00年代としては高速なデータ通信を、電話回線を用いて実現していた『フレッツ・ADSL』。主に00年代に日本全国で広く利用されていたインターネット接続サービスの1つですが、00年代と比べ、2025年現在は技術の進化と市場の変化が激しさを増しているのも事実。サービスの完全終了が2026年に迫っています。

NTT東日本は2025年1月31日をもってサービス終了済み。NTT西日本も2026年1月31日をもってフレッツ・ADSLのサービスを完全終了します。これに伴い、新規受付は2023年7月31日で終了しています。

すると光回線がカバーしきれていない地域で、フレッツADSLを利用していたユーザーは「ADSL難民」になる可能性もあります。今後はどのような接続方式で、今後インターネットを利用すれば良いのでしょうか?具体的に見ていきましょう。
光回線普及の陰で残る「ADSL難民」
光回線の人口カバー率は大きく広がっているものの、地域によっては95%を下回ります。たとえば2022年には当時の岸田首相が光ファイバーを2027年度末までに99.9%の世帯で使えるように指示するなど、国内の通信インフラにはまだ課題が残されています。
ちなみに2022年時点では5G普及率にも課題が残っており、普及率は30%台に留まっています。
通信手段としていまだにADSLを利用し続けている世帯もあります。利用者数のピークは2005年の約1,450万回線。一方、2021年には約20分の1の約75万回線まで減少していますが、それでも一定の需要はあったと言えるでしょう。
特に山間部では光ケーブル敷設コストが高騰しやすく、人口カバー率の「残された一部」を光回線が担保するのは簡単なことではありません。つまりADSLは光回線の人口カバー率から漏れてしまっている層にとって、貴重な通信手段であったことは間違いありません。
固定電話の回線を利用する「安心感」
ADSLの貴重さを裏付けているのが、固定電話の回線を利用した通信技術であるという安心感です。

まずADSLには「電話共用タイプ」と「ADSL専用タイプ」があり、「電話共用タイプ」であれば電話加入権を所有していることとなります。
つまり電話共用タイプのADSLは「固定電話」「ADSLによるインターネット」がどちらも利用可能です。その大元の電話回線はユニバーサルサービスとしてNTTが提供しているため、多くのユーザーにとって、ADSLは安心感があるサービスだったと言えるでしょう。
そしてフレッツ・ADSLの完全終了は、固定回線に紐づき、光回線の非カバーエリアでも安心して使える接続方式の終了という意味で「もったいなさ」があるとも言えます。
地域間デジタルディバイドの拡大が懸念される
先述した通り、光ケーブルは山間部では引きにくく、地理的な理由で光回線が依然として普及が進んでいない地域もあります。そのため、都市部と地方の間の『デジタルディバイド』をさらに拡大させる可能性があるでしょう。
なお地域間デジタルディバイドとは、同じ国内の異なる地域間で生じる情報通信技術(ICT)の利用や環境に関する格差のことです。ADSLが2025年現在でも貴重な通信手段として機能している地域では、一刻も早く代替の通信手段が定着することが期待されます。
ADSL終了後に有力視される「光回線以外」の通信の選択肢
00年代以降、ADSLは通信速度などの面で他の通信手段に徐々に代替されるようになりました。そして特に動画ストリーミングやオンラインゲームといった高帯域幅を必要とするサービスの普及に伴い、いっそう需要が減少しました。また、通信事業者にとっても、ADSLの維持管理コストが増加し、効率的な運用が難しくなっていました。
とはいえフレッツ・ADSLの終了は、特に地方や都市部以外のエリアでインターネット接続を利用しているユーザーに大きな影響を与える可能性があります。光回線が未整備の地域では、代替手段が限られているため、インターネット接続が困難になるリスクがあります。
ではADSL終了後にはどのような接続方式が有力となるのでしょうか?
モバイル通信
まず考えられるのは、テザリングを利用して、スマホ回線をWi-Fi代わりにする方法です。その理由には日本の4G接続率の高さが挙げられます。
2022年時点で日本の4G接続率は99.4%と言われており、この接続率は他の先進国と比較しても高い水準にあり、光回線の非カバーエリアにおいても「モバイル通信」なら接続できる可能性は十二分に高いです。
この場合、デジタルディバイドの真の障壁は「ADSLが終わること」ではなく「光ファイバー網の非カバーエリアをモバイル通信ならカバーできるにも関わらず、その居住エリアの人がモバイル通信の無制限プランに加入しているとは限らないこと」にあるのかもしれません。

たとえば楽天モバイルの「Rakuten最強プラン」はデータ無制限。スマホをテザリングすればPCなどに繋ぐことが可能です。「毎日がっつりネットをするわけではない」といった場合はこれで十分でしょう。
こうした安価なデータ無制限プランが大手キャリアにも広がることは十二分に期待されます。
なお、「Rakuten最強プラン」は5Gに対応していますが、5G自体はまだ都市部でしか対応していないという場合も少なくありません。その場合、4G回線での利用となります。
衛星インターネット
もう一つの有力な選択肢として、衛星インターネットが挙げられます。たとえばSpaceXが提供するStarlinkは、低軌道衛星を利用して直接ブロードバンド接続を提供するサービスです。
日本ではKDDIがStarlink衛星との直接通信サービスを2025年春から提供開始するとしています。これにより、山間部や離島など、これまで通信環境が十分でなかった地域にも高速インターネットを提供することが可能になるでしょう。
2030年頃には「6G」が光回線の非カバーエリアをカバーする?
なおADSLの終了に伴う「光ファイバー網の非カバーエリアの通信の問題」が取りざたされるのは、あくまで一過性の問題と言えるかもしれません。
この問題は本稿の中でも触れたように、衛星インターネットの普及で根本的に問題が解決される可能性があります。またモバイル通信が使えるエリアならば、データ無制限プランさえより普及すればテザリングが解決策になる可能性もあります。
そして将来的には、第6世代移動通信システム(6G)の登場により、さらなる通信環境の改善が期待されています。6Gは5Gと比べて通信速度が10倍になると想定されており、2030年頃の実用化を目指して研究開発が進められています。6G回線が普及した暁には、山間部や海上、宇宙空間までをカバーする「超カバレッジ拡張」の実現が期待されています。
これらの技術革新により、現在のADSL利用者や光回線が届かない地域の人々にも、将来的には高速で安定したインターネット環境が提供される可能性が高まっています。
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