最近、飲食店に入るとまず店員さんから「ご注文はタッチパネルでお願いします」あるいは「こちらのQRコードを読み込んで注文してください」と案内されることが当たり前になりつつあります。

一方、こうしたスマホ注文に対する不満の声も少なくありません。
たとえば11月28日放送の「酒のツマミになる話」(フジテレビ系)では、お笑いコンビ・千鳥の大悟さんがタッチパネル注文に「(店員に)直接、『これ』って頼みたい」と苦言。「(店員の)『何にします?』の顔で飯ってうまならん?」と持論を語っていました。
さらに店側にWi-Fiが設置されていない場合もあり、「客の通信に店がただ乗りしているのでは」と感じる人もいるでしょう。
また、情緒面だけでなく、機能面でのストレスも多くの人が経験しています。
たとえば「とりあえずビール」と頼みたいのに、まずトップ画面から「ドリンク」を選び、「ビール」のタブを探し、さらに「生中」を選択してカートに入れ、送信ボタンを押す必要があります。口頭なら2秒で済む注文に何段階もの操作を求められるのです。
加えて「そもそもなぜ自分の私物端末を、注文用デバイスとして店側に実質的に提供しなければならないのか」という、客側の不満の声にも根強いものがあります。
飲食店のスマホ注文は「紙のメニュー」に戻すべきなのでしょうか?
「なぜ客のスマホを使わせるのか」

「QRコードを読み込んで、客自身のスマートフォンで注文させる(モバイルオーダー)」形式については、「なぜ店側の業務効率化のために、客の私物(スマホ・バッテリー・データ通信量)を使わなければならないのか」という不満が根深く存在しています。
タッチパネル端末を各テーブルに設置するには多額の導入コストがかかります。それを削減するために、端末(スマホ)を客に用意させる手法は、店側にとってはコストダウンの極みですが、客側にとっては負担の転嫁に他なりません。
本来、飲食店における「注文」とは、店員がオーダーを取りに来て、厨房に伝えるという「サービス(労働)」の一部でした。それを客自身にやらせるということは、スーパーのセルフレジと同様、客に「労働」を担わせている構図とも言えます(シャドーワーク)。
それにもかかわらず、価格に従来どおりのサービス料が含まれていたり、料理の価格が変わらなかったりすることに対し「サービスが低下しているのに価格は据え置きなのか」という厳しい目が店舗側に向けられてしまうのです。
「メニューが見づらい」「つながらない」
その他の問題点としてまず挙げられるのが、視認性と操作性です。若者であれば直感的に操作できるUI(ユーザーインターフェース)であっても、高齢者や機械操作が苦手な層にとっては、注文そのものが心理的なハードルになりかねません。「注文するのが面倒だから、もう一杯頼むのをやめた」という機会損失も、店側が気づかないところで頻発している可能性があります。
さらに深刻なのが、通信環境の問題です。地下の店舗などでキャリアの電波が入りにくく、なおかつ店側がフリーWi-Fiを提供していない場合、メニューページを開くのにも数分かかり、注文ボタンを押しても「読み込み中」のマークがぐるぐると回り続ける……。これでは、「好きなタイミングで注文できる」というデジタルのメリットが完全に相殺され、むしろストレスだけが蓄積されてしまいます。
人手不足の時代における「接客」という付加価値

もちろん、飲食店側がこうしたシステムを導入する背景には、深刻な「人手不足」という切実な事情があります。求人を出しても人が集まらず、限られた人数で店を回すためには、注文業務をデジタル化し、スタッフを調理や配膳、片付けに集中させることは、店を存続させるための「苦渋の決断」であることも事実です。
しかしスマホ注文やタブレット注文は「効率的」である一方、人間ならではの温度感のある接客には対応しきれず、店舗側にとっては知らず知らずのうちに、機会損失が生じている可能性もあります。
たとえば「今日はいいレバーが入ったんですよ、炙りでどうですか?」「この料理には、実はこの日本酒が合うんです」という提案は、データベース化された「おすすめ機能」やAIのリコメンドでは再現しにくい、人間ならではの「文脈のあるコミュニケーション」です。
効率化のためにタッチパネルを導入した結果、「あの店員さんに会いたいから行く」「あの店の雰囲気が好き」という情緒的な結びつきは希薄になります。
結果として、より安くて便利なチェーン店との差別化が難しくなり、価格競争に巻き込まれていくリスクもあります。
「不便益(不便であることで得られる益)」という言葉があるように、手間ひまをかけること、人と人が言葉を交わすことの中にこそ、これからのAI時代における「外食の本当の贅沢」が隠されているのかもしれません。
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