日本で利用できない
といういずれのケースにおいても、キャッシュレス決済の国際的な相互運用は重要なテーマです。このうち、筆者が確認する限りでは「海外のQRコード決済が日本で利用できない」という問題への対処は、インバウンド需要を背景にかなり進んでいるようです。
![国際的な決済において「インバウンド対応」が優先されている1](/wp-content/uploads/2025/02/003-39.jpg)
たとえばPayPayは2024年、PayPay加盟店のうち、「Alipay+ (アリペイプラス)」の支払いに対応している店舗で「NAVER Pay」「Toss」「OCBC Digital」「Changi Pay」「MyPB」「Tinaba」「MPay」「Hipay」といった、各国のQRコード決済に対応することを発表しました。
つまり少なくともPayPay加盟店では、海外の旅行客がQRコード決済を利用する際にストレスを感じにくくなっているはず。こうした相互運用性はPayPayが「Alipay+」というマーケティングソリューションを導入することで実現されています。
一方、日本のQRコード決済であるPayPayが、海外でそのまま利用できるかというと微妙です。
![国際的な決済において「インバウンド対応」が優先されている2](/wp-content/uploads/2025/02/004-30.jpg)
PayPayは2024年4月から一部機能が海外で利用可能になったと発表していますが、その対象は取引履歴やカード履歴の確認など。「決済」や「送る・受け取る」などの機能は対象外であり、アウトバウンド対応はインバウンド対応よりも大きく遅れているのが現状と言えるでしょう。
市場特性・市場規模の違い
日本でもQRコード決済は人気の決済手段ですが、クレジットカードや現金を愛用する方がまだまだ多いのも事実です。
一方で、外国ではQRコード決済が多数派の決済手段というケースも増えています。たとえば東南アジアではQRコード決済が急速に普及。その背景には、銀行口座の保有率の低さや地方でのATM不足にくわえ、低価格スマホの普及が影響しています。
国内の事業者にとっては、「国内でのQRコード決済利用者がまだ一部にとどまる一方、海外では主流になりつつある」という現状を踏まえ、まずはインバウンド対応を優先する傾向があると言えます。
また仮にアウトバウンドに積極的に乗り出すとしても、国内でQRコード決済の利用者層が限定的であり、海外展開に必要な投資を正当化するだけの市場規模が確保されていない可能性があります。
ただし、2025年度を目標としたASEANとの相互運用プロジェクトや、訪日客向けサービスのノウハウ蓄積により、今後状況が変わる可能性も考えられます。
とはいえ、2025年1月現在では「日本人にはVISAやMastercardなどのクレジットカードが十分に普及しているから、海外で無理にQRコード決済を使わずとも、カードを使えば十分ではないか」という論理に一定の妥当性があるのもまだまだ事実と言えるでしょう。インバウンド向けのQRコード決済のインフラ整備に比べ、アウトバウンド向けの整備にはもう少し時間がかかりそうです。