
「ChatGPT、Claude、Gemini……結局どのAIが自分の仕事に一番合っているのか分からない」。そんなモヤモヤを抱えているビジネスパーソンは少なくないはずです。各サービスを試すにはそれぞれに登録し、場合によっては月額数千円の有料プランに加入する必要があります。しかも使い比べるには、同じ質問を各サービスに投げて、回答を自分で並べて比較するという手間がかかります。
この面倒を一気に解消しようとする新機能を、意外なプラットフォームが打ち出しました。ビジネスSNSのLinkedInです。
LinkedInの新機能「Crosscheck」とは何か
LinkedInが2026年4月20日(現地時間)に公開した「Crosscheck」は、OpenAI、Anthropic、Google、Microsoftをはじめとする複数企業のAIモデルを、LinkedIn上でまとめてテストできる機能です。LinkedIn Labsが開発した実験的なプロダクトとして位置づけられており、現在、米国のLinkedIn Premiumユーザー向けに順次展開されています。
最大の特徴は「ブラインドテイスティング方式」を採用している点です。ユーザーがプロンプト(質問文)を入力すると、異なる2つのAIモデルがそれぞれ回答を生成します。この時点では、どちらの回答がどのモデルによるものかは表示されません。ユーザーは純粋に「どちらの回答がより良いか」を選び、選択した後に初めて各回答のモデル名が明かされる仕組みです。
LinkedInのChief Product OfficerであるHari Srinivasan氏は、この機能をAIモデルの「blind taste test(目隠しの味比べ)」と表現しています。
「追加料金なし・回数無制限」がもたらすインパクト
Crosscheckが注目に値するのは、複数の主要AIモデルを追加料金なし・チャット回数の制限なしで利用できる点です。
通常、高性能なAIモデルを使おうとすると、それぞれのサービスで有料プランに加入する必要があります。たとえばChatGPT Plusは月額20ドル(約3,000円)、さらに上位のProプランは月額200ドル(約3万円)です。Perplexity AIのProプランも月額20ドルかかります。複数のサービスを併用すれば、AIだけで月に数万円の出費になることも珍しくありません。
Crosscheckなら、LinkedIn Premiumの料金(Premium Careerで月払い39.99ドル・年払いなら月換算約29.99ドル、Premium Businessで月額59.99ドル)だけで、OpenAI・Anthropic・Google・Moonshot AI・Mistral・Amazonなど幅広いモデルの回答を、トークン制限を気にせず何度でも試せます。もちろんLinkedIn Premiumはそもそも求人検索やビジネスネットワーキングのためのサービスなので、既に加入している人にとっては実質「おまけ」としてAI比較がついてくる形です。
制約もある——画像生成やファイル操作は非対応
ただし、Crosscheckはテキストベースのプロンプトのみに対応しています。画像生成、ファイルのアップロード、各AIプラットフォームが独自に提供しているツール連携といった高度な機能は使えません。あくまで「テキストで質問し、テキストで回答を比べる」ためのツールです。
Srinivasan氏自身もCrosscheckはまだ「early product(初期段階の製品)」であり、「there’s work to do to make it faster and add more models and question types(高速化やモデル・質問タイプの追加など、やるべきことがある)」と認めています。
ブラインド方式がAI業界にもたらす意味
Crosscheckのもう一つの注目ポイントは、業界別のリーダーボード(ランキング)を設ける計画がある点です。各業界のユーザーがどのモデルを高く評価しているかが可視化されるため、「マーケティング職にはこのモデルが強い」「エンジニアにはこちらが好まれる」といった傾向が明らかになる可能性があります。
LinkedInは世界最大のビジネスSNSであり、ユーザーのプロフィールには職種・業界・スキルといった情報が紐づいています。この情報と組み合わせることで、他のAI比較ツールでは得られない「職種別のAI評価データ」が蓄積されるわけです。
匿名データはAI企業に共有される
一方で、気になるのはデータの取り扱いです。LinkedInは「匿名化されたデータをモデル開発元に共有し、異なる職種間でモデルがどう評価されているかを理解する助けにする」と説明しています。個人を特定できる情報は共有しないとしていますが、自分の使い方がAI企業の改善に活用されるという点は認識しておくべきでしょう。
日本のユーザーはいつ使えるのか
現時点でCrosscheckが利用できるのは米国のLinkedIn Premiumユーザーのみです。LinkedInは今後「more countries and free users(より多くの国と無料ユーザー)」への拡大を予定しており、時期については「soon(まもなく)」としていますが、具体的な日程は明らかにされていません。
日本のLinkedInユーザー数は約300万人とされ、米国の約2.3億人と比較すると普及率に大きな差があります。そのため、日本がどの程度優先されるかは未知数です。ただ、LinkedInが日本語を含む多言語対応を進めていることを考えると、主要市場への拡大は時間の問題と見るのが自然でしょう。
「AI選び」の民主化が始まった
Crosscheckの登場は、AIモデルの評価が「テック好きの個人ブログ」や「専門家のベンチマーク」から、一般ビジネスパーソンの日常的な使い比べへと移行する転換点になるかもしれません。
これまでAIモデルの優劣は、ベンチマークスコアや専門家のレビューによって語られることがほとんどでした。しかし、実際のビジネスシーンで「自分の仕事に使える回答」を返してくれるかどうかは、スコアだけでは判断できません。ブラインド方式で先入観なく比較し、しかもその結果が業界別に集計されるというアプローチは、AI選びを「感覚」から「データ」に変える可能性を秘めています。
テキスト比較だけでは各AIの真価は測りきれませんし、まだLinkedIn Labsの実験的な機能です。それでも、ビジネスSNSという独自のポジションを持つLinkedInだからこそ実現できるこの取り組みは、今後のAI市場の勢力図に影響を与える一手になりそうです。


