転職活動中にChatGPTなどの対話型AIを使って企業の評判を調べるのが、当たり前になりつつあります。しかし、「AIに聞いたら気になる会社の悪い評判ばかり出てきた」「この情報を信じて応募をやめてもいいのだろうか」と不安に感じた経験はないでしょうか。
実際に、AIの回答がきっかけで応募を取りやめたり選考を辞退したりする「サイレント辞退」が起きている実態が、調査結果として発表されました。この記事では、株式会社LANYが実施した調査をもとに、転職活動におけるAI利用の実態と、その情報にどう向き合えばよいのかを整理します。
この調査は、直近1年以内に転職活動を行い、対話型生成AIで企業情報を調べた経験がある25〜45歳の111名を対象にしたものです。「AIで企業を調べたことがある人」に絞った回答である点を踏まえて、結果を見ていきましょう。

AIはいつ使われている? 採用担当が知らない選考の裏側
転職活動において、求職者はどのタイミングでAIを使って企業情報を調べているのでしょうか。調査結果(複数回答)によると、上位は選考の初期段階に集中しています。
スカウトメールやオファーを受け取った後:53.2% 応募するかどうか迷っていた時:40.5% 面接の前:38.7% 求人情報を見つけた直後:37.8%
最も多いのは「スカウトメールやオファーを受け取った後」で、半数を超えています。これは、採用担当者が候補者と直接コミュニケーションを取る前に、すでに応募者のなかでAIによる情報収集と判断が進んでいることを示しています。「スカウトを送っても反応がない」という状況の裏で、候補者がAIの回答を見て応募するかどうかを決めている可能性があるのです。
約9割がAIの回答で選考辞退、ネガティブ情報のインパクト
AIで企業情報を調べた際、ネガティブな情報に触れる人は少なくありません。調査では、111名のうち92.8%が「その企業に対してネガティブな印象を持つ情報を目にしたことがある」と回答しました。
具体的にどのような情報が表示されたのか、複数回答の結果(n=103)を見てみると、働き方や待遇に関する内容が上位を占めています。
残業が多い・ワークライフバランスが悪いという情報:63.1% 社風や職場の人間関係に関するネガティブな情報:35.9% 給与水準が低い・待遇面が良くないという情報:30.1% 離職率が高い・人の入れ替わりが激しいという情報:27.2%
そして、こうしたネガティブな情報が、求職者の行動に大きな影響を与えています。「AIで調べた企業情報がきっかけで、応募の取りやめや選考の辞退をした経験はあるか」という問い(n=111)に対し、実に87.4%もの人が「ある」と回答しました。AIの回答ひとつが、応募先候補から企業をふるい落とす要因になっている実態がうかがえます。
辞退の決め手は「他社比較」、AIの回答で注意すべき点とは
では、具体的にどのような情報が辞退の引き金になっているのでしょうか。応募の取りやめや選考辞退を経験した人(n=97)に、その決め手となったAIの情報の特徴を尋ねた結果(複数回答)は次のとおりです。
他社との比較で不利な評価をされていた:69.1% ネガティブな口コミや退職者の声が引用されていた:40.2% 企業の評判やイメージに関するネガティブな記述があった:27.8% 給与・待遇に関する不利な情報が提示されていた:25.8% 情報が抽象的で企業の実態や魅力が伝わらなかった:19.6%
最も多かったのは「他社との比較で不利な評価をされていた」で、約7割にのぼります。AIは複数の企業を並べて比較形式で回答することがあり、その際に相対的に見劣りするような書かれ方をされると、求職者の印象を大きく左右することがわかります。
また、「ネガティブな口コミや退職者の声が引用されていた」も4割を超えており、口コミサイトなどから要約された断片的な情報が、企業全体の評価として受け取られてしまうリスクを示しています。さらに、約2割の人が「情報が抽象的で企業の実態や魅力が伝わらなかった」ことを挙げており、明確なネガティブ情報だけでなく、魅力が伝わらないこと自体も辞退の理由になり得ることがわかります。
AIの情報は不正確? 9割以上が「事実と違う」と実感
「AIが教えてくれたこの情報、本当に正しいのだろうか?」と疑問を感じたことがある人は多いようです。今回の調査では、AIが提示した企業情報に対して「事実ではない・正確ではない」と感じた経験がある人は91.5%(n=94)にものぼりました。
どのような点が不正確だったのか(複数回答、n=86)を見てみると、「すでに変更されている古い情報が記載されていた」(58.1%)が最も多く、次いで「存在しない制度や福利厚生が記載されていた」(41.9%)となっています。AIが事実に基づかない情報を生成する「ハルシネーション」と呼ばれる現象が、ここにも表れています。
しかし、多くの人はAIの情報を鵜呑みにしているわけではありません。辞退を決める前にAIの情報が正しいか確認したかという問い(n=97)では、「確認せず、AIの情報をそのまま判断材料にした」と答えたのはわずか3.1%でした。残りの96.9%は、企業の公式サイトや口コミサイト、採用担当者への質問など、何らかの手段で裏取りをしています。
多くの人が裏取りをしているにもかかわらず、87.4%が辞退に至っているという事実は、「一度抱いたネガティブな印象や不安は、事実確認をしても簡単には拭えない」という心理を示唆しています。AIの情報だけで判断していなくても、最初に受けた印象が最終的な意思決定に強く影響してしまうのです。
悪いことばかりじゃない? AIが新しい企業との出会いを生む可能性
ここまでAIがもたらすリスク面に焦点を当ててきましたが、調査ではポジティブな側面も明らかになっています。「転職活動中に対話型生成AIに相談した結果、自分では思いつかなかった企業や知らなかった企業を提案された経験はあるか」という質問に対し、94.6%が「ある」と回答しました。
AIは、知っている企業を深掘りするツールとしてだけでなく、未知の企業と出会うための新たなチャネルにもなっているのです。
AIに提案された企業に対し、実際にどのような行動をとったか(複数回答、n=105)という質問では、「実際にその企業に応募した」という回答が31.4%に達しました。約3人に1人が、AIの提案をきっかけに応募という具体的なアクションを起こしています。「特に興味を持たなかった」はわずか1.0%で、ほとんどの人が何らかの形で情報収集を続けていることがわかります。
AIは選考辞退を促すリスクをはらむ一方で、これまで接点のなかった求職者に自社を知ってもらう機会を創出する可能性も秘めているのです。
まとめ:転職でのAI利用、どう向き合うべきか
今回の調査で浮き彫りになったのは、AIが提示する情報を多くの人が自ら検証しつつも、一度抱いたネガティブな印象を払拭できずに応募や選考を辞退しているという実態です。調査分析者も「求職者はAIの情報を自ら検証しつつも、一度抱いたリスクを懸念して応募前に辞退するなど、意思決定において多大な影響を受けている」と指摘しています。
転職活動でAIを利用する際は、AIの回答が必ずしも正確ではないこと、そして一度ネガティブな情報に触れると自分の判断に強く影響が残る可能性があることを理解しておく必要があります。AIは便利な情報収集ツールですが、あくまで参考情報の一つと位置づけ、公式サイトや面接など、複数の情報源から総合的に判断することが、後悔のない選択につながるでしょう。
出典:株式会社LANY
参考:エン・ジャパン「8000人に聞いた『選考辞退』の実態調査」(日本の人事部)、レバレジーズ「AI面接導入に関する実態調査」(PR TIMES)、マイナビニュース



