
スーパーやドラッグストア、コンビニなど生活圏内でお馴染みとなった「セルフレジ」。人手不足の解消や非接触ニーズの高まりを受けて急速に普及し、筆者自身も、有人レジとセルフレジが選べる場面ではついセルフレジを選んでしまいます。
一方、ネット上ではでは、セルフレジに対する「使いにくい」「かえって時間がかかる」といった否定的な声も見受けられます。さらに海外では「セルフレジの失敗」を認め、有人レジへ回帰する動きも報じられています。
では、今あらためて注目される「有人レジのメリット」とは何でしょうか?
「客に労働をさせるのか」という憤り

セルフレジにも、「セミセルフレジ」と「フルセルフレジ」の2種類があります。
両者の主な違いは、基本的に「商品のスキャンを客がするかどうか」。セルフレジは顧客自身がスキャナーで商品をスキャンし、支払いまですべての精算処理を行うシステムです。一方、セミセルフレジは店員が商品をスキャンして金額を確定させ、顧客が支払い方法の選択と決済処理のみを行うハイブリッド型システムです。
また、反対派の間では、「なぜ正規の代金を支払っているのに、店員の仕事(スキャンや袋詰め)を客がしなければならないのか」という不満です。
「バーコードを探してスキャンし、きれいに袋詰めまでする。これだけの労力を客に強いるなら、その分値引きしてほしい」という声は少なくありません。特に大量の買い物をするファミリー層にとって、狭いサッカー台(袋詰めスペース)ではスキャン作業は苦行に近いものがあります。
また、お酒やタバコを買う際の年齢確認のためにいちいち店員の呼び出しを求める画面が表示されたり、重量の軽いものを買った場合、レジ側が認知できずに、「商品が入っていません」といったエラーが出てしまうことも。
結局は店員呼び出しボタンを押すことになり「無人」を謳いながら、完全には無人になりきれないシステムの中途半端さが、イライラを増幅させているといえるでしょう。
海外で再議論される「セルフレジ」のデメリット

アメリカやイギリスの大手小売チェーンでは、一度は全面的に導入したセルフレジを撤去したり、有人レジのレーンを増やしたりする動きが加速しています。
その大きな理由には、まず「顧客ロイヤリティ」があります。
「商品を買う」という行為において、店員とのちょっとした挨拶ややり取りが実は重要な顧客体験(UX)であったことに、企業側が気づき始めているのです。完全に無機質な店舗体験は、その店に行く理由を希薄にさせます。「どうせ機械相手なら通販でいい」と思われてしまえば、実店舗の存在意義そのものが揺らいでしまうのです。
またセルフレジ導入店舗は万引きが増えやすいという調査結果も、一部では存在しています。意図的な窃盗はもちろんですが、悪意のないスキャン漏れ(うっかりミス)も含め、在庫ロスが人件費削減効果を上回ってしまうケースが報告されています。「スキャンしたふり」を見抜くためのAIカメラなどの追加的な防犯対策も必要となり、経営面での課題が指摘されています。
なぜ今、「セミセルフレジ」が最強なのか

完全セルフの限界が見え隠れする一方で、完全に昔ながらの有人レジに戻すことにも課題があります。そこで注目されているのが、先程も紹介した商品のスキャン(登録)は店員が行い、精算(支払い)のみを客が精算機で行う「セミセルフレジ」方式です。
完全セルフレジには「万引き」や「スキャン漏れ」といった大きなリスクがあります。これを防ぐには、やはり人の目が必要です。
セミセルフレジでは、商品をスキャンしてカゴに移す工程を店員が行います。これにより、カゴの中身がすべて登録されたことが担保されます。店員の目があることによる「監視効果」により、魔が差すような万引きを未然に防ぐことができます。
セキュリティゲートや高価な監視AIを導入するよりも、人間が介在するほうが確実で、かつ接客という付加価値も残せるのです。
また完全な機械相手では操作がおぼつかない高齢者でも、最初のスキャン段階で店員と接します。「ポイントカードはお持ちですか?」といった声かけや、重いカゴをカートに乗せる手伝いなど、人間ならではのサポートが可能です。「機械に冷たくされた」という疎外感を抱かせず、かつ支払いの自動化による効率性も享受できるのです。
「適材適所」を見極める時代へ
オフィス街のコンビニや駅構内のキオスクなどでは、「数点の買い物」かつ「急いでいる客」がメインの場所では、引き続き完全セルフレジが強みを発揮することは間違いありません。ここでは「会話」よりも「1秒でも早い退店」が最高のサービスだからです。
一方で、食品スーパーやドラッグストアのように「点数が多い」「バーコードのない生鮮食品がある」「年齢確認が必要な商品が多い」業態では、完全セルフレジの限界は明白です。こうした店舗では、セミセルフレジを主軸にしつつ、機械操作が全くできない客層のために一部を完全有人レジとして残す運用が現実的でしょう。セルフレジというテクノロジーは、すべての業態に適しているわけではない――それが、今の小売業界で明らかになりつつあります。
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