この記事をお読みの方の中にも、住んでいる地域で「その地域専門のキャッシュレス決済アプリ」や「電子地域通貨」を目にしたことがある方もいるでしょう。
その代表格には、たとえば「せたがやPay」が挙げられます。「せたがやPay」は、2021年2月にサービスが開始されたキャッシュレス決済アプリです

一方、その地域に住んではいるものの、電子地域通貨に魅力を感じず「何に役立つのか」「仕組みが分かりにくい」「不要なアプリでは」と思う方も多いでしょう。
そもそも「地域ごとにキャッシュレス決済アプリが立ち上がる」ことに意味を感じない方もいるはず。スマホのホーム画面にアプリが増えるばかりであり、デジタル地域通貨は不要だと感じる方もいるはずです。
しかし電子地域通貨の定着が進む中で、電子地域通貨及びアプリの用途は大きく広がり始めています。一部地域では、アプリが直接的に「行政による住民への生活支援」に繋がっているケースも登場しています。
そこで今回は「商店街でのポイント還元」に留まらない地域通貨の活用例をご紹介します。
ポイント還元目的で「デジタル地域通貨は不要」だと感じても、キャッシュレスであることを活かした他の用途には魅力を感じられるかもしれません。
デジタル地域通貨とは
デジタル地域通貨とは、特定の地域やコミュニティ内で利用可能なデジタル形式の通貨を指します。従来の紙幣や硬貨の地域通貨と異なり、スマートフォンアプリやICカードを通じて取引が行われるのが特徴です。
基本的には地域経済の活性化や住民間の交流促進を目的として導入されることが多く、地域内での消費を促進する仕組みとして注目されています。

総じてデジタル地域通貨は、以下のような特徴があります。
・限定された利用範囲:特定の地域や加盟店でのみ使用可能
・デジタル化:スマートフォンアプリやQRコードを利用した決済が主流
・地域経済の循環:地域内での消費を促進し、外部への資金流出を防ぐ
・インセンティブ制度:利用者にポイント還元や特典を提供することで、利用を促進
先にご紹介したせたがやPayは「地域への還元」という観点で、もっとも有名な電子地域通貨の1つと言えるでしょう。
しかし上記の4項目に対して「結局そのキャッシュレス決済を使う意味がわかりにくい」と感じる方はやはり多いでしょう。そのキャッシュレス決済を使うことは、逆に言えば「PayPay経済圏」「楽天経済圏」から遠ざかることかもしれず、デメリットが際立つと感じる方すらいるのでは?
住民への経済的支援のインフラとして注目される「デジタル地域通貨」
そうした従来のデジタル地域通貨のイメージが、近年は少しずつ変わり始めています。住民への「経済的支援」「奨励金支給」などに、電子地域通貨を活用する自治体が登場しているためです。

たとえば、高崎市で2022年10月1日から運用が開始された「高崎通貨」もそのひとつ。まず「高崎通貨」は、市内限定で利用可能な電子地域通貨です。
高崎市では「中小企業就職奨励金」「出産・子育て応援ギフト」「高崎市移住促進資金利子補給金」といった制度を設けています。
そして、条件に該当する対象者向けに「高崎通貨」によりスピーディーに奨励金や補助金を交付する取り組みを実施しています。
つまり「高崎通貨」はスマホ決済ならではの強みを生かし、こうした奨励金や補助金を住民に対してスピーディーに支給しているデジタル地域通貨です。このように「自治体からの支給」と「デジタル地域通貨」のかけ合わせは、デジタル地域通貨の新しい可能性だと言えるでしょう。
出産準備金などを地域通貨で受け取るには?
たとえば高崎市の「出産・子育て応援ギフト」制度では、育児関連用品の購入や子育て支援サービスに利用できる経済的支援として高崎通貨を交付しています。出産応援ギフトの場合は、妊婦1人につき5万円分の高崎通貨、子育て応援ギフトは子供1人につき5万円分の高崎通貨が交付されます。
出産応援ギフトについては、妊娠届出(母子手帳交付)時に、面談及びアンケートへ回答すると申請方法が案内されます。申請期限は妊娠中となります。
出産応援ギフトは、子供の出生後おたんじょうはがきの提出を行い、新生児訪問実施後に申請方法について案内されます。申請期限は生後4か月となります。
期限を過ぎると受付してもえないため、注意が必要です。詳細については高崎市公式サイトの最新情報を確認するようにしましょう。
なお同様に『中小企業就職奨励金』も対象者であれば、高崎通貨で受け取ることが可能です。
入力項目は以下の通り。
・申請日
・氏名
・住所
・電話番号
・メールアドレス
・生年月日
・勤務先(名称/住所/電話番号/採用年月日)
・J-Coin PayのID
・在職証明書(様式第2号)※代表取締役之印や理事長之印が必須
・労働契約締結日以前1年以内に大学等を卒業したことを証する書類
上記の入力と書類添付が完了したら、最後に同意事項にチェックを付け、申請に進みましょう。
住民への給付を「電子地域通貨」で行っている自治体の例
群馬県高崎市以外にも住民への給付をデジタル地域通貨で、キャッシュレス決済の仕組みを使って行う自治体は増え始めています。
たとえば香川県では県内のすべての自治体で、出産・子育て応援給付金をデジタル地域通貨アプリで受け取り可能となりました。
(画像は「フェリカポケットマーケティング株式会社」プレスリリースより引用)
出産・子育て応援交付金事業では、妊娠届及び出生届の提出後に面談を受け、申請を行った人を対象に、各5万円、合計10万円の応援ギフトを支給しています。この交付金は、専用サイト「ともはぐ」を通してポイントで支給される仕組みで、利用者は「ともはぐ」ウェブカタログサイト上で商品を選択するか、デジタル地域通貨(最大4万円分)が選べるようになっています。
また今治市では2024年8〜11月の期間、キャッシュレス決済アプリ上で地域通貨「バリコイン」を発行し、経済活性化と事務作業の効率化を目指す実証実験を実施しました。
(画像は「今治市」公式サイトより引用)
期間中、デジタル地域通貨「バリコイン」は、マルシェでの買い物客へのポイント還元や子育て世帯やボランティア参加者への給付金支給という形で給付され、給付された地域通貨は市内約300店舗で利用可能でした。今回の実証実験のアンケート結果などを基に課題を洗い出し、来年度の本格導入を目指したい考えと見られます。
海外の事例
海外の事例ではありますが、タイではデジタル通貨を活用したベーシックインカムプログラムが始まっています。
2024年4月、タイでは一定の所得及び貯蓄制限を設けたベーシックインカムプログラムの導入が発表されました。このプログラムでは、年収が84万バーツ(約347万円)、貯蓄が50万バーツ(約207万円)を超えていない国民に対して、約5,000万人に1万バーツ(約4万2千円)のデジタル通貨が支給される予定です。
タイの総人口は約6,600万人であり、このプログラムの規模は非常に大きいことがわかります。登録の受付は2024年8月から始まり、実際の支給は2024年9月に開始されました。支給されたデジタル通貨は、受給者の居住地域内でのみ使用可能で、使用期限は6カ月と定められています。
国内ではまだまだ一種のクーポンのような受け取り方をされている感が強い「デジタル地域通貨」ですが、今後は行政の支援を直接市民に届けるためのインフラとして発展する可能性があるかもしれません。
お住まいの自治体が電子地域通貨アプリをスタートしている場合、まずはインストールしてみるのもよいでしょう。