かつて公共交通機関などで提供されていた無料のフリーWi-Fiが、続々とサービス終了していることをご存じでしょうか?
たとえば、かつて東京メトロでは1回3時間までのフリーWi-Fi「Metro_Free_Wi-Fi」が、車両内で提供されていました。電波の届きにくい地下鉄で便利な回線でしたが、2022年6月に車両内での提供を終了し、2025年現在はごく一部の駅でのみ利用可能となっています。
このようにサービス終了が相次ぐフリーWi-Fi。携帯キャリア各社から大容量通信に対応する通信プランがリリースされ「データ無制限」も決して珍しいものではなくなってきた中で、フリーWi-Fiはすでに「オワコン」なのでしょうか? 具体的に見ていきましょう。
相次ぐ「無料Wi-Fi」「フリーWi-Fi」の終了

冒頭でも述べた通り、公共交通機関を中心に、無料Wi-Fiサービスの終了が加速しています。先述した通り、東京メトロは2022年6月に車内Wi-Fi「Metro_Free_Wi-Fi」を終了。そのほか、都営バスは2021年11月に「Toei Bus Free Wi-Fi」、東武鉄道では2022年9月に「TOBU FREE Wi-Fi」、小田急電鉄も小田急ロマンスカーで提供する「odakyu Free Wi-Fi」を2024年4月に終了しています。
なお、公共交通機関以外でも、2022年3月にはセブン&アイ・ホールディングスが運営する「7SPOT」、同年7月にはファミリーマート「Famima_Wi-Fi」を終了。Wi-Fiサービスの廃止が続々と進んでいるといっても過言ではないでしょう。
これらのサービスは当初、訪日外国人観光客の増加や東京オリンピック開催を見据えて整備されましたが、コロナ禍以降の利用者減少や通信環境の変化を受け、東京五輪後にサービス終了を決める事業者が続出しているのが現状です。
フリーWi-Fiはオワコン?無料Wi-Fiの終了が続く理由は?
公共機関のフリーWi-Fi終了が相次いでいる理由には「5Gの普及」や「東京五輪でのインバウンド客による需要増加を見越し、通信インフラを整備していた事業者がそもそも多かった」ことなどが挙げられます。
都市圏における5Gの普及
先にご紹介した公共交通機関の無料Wi-Fiの廃止に関しては、小田急電鉄や東京メトロなど首都圏の事業者による廃止が目立つことが特徴的です。首都圏では4Gよりも極めて高速な「5G通信」の普及が進んでおり、3G回線などが利用されていた時代に比べて相対的に無料Wi-Fiの魅力が薄れてきている側面はあるでしょう。

この記事をお読みの方の中にも、5Gが全国的に普及したうえで「モバイル通信の使い放題」サービスに加入すれば、自宅の固定回線は不要ではないか?と考えている方もいるのではないでしょうか。
無料Wi-Fiの魅力が相対的に薄れるくらい、モバイル通信が「一般的な用途では十分」な速度となり、使い放題プランや大容量プランも充実している状態となったと言えるでしょう。
東京五輪におけるインバウンド向けのインフラ整備の役割を終えた
そもそも公共交通機関における無料Wi-Fiサービスは、東京オリンピック・パラリンピック2020を見据え、「インバウンド向けの通信インフラ整備」を目的にサービスが拡大されてきた側面があります。
たとえば2014年時点では全国のWi-Fiスポットは約4万カ所であったものが、五輪向けのインフラ整備が各地で進んでいた2018年時点では約14万カ所まで拡大していました。しかし、実際には東京五輪は新型コロナの影響で2021年に開催延期されたうえ、無観客などの措置がとられました。
東京五輪で思ったようにインバウンド需要を得ることができなかったため、公共交通機関や大企業では「無料Wi-Fiは、東京五輪時点ですでに役割を終えた通信インフラであり、もう不要である」と判断を下したものと推察されます。
「提供事業者との契約終了」
無料Wi-Fiを提供していた駅や電車、バスなど交通機関の事業者は「提供事業者との契約終了」を、サービス提供の公式な理由としているケースが多く見受けられます。つまり、2021年の東京五輪終了後、契約期間を更新しないことを社内で決定したうえで、残っていた契約期間を消化してサービス終了している事業者が一定数あると言えるでしょう。
実際、東京メトロの「Metro_Free_Wi-Fi」も、訪日外国人数の増加や東京オリンピック・パラリンピックの開催を受けた施策でしたが、コロナ禍による訪日外国人の減少などを踏まえ、提供事業者との契約更新を見送ったとされています。
「フリーWi-Fi」「無料Wi-Fi」に期待される今後の役割とは?
一方「無料Wi-Fi」自体が完全に消滅したわけではなく、一定の需要は今後もあり続けると見られます。今後期待される役割をご紹介します。
災害時のインフラ
無料Wi-Fiは、災害時の重要な通信インフラとしての役割が期待されています。たとえば、「00000JAPAN(ファイブゼロジャパン)」という災害時にWi-Fiを開放するサービスは、2023年5月から通信障害時にも発動されるようになりました。災害時や通信障害時に、人々が情報を得たり、安否確認を行ったりするための重要な手段として、無料Wi-Fiの役割は今後も重要です。
インバウンド観光客向けのサービス
国内で5G回線などをすでに利用している方にとっては、多くの場合、無料Wi-Fiの魅力が薄いものに思えるかもしれません。しかしインバウンド観光客にとっては、やはり貴重な通信インフラになり得る可能性があります。
たとえば2025年現在は、円安で訪日外国人が急増しています。一方で訪日観光客全員が、出国前に日本で利用できる海外SIMを購入したうえで来日しているとは限らないでしょう。よって特に観光地では、インバウンド観光客向けのサービスとして無料Wi-Fiは根強く残ると考えられます。
山岳地域などにおけるインフラ整備
都市部では5Gの普及が進んでいますが、山岳地域などの通信環境が整っていない場所では、無料Wi-Fiが重要な通信手段となる可能性があります。たとえばKDDIは日本百名山を中心とした100カ所の山小屋に「山小屋Wi-Fi」として衛星通信サービス「Starlink」を設置。こちらは有料Wi-Fiですが、電波の届きにくい山小屋でもネット通信が可能になりました。
かつてはモバイル通信もWi-Fiも使えなかったような地域でのネット環境整備において、衛星インターネットサービスと無料Wi-Fiの組み合わせが重要な役割を果たすかもしれません。
夏フェスなど大規模イベントにおける通信インフラ
新たな需要としては、大規模イベントにおける通信インフラとしての「無料Wi-Fi」に注目が集まる可能性もあります。
まず大規模な野外イベントでは、多くの人が局所的に集中することで通信環境が不安定になることがあります。そこで注目されているのが、「スターリンク」に代表される衛星インターネットを活用した公衆Wi-Fiソリューションです。

たとえば2023年の「JAPAN JAM 2023」では、来場者の約2割にあたる約3万人がスターリンクを活用したフリーWi-Fiを利用し、同行者との連絡や電子決済などを快適に利用。翌年の「ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2024」でも引き続きスターリンクが導入されました。
総じてフリーWi-Fiは「公共交通機関でのサービス」や「東京五輪を見据えたインバウンド施策」としては役割を終えたものの、2025年現在は「社会インフラ」へと役割が転換されつつあり、災害対策や地域格差是正、観光振興などの分野で必要性が高まっています。
10年代頃の「フリーWi-Fi」はオワコンと言えるかもしれませんが、フリーWi-Fiそのものが「オワコン」とは言えず、今後もその活用例に注目が集まるサービスと言えるでしょう。
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